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花火大会

作者: 小五郎

小学生の頃、母にねだって一度だけ宇治川の花火大会に連れて行ってもらったことがある。


母は人ごみと暑さが大嫌いな人だ。

それに加えて、その頃住んでいた家は高台に建っており、家の窓から花火大会を見ることができた。


だから母にしてみれば、わざわざ見に行く必要もなく、クーラーの効いた涼しい部屋の窓から、夏の風情を楽しむことがよかったに違いない。


僕は相当ごねたんだと思う。

母は「暑い、暑い」と言いながら、渋々僕を連れて行ってくれた。


花火大会に僕が行きたかった理由は、花火以外にもう一つあった。それは出店、屋台だった。


花火大会が開催される宇治川に行くまでの道に商店街がある。そこは毎年、花火大会のときに、出店、屋台がずらりと並ぶ。くじびき、わたあめ、金魚すくい、焼きとうもろこし、リンゴ飴などなど。僕が大はしゃぎする縁日さながらの賑わいだ。


出かけるとき、母は僕にこう言い聞かせた。

「連れて行ってあげるし、約束やで、絶対、手ぇ離したらあかへんで。」


果たして、商店街は人でごった返していた。人で溢れる商店街を歩いて行くあいだ中、母は僕の手をギュッと握って「手を離しなや!」と言っていた。そんな母の心配など全く気にしないで、僕は自分の興味に夢中で進んでいた。


そうこうしている間に、花火の予行も終わり、日も暮れて、花火大会が始まった。


ドーン!


雷が僕の心臓を打って、炎が夜空に打ち上げられた。そして、砕け散る光が僕を包みこむように落ちてくる。

広がる光の円、落ちてくるシャンデリア、火の川、炎の広がり。

満天に広がる星よりも輝く花火。


あんなに花火が大きかったのは、僕がまだ子どもだったからかもしれない。

大人になった今では、到底感じることができない衝撃だった。


その日、母が一番言った言葉は、「手を離しなや!」だった。親になった今だからわかる。人ごみの中で必死に僕の手を握った汗ばんだ母のぬくもりは優しさだった。


翌年からは親戚が来たり、大きくなって友達と行くことになったりで、母と花火大会に行くことはなくなった。


「パパは優しい」と子どもたちは言ってくれる。でも僕の優しさは、僕のものではなくて、母のものだということに、子どもたちは、いつか気づくだろうか。


そんな、母の優しさを子どもたちに残すために、僕は生きているのかもしれない。

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