第三十九話 判断
「ノアとお前は、二人でリエイに挑んであの赤い箱に封印されたのか? まだもう一人居ますなんて言わないよな」
「いえ、もういません。途中で加勢したエレを含め、あの戦いは四人で完結しているはずなので」
「ふむふむ。ま、そんなところで本題だ。聞きたいことは山ほどあるが、その時々に聞かせてもらおう」
ノアの周りの超常っぷりには慣れてきたと思っていた。だがまだ常識で量れない部分には勘が働きづらいもんだな。
それでもとりあえずこいつの目的はこの問答の中で見えた。俺は関わりたくないとやんわり伝えたいが、ノアはどうだろうか。覚えていないとはいえ、どう感じるかはノア次第だ。
「まずお前の目的は復讐や報復に類するものだと分かった」
「いえ、違います」
「え、違うの?」
「僕の目的はお二人と旅をすることです」
「ん~? ちょっとまてそれは協力関係……いやまぁ旅をする仲間も協力関係という言葉で合ってるのか」
「そうです!」
「なんだよ……何かを倒すとか手に入れる、みたいな最終地点は無いのか?」
「ノアさんの記憶が戻るまで同行して、その後は流れを見守ろうと思ってます」
俺はドサっとその場に座り込んだ。ここまで軽い調子で話していたが、これでも緊張と動揺で全身ガチガチに力が入っていたのである。ここまでノアと旅をしてきたとは言え、常識がアテにならない存在は行動が読めず、ぼんやり対応できるものではないからだ。
目的は旅の同行で、これは嘘ではないだろう。リエイを討つことが目的であれば今言うしかない。仮に旅の途中でリエイに遭遇した時、ノアが確実にムーラン側に付くか分からないからだ。そんな話を振られたら関わりたくないなと思っていたが。
もしこの話に裏の裏なんてものがあるのならもうお手上げだ。4万年前の出来事など確かめようがなく知りようもなく、価値観すら分からない。人智を超えてくれるなよ、ムーラン。
「そのぐらいなら……俺の指示を聞いてくれるのなら特に断る理由はない。あとはノアに訊いてくれ」
「ノアさん~」
「なんですか?」
風に髪をなびかせ、ノアは窓辺に佇んでいる。気付けばノアは夜ノアになっていた。容姿は変わっていないけれど、表情や動作そして室温を下げるような冷たい雰囲気が夜ノアを形作っている。窓の外はちょうど夕日が半分沈み、暗くなってきていた。
「エリクさんの許可は頂きましたので旅に同行する許可を頂戴したいな……と」
ムーランはとても丁寧かつ低姿勢でノアにお伺いを立てる。見たところ問答より前にノアのオーラに押されているようだ。これはノアの言葉一つで今後のムーランの立場が決まるな。




