第九話 殺気
図星だった。
「なっ……!」
「相変わらず表情に出るねぇ。ハズレなら良かったんだけど、その様子ならアタリらしいね」
師匠はハハッ!と笑い飛ばすが、俺はかなり動揺していた。
そもそも妖精やら神様はお伽話の存在だ。
指摘されるはずもない。
また、上級騎士や王直属部隊にも女性はいる。
だからその辺りの予想をしてくると思っていた。
その後の受け流し方も考えていたが、こうもあっさり。
「でもなんで分かった?」
「殺気さ。
殺気なんてのは人を3人ぐらい殺してりゃあ身につく。軽いもんさ。殺しを重ねる。残虐無比な拷問を行う。これで殺気はそれなりに高まるし、コントロールも出来るようになっていく。相手を震え上がらせる、なんてのも文字通りできるようになる」
そう言うと師匠は俺の肩をばしばし叩く
「いやーあれを連れて来たのがエリクで良かったよ。お前が制止してくれたおかげであの子の殺気がウソみたいに消えたからな。でなけりゃ私は自分が死んでいると信じて疑わなかっただろうなぁ」
「ノアの殺気が死を錯覚させる程のものだって?あのぐらいでそんなに?」
「お前は勘違いをしているなぁ~? エリク」
「何をさ」
師匠はやれやれとぼやきながら話し始める
「2つだ。お前の勘違いは2つある。
1つ目、ノアちゃんの殺気が私に向けられていたことだ。お前が感じたのはただの余波。私が感じていた殺気とは、イワシとクジラぐらいの差がある。」
俺は愕然とする。
だが、言われてみればそうかもしれない。
俺を守るために動いたノアが俺に殺気を向けるわけがない。
つまり俺の感じていた殺気はほんのわずか。
水を注いだ時に少し跳ねた水滴、その程度でしかなかったのだ。
「2つ目、ノアちゃんの殺気は私の呼吸と拍動を止めた。それほどの殺気だ。私の身体からすれば死んでいるのに、呼吸しても意味がないって事だろう。
今回私が死を錯覚したのは数秒だったのはエリクがノアちゃんをすぐになだめたからだ。今回は良かったものの20秒も続けばまぁ危なかったろうね。」
「でも師匠さっきそんな素振りは……あ」
そういえば師匠は会ったときフラついていた。その時は酒が入ってるのかと思ったがそうではなかったらしい。
「ただの殺気に殺傷能力があるとノアちゃんに自覚させないように精一杯の演技さ。ノアちゃんは恐らく、自分がしたことに気付いてない。私に対しての殺気もノアちゃんは威嚇程度にしか思ってないはずだ。だから私が一瞬死んでいたなんて、ましてや自分がそれをやったなんて気付いてない。
今は制御しようとかそんな時じゃない、気づかせないようにすべきだと私は思ったね」
俺はノアに目をやる。
既に店内のテーブルは綺麗にしていたが俺が掃除全般を頼んだと解釈したようだ。
どこからか調達した箒で床掃除に移っている。
「普通の女の子。だよなぁ」
「お前今、ノアは普通の女の子だよなぁ。とか思ったろ」
再び図星を突かれ、師匠の方に再び体を向けると師匠が話し出した
「とりあえずノアちゃんと会ってから今までの経緯を話してくれ。包み隠さずね。思い出話は後回しだ」