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16:魔女見習い、仲裁する

 城に戻った後、再びメアリは忙しく駆け回ることとなった。


 まずは湯浴みで雨に濡れた体を洗い、新しい仕着せに着替え。  

 次に簡単な所作、マナーを通りがかった侍女に教えてもらい。

 そして最後に会食の場の隅に陣取れば、これで準備は万端だ。


「でもわたし、さっき教えてもらったマナー、完璧にやりこなせる気がしないんですが……」

 メアリは教養もない一介の小娘だ。付け焼刃のマナーで王族の前に出ろと言う方が無理というものだ。


「大丈夫だろ。お前が立っているのは部屋の隅っこ。給仕も他の者がやるから、ただ黙って見ているだけでいい」

 メアリが侍女にマナーを学んでいる間に、アベルのも湯あみを終え、正装に着替えていたようだ。窮屈そうな首元をいじりながら、アベルは言う。


「それに、誰も普段は部屋の隅っこなんか気にしない。堂々としていればいいさ」

「……そうだといいんですけどね」

 メアリはボソッと呟く。


 何にせよ、メアリは王様、王妃様の御前に出るのは初めてなので、緊張していた。成功というか、メアリ自身はただ無事に晩餐会が終わることだけを祈る。


「――って、わたしは具体的に何をすればいいんですか。ただ黙ってみているだけってわけにもいかないでしょうに」

 アベルの言う黙って見ていろ、とは表向きのこと。本題は婚約を成立させない方だろう。


「そうだな……父や母もいるからな……。作戦は慎重じゃないと」

「と、言いますと?」

「気づかれない程度に、話を妨害してほしいんだ。ほら、お前の術で話を妨害する、とか」

「魔術……ですか?」

「そうだ、あの風――いや、嵐を出せばいいじゃないか。あれなら会話どころか姿を見ることすらできないぞ」

「いや、気づかれない程度って、誰だって気づくでしょ。ってか、こんな部屋の中で嵐が出現すること自体おかしいでしょうが」


 呆れたようにメアリが突っ込んだ。

 アベルに任せていては駄目だ、とメアリ自身も策を講じる。


「エリス様と取引をする、とかどうでしょう?」

「どんなだ? 俺たちはあいつの好物すら知らないぞ」


 それは確かにそうだ。

 しかし好物……と言われて思い浮かぶのは。


「エリス様の考えが傾くよう、ウィリスさんに助けを求める、とか」

「ウィリスさんはあいつに忠誠を誓ってるからな。俺たちの味方になりはしないだろ」


 八方塞がりなこの状況に、二人してうんうん唸った。しかしそれで何か良い案が浮かぶわけでもない。


「わたし、エリス様にもう一度ご意向を確かめてみます」

 思い立ち、メアリはバッとアベルの方を向いた。


「こうしていても埒があきませんし」

「しかし……なあ。無駄じゃないか? あいつ、意志が固そうに見えたからな」

「…………」


 先ほどからメアリの意見をことごとく否定するアベルに、彼女は蔑むような視線を送った。そして言い放つ。


「さっきの殿下の意見よりはましです」

「…………」

 何も言えないアベルを尻目に、メアリはさっさとエリスの部屋へ向かった。


 メアリがエリスの部屋に声をかけて入った時、丁度彼女の身支度も終わったようで、慎ましいドレスに身を包んだエリスがこちらに背中を向けていた。


「もういいわ。下がって大丈夫よ」

 エリスの侍女はエリスとメアリに頭を下げ、退出する。

 二人っきりだ。


「エリス様、お綺麗ですね」

「ありがとう。婚約者に会うのだからって侍女が気合を入れたみたい。――まあアベル相手に気合を入れてもしょうがないんだけどね」


 フッとエリスは鼻で笑った。その様子に、殿下がここにいなくてよかった、とメアリは心中で漏らした。


「それでエリス様……」

「晩餐会のこと? そうね、きっと婚約の話になるでしょうね」

 メアリが言い出す間もなく、エリスは察した。


「私、父に婚約を取り付ける様に言われて来ているのよ。だからあなたたちには申し訳ないけれど、私は彼と婚約するつもりよ」

「そう……ですか」

 取り付く島もないエリスの様子に、メアリはただそう漏らすしかなかった。


 考えてみれば、メアリは部外者だ。それも、アベルに借金を返すために協力している、ただの魔女見習い。そんな彼女は現在、アベルの目的――婚約回避のために動いている。


 そう、確かに始めはそうだった。が、今では単にエリスに幸せになってほしい、愛する人と結婚してほしいと願っている。


 願っているのだが、そう見せかけて、実は内心ではアベルのため――しいては自分の借金返済のために動いているのではないか。エリスの葛藤も知らないまま、これでいいのかと横槍を入れるのは単なるエゴではないのか。


