表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺、女神に憑かれてます  作者: 塚田恒彦
三章 荒野編
17/62

第十六話  相違

「そううまいこといくとは思えないけど、やってみますか」



 作戦内容は思い付きの割には良いものだと思うが成功するかは分からない。

 第一関門は入り口で見張りをしている男だ。

 さも当然のように中へ入ろうと歩いていく。

 装備品は完全に盗賊のそれなので声を掛けられることは無いはずだ。



「おい」



 声掛けられたじゃねーか。

 でもここで慌てれば袋叩きにされる。

 ノアもいないんだ、俺一人ではどうにもならない



「なんだ?」

「見ない顔だな。新入りか?見たところ装備品が違うようだが」



 アッ忘れてた。こいつらの装備品は全員同じだった。



「そうだ。先週別の支部で契約したんだ。だから顔を出すのは初めてだ」

「なるほどな。俺はここでずっと見張りしてるからよ。見たことねぇ奴は分かるんだ」



 見張りは盗賊団直属ってことか。コイツがこの支部の見張りをずっとやってるんだな。



「最近魔物も多いからな。気を付けろよ見張り業」

「同業者に心配されるのは初めてだな。おまえ甘ちゃんか?」

「そういう奴もいるってことさ」



 そういって俺は背を向けて後ろ手に手を振った。

 これで第一関門突破、潜入は成功だ。

 中は先ほど同様、盗賊たちが各々やりたいことに興じているようだ。

 一番警戒すべきはザルーカさんと呼ばれていた事務職っぽい男だ。

 装備品は高価なものだし、戦闘能力が高い可能性も十分ある。

 まずは誰から攻めようかと、探す前に向かってきた奴がいた。

 さっきの酔っぱらいだ。

 ひどく酒臭いが、嫌な顔するのも酒慣れしていないと言ってるようなものだ。

 丁寧に応対しよう



「兄ちゃん何かお困りかい?」

「あぁ他の支部で契約したんだがちょっと都合が悪くてな。装備品もまだもらってないんだ。この組織の仕組みもいまいち分かってない。教えてくれると助かる」

「なんだ。同業者にしちゃえらく物腰が低いな。まぁ座れ座れ。気に入ったぜ、弟子にしてやらぁ」



 俺は男に誘導され端の机に座った。

 話は良い方向に進んでいる。

 絶対に師匠呼びはしたくないが、上手いこと情報を引き出そう。



「それは光栄な話だ。まず装備品はどこでもらえばいい?」

「各支部のリーダーだ。なんだ、説明も受けてないのか」

「すまない。申請しただけでな」

「あーそれ多分申請通ってねぇよ。なんでだろうな、その辺りは丁寧な組織なんだがな」

「丁寧……盗賊の集まりとはいえないほど支援がしっかりしていて、盗品の流通も整備されていると聞いた。仕切っているのは誰なんだ?」

「さぁな、ここに加入してた方が活動しやすいってんで入っただけだからな。まぁでもヨセフなんじゃないか? ヨセフ・トルグリ」

「大盗賊ヨセフか?」



 この名前は子供でも知っている。王族や貴族などの金持ちを狙うことから義賊なんて呼ばれてたりもする。いかなる警備を用意しても気づかぬ間に破られているという。だがつい二年ほど前に姿をくらましたと聞く



「だってよぉ。あいつが失踪した時期とこの組織ができた時期って一緒だろ?」

「なるほど。彼はかなり資金を蓄えていただろうしありえない話ではないか。

 話は変わるがここのほかに支部はいくつあるんだ?」

「ここ含めて四つ。らしいな。お前さんはどこの支部からここへ?」

「あ~……西の方の支部だ。名前は……」

「なんだ、若そうなのにてんで記憶力はねぇのか?ここはビルタのアジトって呼ばれてるし、西ならジェルタだろ?」

「あぁそうだった。すまない。で詳細な場所は?」

「詳細な場所だぁ? なんだお前運び屋として来たのか」

「盗品を運ぶ仕事があるから、とだけで詳細は誰かに聞けと言われてな」

「だったらザルーカさんに聞けよ。ほら、今なら仕事もひと段落してそうだぜ?」

「あ~そうですね」



 まずい。

 口から出まかせで話を合わせてたら墓穴を掘った。

 こいつらの言う運び屋なら『あぁ分かった』とザルーカとやらに聞きに行くところだろう。

 だが俺は運び屋でなければこいつらの組織に入っている訳でもない。

 もし、登録番号のあるガチガチの組織だったら確認されてアウトだぞ。


 どうする。

 支部は各都市郊外に一つづつあるということは分かった。

 それが分かればまぁキリがないというわけでもない。

 もう引くか?



「まぁやっぱりザルーカさん忙しそうですし明日出直します」

「そうか。一杯飲んでくか?」

「明日仕事があるので」

「なんだ、つれねぇな」



 俺はまた出口から出ていった。

 ふぅ。緊張感が半端じゃなかったな。

 演技は割と適当でも大丈夫なんだろうが、何かの拍子に怪しまれたりしたら敵わないからな。

 俺はその足でさっきノアと別れた場所へ向かう。



「ノア。いるか?」



 空中に向かって呼びかけると、不可視化を解いてノアが現れた。



「ここにいます。どうでしたか?」

「え? あぁ夜ノアか、慣れないな。まぁこれで他の支部を見つける手間は少し省けた」

「水を差すようで悪いのだけれど」

「どうした?」



 ノアには何か引っかかっている部分があるようだ



「今更言うなって言われたならそれまでだけれど。今回の目的はおじいさんのお店から盗まれたものを取り返す事でしょう? なぜ他の支部にもこだわっているの?」



 俺は言葉に詰まった。そういえばなんでだ?



「エリクが初めから盗賊団撲滅を目標にしてたのなら何も言わなかったのだけれど」

「今回の目的は盗品の奪還。支部の情報を集めていたのは冒険者組合に売るためだ」

「嘘、エリクは他のアジトも潰す気でいた。それも自分は何でもできると思い込んで。目立ちたい尊敬されたいと思うことは悪いことではないけれど、そのせいで目的を見失うようなエリクは見たくない」



 女神であるノアが自分の言うことをすべて聞き入れてくれる。

 そんな全能感に似た感情にいつしかどっぷり浸かっていた俺は、急なノアの反抗に苛立ちを隠せなかった。

 実の所、ノアの発言反抗などではなく、ただ俺の意志を確認したいだけだったのだろうが俺は反抗と取ってしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