理不尽なプロローグ
この話はフィクションです。
実在の特定宗教団体とは一切関係がありません。含むところもありません。
「とゆーわけで魔法少女になってねー」
「何が『とゆーわけで』なのかサッパリだしそもそも俺は男なんだが」
そう、今まさに目の前の妖精?らしい怪しい謎生物に魔法少女になれなどと戯けた寝言をほざかれた俺は紛う事なくXY遺伝子の保有者であり、また罷り間違っても女に見られるような外見でもない。
自分で言うのもアレだが、友人からは吸血鬼やら超常能力者やらと戦うロマンホラーな漫画の第一部の主人公(青年期)に外見だけは似ていると評される程だ。
ちなみに目の前の妖精……と呼ぶのを憚りたい奴の外見は身の丈三十センチ程の人型で背中から蝶(いや蛾か?)っぽい感じの羽を生やして動いて喋って宙に浮いている。
それだけなら妖精と断じてもおかしくないし、魔法とかも戯言と否定する事なく信じるに値するだろう。
……その見た目が世紀末でヒャッハーなモヒカンでさえなければ。
しかもキンキンのアニメ声だから違和感ハンパ無ぇ……。
「えー? そこはカクカクシカジカと同じで説明した前提でスルーしてよー。物語を円滑に進める基本だよー?」
「ワケわからん事言ってんじゃねーよ?! それと問題にしてるのはそこだけじゃねーからな?!」
「もー、我侭だなー。仕方ない、それじゃーもう一度説明してあげるよー」
「や、我侭も何も一切説明されてないからな? いきなり『とゆーわけで』だったからな?」
「そーだっけー? まー細かい事は気にしない気にしない。それじゃー回想シーンスタートー」
§§§
『と言う事で新たな魔法少女を探し出すのじゃ』
『なるほど天丼ですね』
『テンドン……? お主の言う事は時々意味不明じゃの。ちゃんと理解したのかの?』
『あ、Ctrlスキップで読み飛ばしてしまったのでもう一度始めから良いですか?』
『サッパリ意味が判らんのじゃよ?! 全く、それが上司に対する態度かの?』
『まぁまぁ、寛大な女王様に在られましては憐れな読者の為にもう一度説明をお願いします』
『ドクシャって何じゃ? お主はそのような名ではなかろうに。
ほんにしょうのない奴じゃの、今度はちゃんと聞くのじゃぞ?』
『のじゃロリとか読者に媚び過ぎだと思います女王様』
『別にお主に媚びた覚えはないし、それとのじゃはともかくロリって何じゃ……?
良く判らぬが話を聞くのじゃ!
コホン、最近、物質界から幻想界への想念力の流入が少なくなってきておる。
嘗ては人間達の夢や想像による想念力で我らの幻想界も力に溢れておったが、最近はサンタも妖精も信じない者達が増えてきており、このままでは何れ幻想界を維持する事も叶わなくなるやも知れん。
もし此処が崩壊するような事態になれば我らはまた人目を避け』『長いので三行でお願いします』『真面目に聞く気あるのかお主?!
とにかく! 幻想界が崩壊しようものなら、我らはまた、自分達の神以外の幻想を認めない頭のおかしい宗教家の弾圧や、UMAと称して捕えようとする輩やらに脅え暮さねばならなくなる!
そうならない為にも、我ら妖精が使う、想念力をエネルギーとする力[魔法]を貸与した魔法少女を擁して、夢や希望を人の世に齎すのじゃ!
そうなれば、幻想界への想念力の供給を強化できる。
さらに魔法少女が世に評価され、そのパートナーたる妖精や幻獣の存在も市民権を得て世論を味方につける事ができれば、万が一の事態に宗教や科学の弾圧から身を守る事にも繋がるのじゃ』
『なるほど、判りました。大変そうですが頑張ってきてください』
『お主が行くのじゃよ?!』
『え~、面倒だからパスで。もとい、その大任を賜る栄誉は他の妖精に譲ります』
『本音がダダ漏れなのじゃよお主……』
『でもほら、世論を味方に付けるにはビジュアルも大事ですし、その点僕は【衣装変更】ほら、見た目こんなですから向いてないと思います』
『さっきまで普通じゃったよな?! 今魔法で姿変えたじゃろ?!
なんじゃ? その雄鶏みたいな頭と奇妙な化粧と刺々の沢山付いた服と筋骨隆々な体は?
