第一話
元は短編で書こうとしていたものが長くなったので長編に変更したものになります。
王道?の勉強がてら書いていくつもりですので長い目で見ていただければ幸いです。
尚、異世界に行くのは三話以降の予定です。
科学が発達しても、世の中には不思議な事が溢れ返っている。いや、科学が発達したからこそ相対的に未知の世界が鮮明に映るのだろう。
なんでこんな話をするのかって?
今、まさに俺が置かれている状態がそうだからさ。
「どうしてこうなった……」
ゴトン、ゴトンと尻を労ることなく一定の間隔で直に伝わる振動。気晴らしに会話を楽しもうにも、目の前には子供が二人、膝を抱えて蹲って居るだけ。
何日も風呂に入っていないのだろう、ツンと鼻を衝く饐え臭いに思わず眉が寄る。
油で毛と言う毛をギトギトにさせた二人の顔立ちは俺のよく知るそれとは違い、映画俳優顔負けの作り物めいた美しさがある。しかし、俺の知るそれとは違うと確信出来るのは、二人の頭の上に付いている物のせいだろう。
ガタン、と俺達を運ぶ器が揺れる度に少女の頭頂部から飛び出た犬耳が作り物では出せないだろう滑らかさでピクリと動く。
俺の知る現実に、犬耳を生やした生物など存在しない。
が、今はこう言うのが正しいだろう。
――していなかった。
「ホント、どうしてこうなった……」
この場に居る中では最年長だと思われる俺も、ただただ現実逃避に明け暮れる他ない。
だって俺は、少し前まで家でゲームをしていただけだったのただのサラリーマンなのだから――。
▽
「殺れっ!」
その細身に似つかわしくない程に大きな両刃斧を持った男が吠えた。
「応ッ!」
声が耳に届く前よりも行動していた俺は抜き身で背負っていた身長よりも長い特大剣を握り締めると剣先を天に向けて胸の前で構え、そしてゆっくりとした足取りで格好付けて歩く。もったいぶっているのではなく、身に纏った純白の重鎧と構えた特大の剣が重過ぎて走れないのだ。
そんな俺に突き刺さる視線の数々を感じながら向かう先には中空にポッカリと穿たれた穴――のように見えるが、黒点の中心にギョロリと蠢く血走った一つの巨大な目玉があった。
――【奈落】
本日更新された最新バージョンで追加されたダンジョン【天の回廊】に登場するレイドボスの名である。
俺達のクラン、血沸き筋肉踊るが一番に乗り込んで到達し、かれこれ現実時間で三時間以上も挑み続けている相手だ。おかげで既に深夜二時を回っている。
俺の持つ巨大な剣と全身に纏った重鎧が放つ威圧感に、このロリコンどもめ! と言ってきそうな形をした【奈落】は目の周りにある暗闇を伸ばしてバシン、バシンと周囲を打ち据える。
「Gyogeeeee!」
どこから声を出しているのかよくわからない叫び声を上げながら【奈落】は一層攻撃を激しくさせた。
「心地良いぜ……」
柔軟に撓り、縦横無尽に飛び交う黒鞭の雨。それを、避ける事はしない。
この黒鞭の雨は俺を歓迎してくれているのだ。避けるなんてとんでもない。
何故なら、俺は数万人がプレイする仮想現実多人数大規模同時参加型ゲーム――所謂、VRMMO-RPGの【ワールド・ローグ・ウォー】に於ける最上位プレイヤーだからだ。……なんて自分で言うと恥ずかしいのだが、良くも悪くも俺達のクランはこのゲーム内で非常に有名であり、ゲーム内掲示板にも毎日名前が挙げられる常連なのである。名乗りたくて最上位なんて言っているわけではなく、掲示板内でそう格付けされているのを見たのだから仕方ない。
それはさて措き、装備は普遍級から始まり希少級、伝承級、伝説級、神話級と五つに分類されている中でも最上の神話級で全身を固め、生命力は一般ユーザーが一万あれば良い所を筋力全振りによってレベルアップ時のHP上昇値にボーナスを受けまくった挙句、複数装備した神話級装備の付加効果で上がりに上がって十万を越える不死身の生命力オバケとなっている。
故に避ける必要がない。
如何に数百人単位で挑んでも勝つことが難しいレイドボスと言えど、迸る無尽蔵とも思える生命力の前ではどれほど攻撃を喰らっても問題はなく、装備効果によって十秒毎に体力の一割を回復できる為、即死級の攻撃でも受けない限り死ぬ事はない。
つまり、物理こそ最強ッ!
