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俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
五章 ムーラン編
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第三十四話 経緯

「俺はもうダメだ……どこにも居場所は無いんだ……」



 さっきまでの元気は影を潜め、ムーランは鬱々しく縮こまっていた。



「だーもうここまで来た経緯ぐらいは聞いてやるから泣くな! 何があったんだ?」

「家を追い出された」



 む、好奇心からの家出とかだろうと思っていたが、ハズれてしまった。



「この酒場……というか俺のとこに来た理由はその辺りにあるのか」

「俺は冒険に憧れてた。武器を振るって魔法を使って馬車を引いてどこにでも行ける。たまにくる行商人なんかを通して冒険者の話を聞くのが大好きだった。けど貴族のままじゃだめだ。身分が違う。それで、いつか大人になったら家を出てってやる! と思ってたんだけど」

「だけど?」

「時々こっそり組合に行って冒険者と喋ってるのがバレて家を追い出された」

「ふむ……兄弟はいるのか?」

「お姉ちゃんと兄がいる」



 貴族の家ではそういった切り捨てはよく行われているのだろうか。優れた兄弟がいるなら従わない子は捨てていく、間引きのような物か。

 ここまで育てておいて追い出すのは割に合わない気もするが、貴族の価値観に分からない部分があってもなんら不思議ではない。



「んじゃ最後に聞くが、お前は今からどうしたい?」

「エリクの冒険に連れて行って欲しい」

「まぁ……そうだよな。でも無理だ。話を聞くだけ聞いて期待感を持たせたのは申し訳ない。だが俺達は金も無いので野宿になる。二人で食ってけるかどうかというのも恐らくなんとかなるという程度で保証は無い。だから君を守ってやれるかも分からないし……」

「溜めてたお小遣いが1000万 Zゼタある! 迷惑はかけない!」

「1000万 Zゼタだぁ!?」

「これで食べ物とかは迷惑はかけないからさ!」

「おめぇただの貴族の坊ちゃんじゃねぇだろ!?」

「エリク、キャラ崩壊してるよ」

「あぁノアのツッコミは的確でええのぉ!」

「どうでしょうか! エリクさん!」

「急に丁寧になったなムーラン。警護依頼という体にしてくれるのなら仕事だし良いんだが……冒険がしたいんだよな?」



 ムーランはキラキラした目でこちらの目を見ている。元気になったようでなによりだがどうやら後者の選択を俺に求めているようだ。ノアの力の影響を探るために町を出るのでその点でも危険はあるのだが、どうしたものか。いや、どうしたものかじゃない。ダメじゃないか!ノアの力はまだよく分かってない。昏睡状態にさせてしまうかもしれないんだぞ



「いや、だめだ。俺達の冒険は予想よりはるかに危険を伴う。冒険者組合に行って旅の警護依頼を出そう。それで国を見てこい。実家に帰るという選択肢が一番良いと思うが一度追い出された家に帰るのは難しいだろうけど、その選択肢の可能性をしっかりと覚えたまま何か見つけてこい」

「でも……!」

「だめだ。二度期待感を持たせたのは俺の責任だ、申し訳ない。だがこれは決めたことだ。決めていたことと言えるかもしれない。すまないが他を当たってくれ、組合での手続きまでは俺が行おう」

「はい……分かりました……」

「許せ」



 ノアが『終わった?』という顔で首をかしげる。俺は小さくうなずいた。



「ノア、師匠の部屋からこいつでも着れそうな服を見繕ってやってくれないか」

「分かった。ちょっとまっててね」



 数分後、ムーランがノアから服を受け取り、入れ替わりに二階に上がっていった。一分もしない内に降りてきたムーランの早着替えに感心しつつ、俺とノアは荷物を背負って組合へ歩き出した。しかし店を出て数歩、俺の前を歩いていたノアが立ち止まってキョロキョロと辺りを見回している。



「ん? どうしたノア」

「いや、ちょっとなにか変な気配みたいなのを感じるような」



 聞いて俺も周りを見回すが、大通りの方に通行人が見えるだけで人の気配はない。

 まさかまたリエイがちょっかいをかけに来たりするのだろうか。



「俺には分からないけど、一応用心していこう。ノアは一応先頭で」

「はーい」

「ムーランは俺の後ろに付いてきてくれよな」

「うん、わかったよ」



 刹那。

 ノアは瞬時に振り返り、左手で俺の右手を引っ張った。

 俺はぐらつき、自身の右手側に倒れこんでいく。残ったノアの右手は振り返る勢いのまま三日月の軌道を描き、ムーランの首をはねていた

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