第四十話 結論
「見守るって何?」
ノアがムーランにまず質問を投げた。
「ノアさんの存在は危険を孕んでいます。それはリエイから聞かされたんでしょう?」
「えぇ。リエイと会って帰ってきたとき、酒場の一階にはあの赤い箱が置いてあった。あなたは私とエリクの会話を盗み聞きしていたようね」
「二階での会話もおおよそは」
「変に情報は隠さなくてもいいようね。
それで? 私の破壊と再生の神の部分が出てこないように監視するってことなのかしら。あなたの目的の『見守る』っていうのは」
ムーランは少し返答に困っている。言葉選びに悩んでいるようだがそう時間は食わなかった
「違います。ノアさんは覚えていないようですが、私はノアさんを人間でいうところの姉のように慕っていたのです。
だから極めて人間的、というか……なんでしょうね。
あなたが破壊と再生の力に目覚めたとき、少しでも後悔の無いように使って頂きたいのです。私はあなたの助けになるのならそれでいい。記憶も力も戻った時に笑っていてくれるのなら、それだけでいいんです」
ムーランの言葉にはこれまでにない重みが感じられた。真偽の判定は俺の勘でしかないが、今までとは違うはっきりとした口調からムーランの芯の部分を少し覗けたような気がする。だが俺は口を挟まない、もう選択権はノアに渡してあるのだから。
「私は何も覚えていないわ。あなたの慕っていたノアは私じゃない」
ノアはそのまま廊下の方へ歩き始めた。廊下へ一歩踏み出して立ち止まり、振り返らずに言った。
「期待するのはほどほどにしてね」
階段に向かって歩き始めたノアの背中に俺は一声かける
「ノア、今日の夕飯は三人前か?」
「うん」
軽く返事をしたノアは一階へと降りて行った
「許されたみたいだな」
「そういうことで合ってますよね? 言葉の意味間違えてませんよね?」
「安心しろ。俺とお前を二人きりにした時点でノアの信用は固まったってことだ。
三人目はお前だ、ほら手伝いに行くぞ」
一階に降りるとノアは今ある食材を確認していた。肉や魚が恋しいが、保存のきく食材たちはまだ貯蓄に余裕がありそうだ。
「ノア、俺は病院に見舞いへ行ってくる。ムーランと夕飯を作っていてほしいんだけど、頼めるか?」
「分かった。今夜は帰ってくることにしたんだね」
「あぁ、じゃあいってくる」
ノアとムーランに手を振られながら大通りを目指す。そこから病院まではまだしばらくの時間明るいが、ノアとムーランを待たせているので少し速足で通り抜けていった。