尽きぬ生命力こそ正義ッ!
筋肉こそ大正義である!
単純明快、故に絶大。当たり前の事をそれっぽく言えば格言である。
……そんな事を言っている間に俺は特大剣の間合いに【奈落】を捉えていた。
軽く息を吐き、呼吸を整えると構えていた特大剣を頭上に掲げる。
「これは、遠距離攻撃で魔法職の前に散って行った脳筋達に捧げる鎮魂歌」
「まーたなんか言ってるよ」
「そういうのいいから」
「早く決めろ」
酷い言われようだ……。
大規模対人戦闘での軍隊行動シミュレートとして存在するレイドボスの討伐は本来、数百人単位で行われる。それでも殆どは一撃でHPを刈り取ってくる程の火力を誇るレイドボスだが、その最新ボスの攻撃である黒鞭に体をバシン、バシンと打ち据えられながらも平然と立っているクランメンバー、兼パーティーメンバーの変態三人が白い目を俺の背中に突き立ててきた。
これがギリギリの戦いをしている最中ならまだしも、誰一人として頭上に表示されたHPバーが減っている様子はない。ならばいいじゃないかと思わないでもないが、彼等も紛うことなき脳筋ロールプレイヤーだ。くだらない事を言ってダラダラと引き延ばすと背後からザックリやられる可能性もある。
いくら俺が生命力オバケであってもメンバーもまた筋力全振りの化け物であり、神話級装備でガッチガチのに固めたガチプレイヤーでもある。中にはドロップ率0.1%なんて気が狂っているドロップ品を装備している怖い人までいるので、彼等に襲われたならば俺もやられてしまうだろう。
【ワールド・ローグ・ウォー】はPKをされるとその時の装備品が確定ドロップすると言う妙にリアルなクソ設定をしている。なので神話級なんてぶっ飛んだ性能の装備をしているときは特に気を付ける必要がある。それはレイドボスなど、魔物と呼ばれる異形にやられても同じだ。
とは言え、メンバー達は脳筋ではあるが自身が所属している国に他国の連中が戦争を吹っかけてきたりしてこない限りはレアコレクターとして装備品集めや経験値と言う名のプレイスキルを磨く為に何時間もダンジョンやフィールドを彷徨い歩いてレイドボスを単騎狩りするなんて愚行で自分を苛め抜く事が大好きな無害な連中でしかなく、PKを売りにしているゲームでありながら好んでPKをしない心優しき野獣なのである。
今のようなレイドをしている時でこそ豪華な装備で固めているが、普段は己の筋力ステータスのみで大抵の攻撃は抵抗出来るので殆どがなんの効果も持っていない【麻の服】なんて初期装備を着けているので心配はない。
やはり筋肉は最高の盾であり矛と言うわけだ。
挑んでレイドステージに他のプレイヤーがやって来て俺達の妨害をする可能性もあるが、それはメンバーの一人である弓使いのスティールさん
が広範囲に亘ってマップ上にプレイヤーや魔物を表示する事の出来る【天空視】と呼ばれる特殊効果を持つ装備で周囲を警戒してくれているので俺達は安心して戦う事ができる。勿論、襲ってきた場合は相手に容赦しないし、落とした装備はありがたく貰うのは俺も同様である。
PK戦を行うこのゲームで相手の位置情報を知るなんてのはバランスブレイカーもいい所であるため、そうした魔法は存在しておらず、これもまた神話級装備のぶっ飛び性能故であると言えよう。
スティールさんの他にも斧使いのレックスさんと棍使いのポールさんがおり、俺とスティールさんはアバターと中身が男だが、レックスさんとポールさんのアバターは男でありながら中身は女と言うロールプレイヤーの鑑のような方達だ。
