第二十三話 素性
「はぇ?」
質問の意図が汲めず俺は素っ頓狂な声で返してしまった。
敵ですか味方ですかだって?
「あぁ、その反応なら敵では無いようですね、安心しました」
「く、組合長! 試すような物言いはやめていただきたい!」
あっけにとられている俺に代わって師匠がソイリオさんに抗議する
「申し訳ありません」
そう言うとソイリオさんは4秒ほど深く頭を下げ、再び会話を続けた
「最初にこの問いを投げかければ、その反応で敵意があるかはっきりすると思いましてね」
何なんだこの人……この質問の時点で俺との信頼関係の構築が難しくなるって分かってての発言なのか?
やけに自分の直感に自信がおありのようだ。
「えーっとソイリオさん? 僕への懐疑心はさっきので解消されたんですか?」
「ええ。私はあなたが悪人とは思えません。この部屋に入った時点でそう感じましたが念押しに」
「では今回の事件の功労者として扱われているはずの僕が、なぜ『敵か味方か』という質問をぶつけられなくてはならないのか教えてください」
師匠もそこが気になっていたらしく、ふたりでソイリオさんの返事を待つ。ソイリオさんは少し考えたのち口を開いた
「怖かったんですよ。エリクさんが」
「え?」
ソイリオさんは少し苦笑いのまま続ける
「いえね。あの盗賊団は組合でも追っていましたから、そのアジト一つが落ちたとなれば大事件なわけです。しかも無名の冒険者一人が落としたとなればその衝撃は凄まじいものです。加えて言えば46人もの人間が、しかも盗賊団が降伏しています。どれほどの力を見せつけられたらそうなるんだと思いまして」
「だから僕に警戒していたと。そうゆうことですか」
「えぇ。重ねて非礼をお詫びします」
ソイリオさんはそういうとまた深く頭を下げた
「頭を上げてくださいソイリオさん。組織の上の人はそういった不安因子を取り除いていくのが普通だと思います」
頭を上げたソイリオさんはまた軽く頭を下げて話始めた
「また失礼な話にはなりますが、いくつか質問をしてもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
ううむ。
ノアと俺で目立たないよう旅をしたいのが第一なんだ。既に大きくなってしまっているらしいこの事件だが、なんとか小規模で終わらせるための回答をひねり出さなくてはならないな
「魔道具屋さんからどのように追跡を?」
「魔術師のよくある飛行術で上空から追跡しました」
「どのように降伏させたのですか?」
「偶然、僕の使役した魔法が思ったより強大に映ったのだと思います。それで大将らしき人が降伏して他の盗賊もそれに準ずる形で……」
「ふむ。ではなぜあの盗賊団に喧嘩を吹っ掛けたのでしょう。それだと運頼み過ぎませんか?」
「お恥ずかしい話です。昨日の話ではありますが若気の至りという奴だったのです」
「ふむ。何か聞き出した情報などありますか?」
「いえ……」
「そうですか……」
危なかった。
ソイリオさんは俺が予想より弱いと信じてくれたようだ。
どんな魔法で?などもっと細かく聞かれていたら少しボロが出ていたかもしれないな。
俺の素性の確認という目的を達成したからだろうか、ソイリオさんは何か踏ん切りが付いたらしく真剣な顔つきから笑顔に戻っていった。
「ありがとうございました。今日は私の我が儘に付き合わせてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、疑いが晴れたのなら良かったです。あぁでも……」
俺は横に座っている師匠をチラリと見てから再びソイリオさんに視線を戻す
「師匠。いえ、キリータも同席させたのはなぜですか?」
「置き物程度の価値しか無かったですよ私」
ソイリオさんはふふっと笑って続ける
「いやほら、弟子を止めるは師匠のみって言うじゃないですかエリクさん」
「そんなの聞いたことありませんよ!」
はぐらかされたような気もするが師匠を同席させた事に大した意味は無かったのだろう。
受付嬢さんが連れてきたというだけで、ホントに意図は無かったのかもしれない。
そこでその話は終わり、再び一階の受付に誘導された
「では私はここで。報奨金等は右の受付でお渡しします」
ソイリオさんは受付嬢にエリクさんお願いねと告げて、従業員用の扉から受付の内側に入りかなり後方にある席に座った。
「席は後ろだけど急に偉いさんから事務っぽい感じに戻ったね」
「ま、組合長っていっても普段はあんな感じなのさ。面倒事の時前に出て威圧できる人だからやってるってぐらいだねぇ」
「そっか。じゃ、報酬受け取って帰ろう」
受付嬢さんに視点を戻すと、会話が終わったのを見計らって受付嬢さんが報酬について話始めてくれた