第零話 遭遇
「うぇっ、こりゃハズレか……?」
最近、町はずれの廃墟に幽霊が出るらしいので調査して欲しい。もし原因を発見すれば5万Z出す。
そんな依頼を見つけた俺はすぐさま飛びついた。
困窮した生活費のために報酬金が欲しいのもあるにはあるが、理由は他にある。
「なんかいいものあると思ったんだがなぁ」
俺は廃墟の倉庫で一人ため息をついていた。
依頼に便乗して、普段は町が立ち入り禁止にしている廃墟でお宝を盗むつもりだった。
二十年ほど前までは凄い金持ちが住んでいた屋敷と聞いていたのだが、家の中には高価なものはおろか食器、書物、武具もなかった。
一応、家具は残されていたのだがボロボロで使えそうにない。
おまけに幽霊の痕跡らしきものはまるでなく報酬金も貰えない、どう考えても無駄足である。
「やっぱり盗みなんかするもんじゃねぇな。多分俺には向いてない」
意気消沈しながらも、まだ見ていなかった倉庫の扉を開けた。中をざっと見渡すとタンスやクローゼットらしきものがいくつかあるようだった。
ほかの部屋でもタンスなどは開けたが大したものは見つからなかった。
「まぁ何も無いだろうとは思うが」
まず倉庫右奥にあるタンスを調べることにした。
胸ぐらいの高さがある四段構成のタンスで、服をたたんでしまっておくためのもののようだ。最下段に布切れのような衣服がある。だが金になるものではない。
同様に、左奥にある先ほどと同じ作りのタンスを調べるが特に何も出てこない。
最後に、それらのタンスの間にあったタンスを調べる。
見た目はさっきの二つと同じなのだが、一段目を引っ張ろうにも動かない。二段目三段目四段目と引っ張っても上手く開かない。
こうなれば壊してでも開けてやろうと、力の入れやすそうな三段目に手を掛けた。
「ふんっ!」
思いっきり引くと三段目は動いた。
何かに引っかかっているようで一段目から四段目すべてが動く。
半分ほど引くとその正体と異様な光景を目の当たりにする。
箱だ。
一段目から四段目をくりぬくように赤い箱があった。
その箱と各段の板に一切の隙間はなく、さも当たり前のようにそこにあった。
おかしい。ありえない。そんな思考が頭をめぐる。
だがそんな混乱はすぐに収まる。
箱から発せられている、からだにまとわりつくような悪寒。
足は鉛のように重くなっていき、視線をそらせば死ぬという直感がまばたきさえも許してくれない。
そんな俺を尻目に箱の蓋が開く、まだ半分ほどしか段を引いていないことから、箱の蓋はタンスの天板に引っかかる。
事はなかった。蓋と接触した天板がまるで削り取られるように消えていったからである。
一切ほこりを立てず、音もたてず、接触面から木くずが出ることもなかった。
箱の蓋は90度に開くと止まった。
「……?」
身構えていたが箱の中からは何も出てこない、助かったという感想があるのみだ。
ただ、加えて感じたこともある。これは理解しようとするべきではないもので、人智を超えた何かだ。ここは撤退するに限るだろう。
俺は箱から目をそらさずにゆっくりと後退し始めた。
しかしその瞬間箱から手が伸びてきた。とっさに避けることは出来たが、俺はその場に尻もちをついてしまう。目前に迫る白い腕からとても逃げられる距離ではない。
せめて数歩下がってから倒れ込んでいれば。
「あの、私女神です」
俺が受け取った言葉は死刑宣告ではなく、自己紹介であった。