こうしたネットゲームで個人情報は触れないのがマナーであるが、レックスさんとポールさんの二人は共通の知人らしく、どちらかの自宅で女子会と言う名の怪しき会合を開き、二人で酒盛りをしながらログインしてきてうっかり口を滑らせレックスさんは学校の教師でポールさんは公務員である事を暴露された。
どうやら抑圧された私生活の環境で溜まる鬱憤を解放し、頭を空っぽにしててもできる脳筋は彼女達にとっての癒しであるらしい。
「早くてくださいよ」
そんな、魂の性別で"漢〟に性転換した二人とずんぐりむっくりなドワーフのアバターでありながら弓使いと言うファンタジーの定番である世界観を崩壊させているスティールさんも眠たくて苛立っている様子。
そろそろ決める必要があるようだ。
しかし俺達は一人でもレイドボスを乱獲できるプレイヤーだ。だからこうしてフルメンバーでレイドに挑んだ事は少なく、一番強いとされるボスでも今のメンバーが集まれば一時間もしないうちに討伐できていた。それが三時間も掛かっているとなれば流石は新Ver.のボスと言うべきか、最強のボスは【奈落】に違いない。それを俺一人が決めてしまうのは少し寂しい気がしていた。
「よかったら皆で一撃入れない?」
そう言うと他のメンバーは軽く目を見開き、そして口の端を小さく歪めた。
「いいね、乗ったぁ!」
「俺の弓術……基、矢術を見せてやりますよ」
「疲れてきたし、折角なんでボコりますか」
彼、彼女達とも出会ってから早数年。毎日顔を合わせているので考えは大体わかる。
皆が俺に決めさせようとしたのは俺がクランのリーダーだからと言うのが理由なのではない事は理解している。
ボスに関わらず、魔物は生命力《HP》が一定値を切ると疲労状態となり行動パターンや目に見えて疲弊してくる。それがこの【奈落】には見受けられなかった。恐らく、俺達と同じく生命力オバケか、それとも今Ver.までなかった何かしらの要素がある可能性がある。
今までのボスでも何の告知もなしに特殊な条件を達成しなければ生命力が減らない奴も居たため、その可能性は十分にありえるだろう。何せ俺達が初乗りのボスなのだ。情報がなくて当然。それを尽きない生命力に物を言わせ、握ったコントローラに振り当てられた攻撃のワンボタンを頭を空にして一心不乱連打し、巨大武器の生み出す圧倒的物量の火力で押し切るのが脳筋の正義。
とは言え、今のままでは押し切れないのも事実。そこで登場するのが俺が現在装備している特大剣【天地開闢ノ塊剣】である。
これもまた神話級装備であるのだが、通常のレアドロップとは違って先に言ったような特殊条件を達成しなければ倒せないなんて狂った面倒臭さを誇るボスのドロップ品だ。言うまでもなく確立は正気を疑う程低く、俺以外に持っていると言う話は聞いたことがない。
【天地開闢ノ塊剣】は一定確立で対象を即死させる効果を持つ自他共に認めるチート装備だ。
【ワールド・ローグ・ウォー】に限らず、どんなゲームもやりこめば装備火力が上昇するのはゲームの醍醐味であるが、このゲームは他とは比較にならない程に劇的に攻撃力が上昇していくため、上位プレイヤー達とそうでないプレイヤーの間には凄まじい差がある。それもあってダメージを受ければ大抵は一撃で沈むので、生命力はあってないようなものだと言われているが現実に魔法があったならば実際に喰らえば一溜まりもないだろうから、非現実でありながら現実的だとの評価を得るのに成功している。一体誰が得するのか……。
