第三十話 留守
「キリータさんが倒れたのは過労によるものだろう、とのことです。外傷や病気の様子が見られないから、と言う判断ではありますが」
「そうですか……ソイリオさんありがとうございました」
「礼には及びません。では私はこれで……」
俺は深々とおじぎをしてソイリオさんの背中を見送り、またノアと師匠のいる病室へと戻ってきた。
「冒険者組合長さん、だっけ」
ベットの横の椅子に座っているノアが聞いてくる。
「そうだ。感謝しかねぇな……」
倒れた師匠のため医者を手配し、病院に話を付けてくれたのはソイリオさんだった。
酒場でノアに背負われてぐったりとしている師匠を見て、俺はすぐに医者に診せなくてはと考えた。
しかし俺はこの町の事をほとんど知らない。
師匠に案内してもらった図書館や店の場所は分かっていたのだが、病院がどこにあるのか分からなかったのだ。
師匠が倒れている今、頼れるのはソイリオさんしかいないと考えた俺は、冒険者組合に走りソイリオさんに事情を説明した。
支離滅裂な説明になってしまっていたような気はするが、ソイリオさんは直ぐに事情を把握してここまで手配してくれた。
俺は師匠の顔を覗き込む。顔色はまだ悪い。
何故倒れるまで疲労を溜め込んでしまっていたのだろう。
「急病ならともかく過労ってなんだよ……酒場の仕事だって休む選択肢もあったろうに」
疲れていたならなんで言ってくれなかったんだ、俺はどうして気づけなかったんだ、というふたつのむずがゆさに挟まれてなんとも息苦しい。
「エリク、とりあえずキリータさんの酒場に帰る?」
「ん~……ずっと店を留守にするのは怖いしな。俺一旦酒場に戻るよ。でもノアはここに残ってくれないか?俺かノアどちらかが状況を説明できるように師匠のそばにいないと混乱するだろうしな」
「分かった!私キリータさんのそばにいる!」
「ごめんな、頼むぜノア。寝てもいいからな」
「起きて待つよ!」
「なら無理せずに。んじゃまた夜が明けたら来るよ」
俺はノアに手を振って病室から離れ、酒場へ向かった。
酒場に着くとまず泥棒が入っていたりしないか確認した後、二階から毛布を引っ張ってきて一階に敷いて寝転がった。
「あれ?」
視界の隅に何か違和感を感じた。
上半身を起こしてその正体を探ると、あの赤い箱であることが分かった。
蓋が開いている。
蓋は触れられないので、箱を揺らしてなんとか蓋を閉じる。
なぜ開いていたのだろうか。
考えないといけない気はするがとても眠い。
昼図書館で調べ物をしてリエイに会って、夜は師匠が倒れてとゴタゴタしていたのもあり、疲れていた俺は数分後には寝てしまった。
気付けば朝、適当に朝食を作って病院へ向かう。また数時間留守になってしまうが仕方ないだろう。