第二十話 拳骨
降伏させてからは早かった。
師匠が後始末をすべてこなしてくれたからである。
帰りの遅い俺とノアを心配して、師匠が魔道具屋に行き事件が発覚、知り合いの冒険者数十人と馬で駆けつけてくれたのだ。
これから戦闘だった場合は人数が足りないところだが、すでに盗賊たちは戦意喪失しており問題なく事が進んだ。
アジトの屋根が吹き飛んでいるのはただの突風であり、すでに降伏しているのは俺が超絶凄腕の冒険者に成長していた、ということで師匠が話を通してくれた。
俺は師匠が連れてきた冒険者から猜疑の目で見られたが、師匠はよほど信用されているのだろう。
『キリータさんがそういうのなら……』ということで話は落ち着いた。
後続の馬車が到着したころには、既に全員の捕縛が完了しており、司法への受け渡しもスムーズに完了。
盗品については持ち主が分かっている物から、順次返還されていく事となり、丸く解決した。
「助かったよ師匠~降伏させたはいいけどどうやって護送するか悩ん――」
「バカ野郎!」
「あでっ!」
師匠の拳骨が俺の頭を揺らす。ノアが止めようとするがノアにも拳骨が振り下ろされた。
「いたっ!」
「あんた達はホンットに世話が焼けるねぇ! どんだけ心配したと思ってんの!」
「し、師匠はノアが強いって何となく分かってただろ! このぐらい何ともないって」
「そういうことじゃない! ノアちゃん、エリク。お前たちは、力に振り回されてたって自覚あるかい!? 今回だって運良く成功しただけって自覚あるかい!?」
「それはノアにしっかり怒られました……」
「怒りました……」
「ノアちゃんはエリクをもっと早くに止めれたんじゃないのかい?」
「師匠それは俺のせいで」
「エリクは黙ってな。ノアちゃん、二人でしっかり身の振り方については考えてかないといけないよ。他の町にも行くなら私は助けられない。はっきりいって私と接しているお前たちはスキだらけさ。ありがたいことだけど今後そのお人好しに付け入ってくる奴が居ないとも限らない。んまぁ……そんなとこだ」
師匠は自分の頭をくしゃくしゃと触っている。
「あぁ私はマジメな説教はできないみたいだノアちゃん。殴ってから『バカ野郎!』 っていうだけのが楽でいいねぇ」
「そのほうがいいです!」
「うん?ちゃんと反省してるんならいいんだけどね。まぁ生き急ぐなってことさ」
そういうと師匠は俺の方へ顔を向ける
「エリク、お前魔道具屋から盗賊追っかけたのも、ノアちゃんが側にいるからって浮かれてたからだよ。理解してるかい? もっと時間をかけて、状況を推理しろって言っただろ。少し考えただけなら勘と変わらないんだよ」
「以後気を付けます……」
俺がうなだれていると、師匠が俺の肩をバシバシ叩く。
続く師匠の言葉は、シリアスな口調から明るい口調に戻っていた
「まぁ今回は二人ともケガが無くて良かった。馬車を一台待たせてるからさっさと帰ろう!ノアちゃんにエリク!よーくやった、お疲れ様!」
俺とノアは顔を見合わせるとハイタッチを交わした。学ぶべきことが多く残った、俺とノアの初めての共同作戦であったが、師匠にひとまずの合格点を貰い成功を喜び合った。