ともあれ、対人戦に備えるための装備集めと軍団行動に慣れるためのシミュレーションとして存在しているダンジョン攻略やレイドはなるほど、と言えるほど良く出来ていると個人的に思っている。
但し、【天地開闢ノ塊剣】は探索で使うとつまらないのでいつもは絶対に使わない死蔵品だが、こんなときくらいは使わなければ――
「浸るのはいいけど、早くしてくれよ。ハウンド?」
すぐ横から掛けられたレックスさんの声に気が付けば、皆は既に横に立ち並び、各々の得物を構えていた。
そんな俺の様子にスティールさんとポールさんも小さく肩を震わせて笑いを堪えていた。
「あっはっは。まあまあ、ハウンドさんが浸るのはいつもの事じゃないですか。それに……ねぇ、ポールさん?」
「そうだな。ハウンドさんはいつも浸っている。逆に浸っていなければハウンドさんとは言えない」
「おいぃ!」
「いや、実際そうだろ。なんだよ『これは……魔法職の前に散って行った脳筋に捧げる鎮魂歌……』って。笑うわっ!」
「笑うな!」
こうして軽口を叩いている間も目の前に居る【奈落】は血走った一つ目をギョロリと動かしながらも忙しなく黒鞭で俺達を打ちつけている。
HPは減らないので攻撃を気にしてはいないが、この辺りで話題を逸らさないと延々とイジられるのは目に見えている。すまん、生贄となれ。
「と、兎に角! 今はコイツを倒しましょう!」
「と言っても、結局の頼りは【天地開闢ノ塊剣】の確立頼みだけどな」
「そこはほら、言わないお約束って事で」
「本当にハウンドさんとレックスさんは仲がいいですよね。私なんて……この前……うぅ」
「そりゃ結婚記念日に嫁さんほったらかしてゲームしてたら愛想尽かされて当然でしょうよ……て言うか何年前の話だよ」
「ポールさん、エグい。もっと言葉を選んであげて……」
「この前ついに妻側の弁護士との争いが終わりましてね……財産分与とは別に私の非と言う事で百万も持っていかれましたよ。百万あればどれだけ課金できたか……」
「もうスティールの事は放っておこうぜ……痛い目見ても治らないとか不治の病だろ」
弓ではなく、何故か両手に矢だけをマラカスのように握ったスティールさんのえぐえぐと言う泣き姿に冷ややかな視線を送たレックスさんが呆れたように言うと、ポールさんも静かに頷いた。
俺も青春の高校、大学の七年を【ワールド・ローグ・ウォー】に費やしてきたがスティールさんは桁違う。俺如きが何かを言える事もない。
「……そうですね。そうしましょう」
「ひどっ!」
「慰めても無意味ですから。それじゃあ皆さん、構えて!」
「おうよ!」
「えぇ!」
「あいよ!」
ザッ! と音を奏でて息のあった踏み込みが成され、ヒリ付くような緊張にドクンと胸が脈打つ。
――この感覚は、好きだ。
自然と頬が緩むのを感じる。
それを必死に吊り上げ、俺は口を開く。
「せーので行きますよ。せーの……デイヤァアアァアアッ!」
「オオオォオォオオッ!」
「ヒャッハアアアアアア!」
「チェェエェエエェイッ!」
――振りかぶった特大剣が。
――下段から斬り上げられた大斧が。
――槍のように突き出された矢が。
――瞳の中心を貫くように突き出された棍が。
余剰火力とも思えるその全てが【奈落】へと一斉に襲い掛かる。
【奈落】は巨大な目玉だけを動かすが、回避行動に出る事はなかった。
その場に居た誰もが「これは決まったな」と確信した。
その時だ。
【奈落】の瞳から視界を埋め尽くす光が溢れた。
魔物を倒したときのエフェクトではない。これは……!
