第十三話 荒野
「おじいさん死んでるの……?」
ノアが俺の顔を覗き込んで聞いてくる
「あぁ。死んでる」
「そりゃ嬉しいのぉ」
「嬉しい事があるかよ。なんでこんな……」
「ワシの『死んだふりセット』は完璧になったというわけじゃ」
「今はそんな場合じゃ……え?」
足元のじーさんがニヤリと笑って起き上がる。
「え……え?」
「キリータの弟子なんじゃから盗賊じゃろ?盗賊の目を欺けるなら十分な出来じゃなぁ」
「死んだふりを高等技術に昇華させすぎだろ!」
急展開すぎて俺は若干ヤケになる
「そんなことのために店内無茶苦茶にしたのか!?」
「いや、泥棒が来たのはマジじゃよ。ハッハッハッ。ワシが逃げようとして勝手に転んで頭を打った。ってことになっとる」
「そっちはマジなのかよ!まぁいい時間は?」
「二十分くらい前かのぉ。知らない顔じゃったなぁ、三人かな?」
「分かった。じーさん、そいつらから全部取り返してくるから。行こうかノア」
「許さーん!」
俺は店外に出て周囲に人がいないことを確認する。
直ぐにノアに結界を展開させ、裏路地から城門へ向かう。
来た時と同様に、城門の憲兵を不可視化でスルーし外に出る。
「ノア!飛んで!」
「まかせて!」
俺はノアに掴まって飛び立ち、上空から不審人物を探る。
「犯人は三人組。いずれ分かることだ、町の中にいるはずはない。魔術道具屋はかなり金になる品が多い。大通りもしくは城門の外に馬車など待機させていたのだろう。店内がかなり荒らされていたことから音を立てても人が来ない、あの店主が一人でいることを知っていたのだ。雑ではあるが偶然思い付いた犯行ではなさそうだ。
計画的だな。」
「ノア大荷物を抱えている三人組は?」
「歩いているのは居なさそう。馬車がほとんどだよ!」
「逃げるために急いでいるのだからおそらく5kmは移動しているはず。ノア、加速して城門からだいたい5kmの線上を飛んで!」
「お安い御用!」
ノアが城門を中心に5kmの扇形に探索する。
俺も必死で探す。
「「いたぁ!」」
俺とノアは明らかに何かから逃げている動きをしている馬車を発見した。
軍事行動なら例外もあるが、舗装もされていない上に見回りの兵も居ない荒野など誰も通りたがらない。それを一台の馬車で駆けているのだ、まだ確定では無いが3人組の馬車である可能性は高い。
俺とノアは念のためもう少し上空から他に怪しい馬車が無いか調べたが、どうやらアレで間違いないようだと確信し引き返してきた。
まさか馬車に勝る速度で追いかけてくるとは思わなかったようで、奴らは気づかずにだんだん速度を落としている。
俺たちは不可視化状態のまま降下して既に真後ろについているとも知らずに。
当然馬車の積み荷に盗品のポーションや宝石があることも確認している。人数は馬車の御者を追加して四人だな。
「ノアのおかげで見つけられたよありがとう」
「エリクが大体の推測を付けてすぐに行動してくれたからだよ」
「なんか賢いなノア」
「どーゆーいみ?」
「褒めてるんだよ。さっきの続き」
「そういうことにしといてあげましょう」
「それはさておきだ。ここで馬車をぶっ壊すとポーションが割れてしまう危険がある。つまりこいつらが馬車を止めるまで待たなくてはいけない」
「ふむ」
「ではこいつらはどこで馬車を止めるでしょう?」
「拠点?」
「正解!ここは魔物がわんさかいる荒野だ。しかもそろそろ夜になる。こんなところでキャンプするのは魔道具屋襲撃よりもリスクが高い。つまりあいつらの向かう先には安全地帯があるってこと」
「盗賊が安全に過ごせる場所は……」
「あいつらのアジトってこった。お、見えて来た。谷底ね。そんなに深い谷じゃないし道もある。こりゃ天然の要塞だわ」
当然、こんなところに飛び込んでいくのはイカれてる。
「でも俺にはノアがいる」
「ノア。あいつらじーさんの仇だ、まぁ死んでなかったけど。死なない程度に懲らしめてやって、金品巻き上げるぞ」
「盗賊感あるねエリク!」
「盗賊はこんな派手な戦い仕掛けないけどね!」
俺たちは馬車を追跡する形のまま谷底のアジトへ向かった