第四十五話 潜伏
しばらく捜索していたが、全く足取りが掴めない。
組合の冒険者達も警戒に当たっていてこれなのだから、隠れる技術はかなりのものをお持ちのようだ。
「ムーラン、そろそろノアを探そう。合流場所と時間を決めとけばよかったな」
「エリクさんが呼べば来そうですけどね。
夜と言っても、深夜でもないですし大声で呼んでみては?」
「試してみるか。おーい、ノアー!」
夜の街に声がよく響く、飛んでくるかと思い上を見上げるがどうにも来る気配はない。
よく考えてみれば、飛んでくるときノアは結界を張って、人に見られない様にしているのだから見えるはずがなかった。
数時間前に受けたものと同様の衝撃を、後頭部に感じる。
振り向いてみれば、ノアがやれやれといった表情で、結界を解除しているところだった。
「もっと安全に降りられないのかノア」
「結界が球体なんだもの。こんな狭いところに降り立ったら、それはどこかにぶつかっても仕方ないとは思わない?」
「別の路地があるだろ。俺にぶつかるのを、ちょっと楽しんでないか?」
「そーんなことないわよ」
機嫌の良さそうな夜ノアを寛容に受け止めつつ、俺は今後の策を練る。
捜索中に何かあったかとノアに聞いたところ、一度それらしき嫌な気配を感じた時はあったらしい。
しかし即座に攻撃するほどの確信は得られず、様子を伺ったそうだ。
すると突然その気配が消え、人通りのある道を挟んでまた奥の路地へ移動したらしいのだ。
そのことにノアが気付いた時には、また他の路地へ移動したのか、気配を見失ってしまったらしい。
「瞬間移動というのは、面倒ですね」
「そう。あの感じからすると、高速移動では無いわね」
ムーランからすると、他にも様々な能力を見た事があるためか、そこまで驚きがなく。
ノアからすると、自分の能力をいくつか思い出してきた中で、瞬間移動は割と許容範囲内な能力なのかもしれない。
俺が共感できるのは、ただ対抗策が思いついていないことだけらしい。
「強くは無いと思いますけど、捕まえるのは難しそうですね」
「この辺一帯吹っ飛ばす、って訳にはいかないからな。
おい、ムーラン。その手があったか、みたいな顔をするな」
ノアが強大な力を持っているため、俺には範囲攻撃という選択肢を思考に置いておける。
しかしここは市街地、確実に甚大な被害が出るので、この場面でその選択肢は有って無いような物だ。
一気に一面を焼き尽くしでもしないと、いつまでも捕まえられる気がしない。
「被害を出さずに、一面更地にでもできないかしら」
「住居が密集しているからな。家にも人にも被害を出さずに、全体攻撃は無理がある……
あぁでも、そうか」
「何か思い付いたんですか、エリクさん」
「ムーラン、操れる土の量は有限か?」
「このビルタ区を土の塊にするぐらいの量は動かせますが」
「十分だ。この市街地部分だけを土で潰すとしたら、どれくらいの時間がかかる?」
「10秒あれば可能かと」
「ちょっとエリク、さっきと言ってることが違うじゃない」
「規模がそのぐらいってだけだ。
今から作戦を説明する、無理そうな点は言ってくれ。
ノアにも協力してもらうけど、今回の作戦はムーランの働き次第になる」