それが何であるかに気がついた時、皆、声を揃えて咆哮を上げた。
「「「「ウオォォオオオオッ!」」」」
目から飛び出た光は攻撃だった。それも今までの黒鞭とは違うHPを削る程の強烈な威力の。
ジュウ! と何かが焼ける音が耳朶を震わせる。俺達が脳筋だとしてもHPが削られるならばしっかりと陣形を組み、回復や回避も行う。しかし光線攻撃には攻撃を受けた直後に被撃対象の動きを止めるヒットストップでもかかっているのか、瞬く間に減っていくHPを眺める事は出来ても離脱することは出来ないでいた。
――そしてついにHPバーが一割を切り、俺達の身体が光の粒子となって空に溶け出た。
「「「「ド畜生がああああッ!」」」」
恨み言を最後にHPバーが底を尽く。
ガランと音を立てて装備品が強制的に外された。
使い慣れた白銀の小手に鎧。そしてチートの代名詞【天地開闢ノ塊剣】が無造作に地面に転がるのを眺めながら、俺達は光線に消し飛ばされたのだった。
▽
「クソゲー乙ッ!」
死亡した俺達は漏れなく所属国である亜人連合国に設置された復活ポイントに放り出されていた。その姿は全裸。生まれたままの一糸纏わぬ姿を見つけた現地の住民達達は男も女も真っ赤にして顔を手で覆い隠しながらも指の隙間からチラチラとこちらを覗いている。
「お母さん、あれなにー?」
頭からピョンとケモミミを生やした子供が母親の袖を引きながら俺達の尻を指差しながら訊ねていた。母親は静かに子供の顔を手で隠し「見ちゃいけません!」と言っているが俺達は見られて恥ずかしい身体でもなければ筋肉をしていない。
それよりも三時間以上も掛けた上に負けたことが悔しくてしょうがなく、ケツを丸出しにしたまま背中を丸めて地面を叩いた。
「道中脳筋有利だったからついに時代が追いついてきたと思ったのに……クソがッ!」
「ないわーマジ、ないわー!」
「あんなん、どうしろと! どうしろとッ!」
誰一人装備品を失った事に対する悲しみを口にしない。
確かにレア度も装備効果も半端じゃない神話級装備だが、PK戦が盛んでポロポロ装備を失うこのゲームに措いて言えばプレイヤーが熟練になる程武具の喪失に頓着していない。幾度もロストを経験して心が折れていると言えばそれまでだが、そこは慣れだ。同じものを手に入れようと思えば気を失いたくなるが、言っても仕方がないのである。もう一回遊べると思えば逆に得した気分にすらなるのは調教されているからなのだろう。
メンバー達も同じ気持ちなのか、いつの間にか他の装備を装着し既に立ち上がっていた。
「ハウンド、リベンジだッ!」
「応とも!」
――そして、その日のうちに俺達は再び【奈落】の前に立ちはだかった。
装備の等級は下がったが、今度は油断せずにしっかりとレイドのセオリーに倣い、堅実な攻めをする。
しかし、
「「「「ぐあぁあぁぁああぁ!」」」」
結局、ノーモーションで繰り出されるチート光線の前に成す術もなくやられて伝説級装備を失った。
だが諦めない。亜人連合国【中心王都トルメニスタ】の噴水広場には一瞬で消え去っては全裸で現れる俺達を一目見ようと多くの住民が集まっている。しかしそんな事はどうでもいい。あの【奈落】の野郎を倒す。今はそれしか頭になかった。
「もう一本!」
「「「応ッ!」」」
今度はしっかりと戦略を組み、回復ポーションをがぶ飲みしながら攻める。
アイテムボックス内に死蔵されていたHPを全快させるバカ高い完全回復薬から、八十から九十%を回復させる最上級回復薬の大盤振る舞いだ。
――しかしそれでも、
「「「「んほぉおぉおぉお!」」」」
たったの数秒、街にリスポーンされるまでの時間稼ぎにしかならなかったのである……。