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俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
一章 ノア編
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第二話 月光

 さっきまでは分からなかったがノアは裸足のようだ。

 白のロングスカートがふわりと揺れ、ほこりっぽい倉庫には似合わない幻想的な光景がある。

 しかし俺がその光景に魅了されることは無い。

 それは先ほどのノアからは考えられられない気配を纏っているからであった。最初に赤い箱を見たとき感じた、まとわりつくような悪寒そのものを思い出させる。


 動作の一つ一つは美しいという他ない。

 だがそこからは温かみが欠片も感じられない。

 俺の生き死には彼女に握られているのは、すぐに分かった。やはり、と言うべきか人の領域の存在ではないらしい。

 魔術を行使しようとしたのが引き金だろうか。

 この変貌ぶりは神話時代の女神ノアに回帰していると捉えるべきなのか? こう考えている間に彼女は窓際に歩を進め、空を見上げると言葉を紡いだ。



「我が半身よ。力・知識・記憶その全てを己が半身に注げ。

 我は満ち欠けを司る神、憑神ツキガミノア」



 俺がその言葉を聞き終えた瞬間、世界に闇が訪れた。

 月の光が無くなったのは数秒の出来事であったが、ランタンの光がいつもより煌々と輝いて見えたのは鮮明に記憶している。


 しばしの沈黙。

 彼女が発していた悪寒は収まり、ただ彼女は月を眺めている。



「なぁノア」



 一呼吸入れて俺は続ける



「今は誰だ?」



 振り返ったノアの顔はハッキリとは見えなかったが、寂しそうに見えた。

 ノアは糸の切れた人形のようにぐらりと体勢を崩した。本来、神に属するものになど触れれば、どのような災禍が訪れるか分かったものではないのだが、俺はとっさに彼女の身体を抱きかかえるようにして受け止めていた。

 自身の危険を差し置いて動く、自身のお人好し加減に感謝する結果となった



「軽い……」



 その体つきに特異な点は無く、ノアは普通の少女にしか見えない。どちらかと言えばその中でも華奢な方だろう。触れている腕も足も、強く握れば壊れてしまいそうだ。

 だが先ほどの一幕を見ていれば、誰にでもノアが神話の女神ノアであることは間違い様のない事実であった。

 俺が一人考察を深めていると、ノアはいつしか眠ってしまっていた。

 言葉から推測するに月の力を吸収したのか、それか闇を呼び寄せたのだろうか、どちらにせよそんな大魔法の反動なのだろう。

 今のノアから悪寒のようなものは感じない。


 次に目が覚めた時は【ノア】だろうか、それとも【彼女】なのだろうか。

 俺はノアを抱えたまま屋敷を出た。背中にはロープで縛った赤い箱を背負っている。

 もちろん箱の蓋が俺の頭を消し飛ばさないように細心の注意を払って。



「そういえば幽霊の噂の正体って何だったんだろう、ノアは封印されてたっぽいしな。

 あれ? ノアはなんで封印されてたんだ? 結局いつからあそこに居たのかも分からずじまいだし」



 謎は残ったことにぶつくさ文句を吐きながら、休養できる宿を借りに町の中央へ向かった。



 俺と女神との旅はここから始まる

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