……まぁ、そのように器用に魔法を使いこなせるお主じゃから適任と判断したのじゃ。
幻想界の未来の為、行ってくれぬかの?』
『拒否権を行使します』
§§§
「と、まぁ、色々ゴネたんだけど最後は叩き出されちゃってさー。全く横暴だよねー?」
「……色々とツッコミたい事は山ほどあるが、お前が人間の世界に来た理由は判った。
だが何で俺が魔法ナンチャラに選ばれるんだ?」
「魔法少女を選ぶ基準は幾つかあるんだけどー、ざっくり説明するとねー。
第一に、魔法に適正がある事ー。これがないと魔法が使えないからねー。
第二に、魔法を悪用しない心である事ー。魔法で犯罪とかされるとイメージダウン甚だしいからねー。
ついでに第三は、見た目が良い事ー。イメージ戦略的にビジュアルが整っている方が良いからねー。
けど、これは必須と言うほどでもないかなー? いざとなれば魔法でいくらでも変身できるし。
あとは若ければ若いほど良いかもー? 世間は子供に甘いからねー。
でもこれも必須じゃーないかなー? やっぱり魔法でどうにかできるし。
と、まー、こんな条件で〔探査〕してー、見つけたのが君ってワケー。納得したー?」
「なんだか不穏な単語が聞こえた気がしたのだが?」
「それじゃー早速、僕と契約して魔」「その台詞は問題がありそうな気がするから止めろ」「えー、仕方ないなー。
まー、難しく考えずに魔法少女になっちゃいなYo! You!」
「何でラップ調なんだよ。それはともかく、理由は判ったが俺は承知した覚えは無いし、そもそもその条件には致命的な問題があるだろうが」
「えー、なにがー?」
「せ、い、べ、つ、だよ! 性別!! さっきから言ってるだろうが! 俺は男だって!
男が魔法少女とか前提からしておかしいだろうが!!」
「えー、別に問題ないよー? 言ったでしょー? 魔法でどうとでもなるってー」
「……………………へ?」
「重要なのはー、魔法を正しく使える善人である事かなー。かなり貴重な素養なんだよー?
それさえあればー、あとは副次的なオマケだからねー。
外見を変更するぐらいチョチョイのチョイだよー?」
「……きょ、拒否権を行使する……」
「他に探すのが面倒なので認めませーん。
言う事聞ーてくれないならー、【御都合物品調達】~、じゃじゃーん!
これはなんでしょー?」
「……手紙?」
「え~と~、相手の名前はプライバシーを考慮してー『全略、Y・Yさん(仮名)』ププー、全略だって! 前略って書きたかったんだろーけど。えー『あなたは運命を信じますか? 僕は信じてます。きっとあなたと僕は運命の赤い糸で」「ちょっ! ちょっと待て! まさかその手紙は?!」
「ふふーん、そーだよー? 君が中学一年の時にクラスで最初に隣の席になって笑顔で挨拶されてチョロく惚れたY・Yさん(仮名)に宛てた手紙だよー(笑)」
「バ、馬鹿な?! アレは彼氏がいる事を知って誰にも見せる事なく処分した筈!」
「魔法で過去から取り寄せましたー。他にもー、転んだ時に優しくされた保健委員の子(両想いの幼馴染有)やー、苦手な科目を根気よく教えてくれた先生(人妻)やー、部活で親切に面倒を見てくれた先輩マネージャー(部長と付き合ってた)なんかに書いた手紙とかもあるよー?」
「な、な、なん……で…………」
「断られたりしたらー、悲しみのあまりー、これらをスキャンしてー、ネットに実名入りで拡散しちゃうかもー?」
「ちょ! お前はそれでも夢と希望を齎す使命を帯びた妖精かー?!」
「ふふーん、さてさてどーするー?」
「く……、わ、わかった……」
「えー、聞こえなーい。おーっと、データのスキャンが完了したかなー?」
「どうかっ! 魔法少女をやらせてくださいっ! お願いしますっ!(泣)」
「えー? しょーがないなー、そこまでゆーなら魔法少女にしてあげるよー」
「…………(地獄に落ちろコンチクショー!)」
こうして俺は、理不尽な妖精に脅迫されて魔法少女をやる事になってしまったのだった……。
気が向けば続きを書くかも知れないっぽい。