第二十八話 興味
「まずですね」
「ちょっとまって。はっきりさせておきたいことを先に私から聞いてもいいかな?」
質問しようとするノアをリエイが遮った
「私に?」
「ノアは自分についても私についても何も覚えてないのよね?」
「うん。ほとんど。自分がノアだってことは分かってるけど」
「ふーん……そう。ならいいわ」
「よくわかんないけど。まず一個目、私はどうして赤い箱に閉じ込められていたの?」
「え~それ私に言わせちゃう~?」
リエイはすぐ後ろの2mほどの大岩の上に転移して座り込み、淵から足を出してぶらぶらさせ始めた
「もったいぶらないでよ!」
「ふふふ、ごめんね。覚えてないっていう状況が面白くて、ねぇ」
「ねぇ、と言われても俺は今のノアしか知らないので」
なぜ俺に話を振るのだろうか。
聞く姿勢ではあったのだが、ちゃんと聞いておいてねということだろうか。
分からないが深い意味は無いかもしれないな。
リエイはまたノアの方を向きなおして続ける
「ノアはね。私とエレに一度殺されてるのよ」
どういうことだ。急に話が飛躍して物騒になった。
「殺された?私が?」
「そ、私が首をねじ切って、エレが霧になるまで分解してね。でもノアは神。放って置けば直ぐに復活する。だからあの箱の中に閉じ込めておいたというわけ。
あの箱は時間を止めてあるから、最初のうちはノアはほぼ完全に停止してたんだけどねー私といえどノアを永遠に閉じ込めておくのは無理だった。25867年封印してたたのは褒められるべきだと思うねー」
ノアはリエイによって封印されていたらしい。
約26000年も経ったために、あの箱は俺が動かして開いてしまうほど封印が緩んでいたのだろうか。
というかなんであの屋敷のタンスにあったのかも後で聞いておかないとな
ノアが間髪入れずに質問を続ける。
「じゃあ二個目!私が一度殺されなくてはならなかった理由!記憶が無いのも殺されたり封印されたことが原因なのかってことも」
「ノアが私とエレに殺された理由はノアの危険性によるもの。記憶が無いのは私がいじったわけでは無いわ、私は過去を変えるだけで記憶を丸ごと消すなんてできない。だから多分一度存在が崩壊したことが記憶を失った原因なんじゃないかしら。神を殺すなんて私はしたことなかったし予想でしかないけれど、ほかに原因もなさそうだし多分あってるわ~」
「私の危険性って何!そっちの方が気になるよ!」
ノアが急かすが、リエイは突然立ち上がり慌てたような演技を交えて言った
「あ! いっけなーい! そろそろ帰らなきゃ。神様も忙しいのよ」
「時間の神が忙しいって何よ!」
「ちょ、ちょっと待って! 俺が言った質問も解消されてない!」
「あぁ、エリク君の記憶は私の時間移動で私が消えたり現れたりするけど、ノアにはそれが無いって話だったわね。それはノアが自身の記憶しか頼りにしないからよ。
人間は私の管理している空間と時間と言うものの内側にいるから、私が歩いたりしたら過去にその事実が残るけど、ノアを含めた神たちは私の管理に頼らない。自身の時間、記憶を持っている。
例えて言うと神は個人で日記を持っていてそれを読み返してる。対してエリク君とかの普通の生き物達は私の持つ統一された日記しか読み返せないって言うと伝わってくれるかな。当然私がいじれるのは自分のものだし他の神のものには影響しないわ」
リエイが去ろうとするがノアが大声で呼び止める
「私の質問の回答がまだ!」
「いいからいいから。それとノアを殺された理由は直ぐに分かるわよ」
「今知りたいから聞いてるんでしょ!」
ノアがリエイの立っている岩にひょいと人間離れした跳躍力で飛び乗り、リエイにさらに詰め寄った。
しかしリエイはノアの前から消え、いつの間にか俺の目前に転移していた。
俺が一瞬ひるんでいる間に、笑顔で俺のすぐ脇にスッと歩み寄り耳打ちして言った
「あなたたちとっても楽しいわ」
その言葉を残してリエイは俺の脇を抜けていった。
直ぐに振り返るがリエイの姿は無くただ椅子があり、気づけば俺とノアは森の中から図書館へと戻ってきていた。
リエイから得た情報は状況を進展させるにはあまりに少なく、俺とノアに後味の悪い謎を残していったのみだった。
結局リエイはからかうことが目的だったのだろうか。
最初は本当になんでも教えてあげるという雰囲気だったが、気が変わったということにも思える。
最後はとても楽しそうに去っていったようだったし、とんでもないものに目を付けられたのかもしれない