第二十五話 衣装
階段から降りてきたのはノアだ。
白いブラウスと青めの紺色のワンピースで身を包んでいる。
装飾もそこそこあり、膝がちょうど隠れるぐらいのスカートはお姫さまのようなフリフリではなく、清純なお嬢様の方が感覚的には近い。
問題はただでさえ容姿端麗なこのお嬢様が少し目立ってしまうことだが。
この位なら良いだろう、ノアもとても気に入ってるようで上機嫌だし嬉しいことだ。
それにしても超かわいいじゃないか。
今までボロ布を着せてたのが、ノアの容姿の良さを如何に潰してきたかよく分かる。
「超かわいい」
「ありがとエリク! よかったぁ……」
ホッとした顔をした後、俺の所からノアはじーさんと師匠の方へ駆け寄って行った。
「おじいさん、こんなに可愛い服を作ってくれてありがとう! キリータさんもありがとう! 大事にします!」
「喜んでもらえたようでなによりじゃ。キリータは後で支払いよろしくの」
「あいよー。ノアちゃんのバイト代はその服って事でチャラにして頂戴ね」
ノアが大喜びなのを確認してじーさんは満足気に帰って行った。
「よし。これでみすぼらしい感じは無くなって、装い新たに旅を再開できるな」
「可愛いし動きやすいしで良い感じ! でも魔力消音だっけ、アレのテストはしないんだね」
「あぁそれは大丈夫だよ」
横で俺たちの会話に耳を傾けていた師匠が口を挟む。
「あの店だけじゃなく、冒険者向けの店なら実験用の大人サイズの木製人形が置いていある。
詳しくは知らないけど魔術用の杖と同じ原理で。宝石なんかを使って魔力を発生させることが出来るはずさ」
「へぇ。そりゃ便利だ。ならその点はちゃんとクリアしてるってことか」
付けておくべき、と師匠がじーさんに頼んでいた機能だ。まぁ忘れてるなんてことは無いか。
「さてと」
これからどうするか。
盗賊団の一件で盗賊団の支部を倒すって目的も見えたが、報酬ぐらいしか得るものが無いような気がする。
これぞ冒険と言う感じなことがしたくなると、盗賊団の討伐と言うのはパッとしない。
冒険者組合長のソイリオさんに盗賊団の支部について話さなかったのは軽率だったかもな。
なんとなく交渉材料として抱えたまま出さずじまいだ。
「エリク、次はどこ行くの?」
「あぁ……次ねぇ」
「あんた達まだ泊まってって良いんだよ?」
「もしかしたらお世話になるかもしれない。ありがとう師匠」
「あ!」
そう言って突然立ち上がったのはノアだった。
「私がなんで記憶が無いのか解明しよう!」
「おーいいな。いいなそれ! そーしよう、そーしよう。じゃあ文献とか漁らないとな!」
「んじゃ、ちょっと私は開店の準備でもするかねぇ」
師匠はその時点で立ち上がって厨房へ向かった。
距離からしてこの先の会話も師匠は聞こえるので、変な方向に進まなければ後の選択は俺たちに任せるということだろうか。
「ノアはどこまで分かってるんだっけ」
「最初に会ったときのまま、自分が神様であることは知覚してるけど、他の三人も思い出せないしなんでそんな存在なのか分からない。あと、なんで封印されてたのかも」
「なぜノアが能力そのまま人間の少女のようになったのか……だな」
「まとめるとそういう話になるのかな」
他の神様の名前。
むむむ、思い出せない。
超有名なハズなのに。
ノアという名前はそういえばノアの口から聞いて思い出したんだったな、自分は他のジルグラッド四楔も分かってると勝手に思い込んでたな。
忘れたものは悔やんでも仕方ない、明日どこかで文献を貸してもらおう。
師匠に聞けばその辺のツテはあるだろう。
帰ってきた時点で夕方だったのもあり、喋っているうちに陽はすっかり沈んでいた。
またも師匠に夕飯をごちそうになり、二階で明日についてノアと相談した後眠りについた。