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贈りたい、その笑顔

 なーんだ、つぶつぶのプレゼントだったの?

 つぶつぶのプレゼント、あたしのよ。せっかくのプレゼント交換会なんだから、知らない誰かからもらいたかったけど、ありがたくいただいとくわね。

 コンパクトサイズの手帳。男でも女でも違和感ないスタイル。さすが、つぶつぶね。手堅いわ。

 で、あたしのは……クマのぬいぐるみよ。

 わ、悪かったわよ! プレゼントを探しに行ったら、つい、ふらふらーと食指が動いちゃったのよ! 

 だって、見て! この目、かわいいでしょう! 抱き心地、最高でしょう!

 そりゃあ、つぶつぶは男だから、分かってもらえないかも知れないけどさ……。

 あー、乱暴に扱わないでよー! え、ぬいぐるみが哀れと思うなら、面白い話をしてみろ?

 くう、つぶつぶのやり口は、いつもそれね! わかった、話すわよ。プレゼントにまつわるお話。満足しなさいよ!


 プレゼントの包装の仕方って色々あるわよね?

 今回の私やつぶつぶのプレゼントの場合だと、紙の包装紙の上からリボンをあしらうスタイルね。

 昔からリボンや紐の類って、重宝されるわよね。何かを飾り付けたり、おまじないに使ったり、果てにはミステリーの凶器やトリックに使われたり。

 細長いものっていうのは、生活とはもはや切っても切れない関係にあると言えるでしょうね。

 これから話すのは、とある小学校低学年の女の子の話よ。


 梅雨がいよいよ、本格的になろうかという、六月の終わりのこと。

 雨が降り続いているものだから、いつも外で遊んでいた男子連中は、教室の中でくすぶっていた。あったんじゃない? 軍手をボールに、ほうきをバットにして遊ぶこと。

 それで、雨の日は教室中が大騒ぎになっちゃってね。とうとうボール代わりの軍手が教室の外に飛び出して、担任の先生の頭に直撃しちゃったみたいなの。

 みんな、すっかり固まったわ。

 だって、普段はカンカンに怒り出す先生が、ぶつけられた軍手を握りしめながら、ニコニコ笑っているんだもの。「キレた」って誰もが思ったわ。


 次の時間は先生の授業。先生が教卓の前に立つまで、クラス全員が、おっかなびっくりで、いつ雷が落ちるかを待っていたらしいの。

 先生はニコニコ笑ったまま。でも手に紙袋を提げていたわ。そしてその中から、黒いリボンを取り出して、五本ずつクラスのみんなに配っていった。

 明日は、朝のホームルームでプレゼント交換をしましょうという提案。あまりに唐突だったけれど、さっきの引け目もあって、みんなはコクコクとうなずくばかりだったの。

 その様子を見て、先生はあるリボンの結び方を教えてくれたわ。その結び方をした、自分の大好きなものをプレゼントとして持ってくるようにって、相変わらずニコニコしながらね。


 どのような結び方かって? それがね、詳しいことはその子が教えてくれなかったのよ。何より、その子自身が今だにあれが本当だったかどうか、わかっていないのだから。

 ただ死装束に使う、縦結びをするということだけは確か。

 それで、その子がリボンを手に家に戻ると、弟が帰ってきていたわ。

 彼女より一つ年下。本を読むのが好きな子で、ページをめくるのに合わせて首を傾げるの。その仕草が、何より彼女のお気に入りだったんだって。

 そして、姉が帰ってくるのを見ると、弟が「お姉ちゃん!」て駆け寄ってきて、笑顔で抱き着いてくるんだって。

 ああ、私が一番大好きなのは、弟だって、彼女は確信したわ。だから、この子をみんなにプレゼントしようと思ったらしいの。

 彼女は部屋の中で、弟に座るように促したわ。そして、先生の言うとおりに、リボンを弟に結んでいった。弟はその間も目を輝かせながら、彼女のことを見つめていたそうよ。

 先生の結び方は、人間に当てはめると、両手と両足。そして首に巻きつけるものだったらしいの。彼女は手足を結び終わり、最後に首にリボンをかけ始めたの。当然、首を絞めないように、慎重にね。

 そして、彼女が五本のリボンを結び終わり、まばたきをした次の瞬間。


 弟の姿が消えたわ。五本のリボンだけを床に落として。

 目を疑った彼女は、必死に部屋中、家中を漁ったけれども、弟の姿はなかった。

 だけれど、彼の荷物はある。先ほどまで読んでいた本もある。確かにいたはずの彼だけが、消え去ってしまったの。

 ほどなく、お母さんが家に帰ってきて、あわてていた彼女は、お母さんに弟が消えてしまったことを話したわ。

 すると、お母さんは大笑いしたわ。弟は今日、林間学校に行っていて、帰ってこないじゃないかって言ったの。

 そんな馬鹿な、と彼女は詰め寄ったけど、台所のカレンダーには、今日が弟の林間学校ということが書いてあった。冷蔵庫にも林間学校のお知らせのプリントが貼ってあったわ。

 さっきまで、確かにそんなものなかったのに。


 結局、彼女は家にあったクッションの一つを紙に包んで、件のリボンで結んで学校に持って行ったわ。プレゼント交換が行われたけれど、彼女は自分自身のプレゼントを当ててしまったの。

 本来なら、やり直しになる。だけれども、先生はあえてそのままにしたらしいの。

 昨日以上にニコニコ笑いながら、彼女を見つめて、「それでいいわよね」と念を押してきたみたい。彼女が文句を言う、隙がなかった。


 やがて、弟が林間学校から帰ってきたけれど、以前とは少し違っていた。

 スポーツをよくするようになり、彼女の呼び名も「お姉ちゃん」から「姉貴」になったんだって。

 そして、姉が帰ってきた時、笑顔で抱き着く代わりに、「ば~か」って頭をこづいていくのだそうよ。



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