 そんな複雑な思いが身をもたげ、これ以上口を挟むのは憚られた。


「もうそろそろ、晩餐会の時間じゃない?」

 エリスがそっと口を開いた。


「あ……そうですね。急いで行かなくちゃ」

「メアリのその恰好……もしかして給仕をするの?」

「あ……給仕なんて畏れ多くてできませんよ。ただ隅っこでぼーっと立ってるだけです」


 メアリは両手を振って苦笑した。その様子に合点がいったのか、エリスも笑う。


「アベルね、アベルが居てほしいって言ったんでしょう?」

「よく分かりましたね」

「なーんとなくね。初めて私と会う時にもメアリを傍に置いたから」

 あ……それは成行きなんです、とメアリは口を開きかけたが、面倒なのですぐに閉じた。少々の汚名くらい被ってもらおうとの魂胆である。


「では、行きましょうか」

 エリスは立ち上がり、メアリもそれに続いた。


 晩餐会が催される食堂に着くと、そこにはすでにアベルの姿があった。

 どうだった、と言う目で見られたので、メアリはエリスの後ろで小さく首を横に振った。彼はあからさまに落胆した表情になった。


 そのすぐ後、王と王妃が連れだって現れ、席に着いた。メアリもすでに部屋の隅っこに陣取り済みだ。至って順調に晩餐会は開かれた。


 始めはアクロイド国、エルウィン国の近況をそれぞれ伝え合うという堅苦しいものだったが、メイン料理が運ばれてくるような時間になると、次第にその話題も軟化し、身近な物へと移った。生まれや育ち、趣味や教養、世間話や噂話など、王女と王妃、女性二人の話題は事欠くことがない。王とアベルは、時々その話に相槌を打つくらいで、終始居心地悪そうに料理に専念していた。


 ――殿下、わたしの肉はあるんですよねちゃんと残りますよね残らなかったら承知しませんからねわたしの目の前でおいしそうに平らげちゃってっていうかそれちょっとまだ骨に肉が残ってるんですけどいくらナイフじゃ食べにくいからってそれは無いんじゃないでしょうか肉への冒涜です反逆罪です許されません死刑です。


 メアリの方も、アベルの肉料理に注意が逸れていた、そんな時。


「ところで、先日の顔合わせはどうだったのですか?」

 王妃がにこやかに聞いた。途端にアベルとエリスは顔を見合わせた。どちらが話すか、何を話すか一瞬のうちに視線が交差したのだ。


 メアリは陰ながらアベルを応援する。ここでエリスに先手を打たれてしまったら、こちらとしては非常にまずい立場になる。


 殿下、頑張っ――。


「はい、とっても楽しく過ごすことができましたわ」


 真っ先に先手を打たれた!!


 というか殿下、ものすごく悔しそうな顔でこっちを見ないでください。俺だってよくやったんだみたいな顔をしないでください、腹立たしい! 口を開こうともしてないの、こっちから丸わかりでしたから!


「そう、それはよかったわ。アベルはどうだったの?」

 王妃の矛先はアベルへと向かう。ここで主導権を握り返すためには、形勢逆転を狙わなければ。もし万が一、エリスのことを気に食わないとアベルが申したなら、婚約ももう一度考え直されるだろうが、しかし、誰がこの格式ばった晩餐会の場で、女性の悪口を言えるだろうか、いや、言えな――。


「俺はそれほどでも。話が合わないような気はしました」


 ――殿下っ! もう少し言い方ってもんがあるでしょうが!


 ある意味、確かにある意味ではアベルの行動は正しいと言えよう。この台詞のおかげで、きっと王妃たちは彼らの婚約のことを考えなおしてくれるかもしれない。がしかし、


 ほらほら、エリス様がわなわなと震えてるよ! そりゃそうだよ! 公共の場で振られたようなものだもの!


「アベル……そんな言い方は無いだろう。エリス姫に失礼だぞ」

 王様がメアリの思いを代弁するかのように、アベルを取り成した。しかしエリスはそれを華麗にスル―。


「そうですか? 話が合わないというほど長い会話もしなかったような気がするのですが。アベル殿下が緊張していらっしゃったので」


 反撃きたぁーーー!!


 今度はアベルが羞恥に真っ赤になる番だ。ある意味事実なので、彼に反撃の術はない。


「ま……まあまあエリス姫。アベルはあまり女性と接したことがないんだ。チャラチャラした軟派男よりは、アベルのような硬派な男の方が良いと思うんだがなあ」

 さすがとしか言い様のない王様のフォローに、メアリは感動する。しかし、アベルもそれを華麗にスル―。


「あなたも会話を続けようという努力は見られなかったが? それに途中で庭へ行くとだけ告げて部屋から出て行ったときは驚いた。こんなにも自分勝手な姫がいるのかと」


 殿下それ墓穴、完全に墓穴!!


 エリスが急に部屋を出て行ったのは沈黙と、そしてアベルが侍女――つまりメアリをじろじろ見ていたことに居心地の悪さを感じたからである。それを真っ向からエリスに告げられていたにもかかわらず、この大事な瞬間に持ち出すとは――。万が一エリスに、アベルは侍女と通じている、などと言われてしまえばもう王子の立場は無いも同然。この場は一気にエリスの方へと傾くだろう。


 しかし有り難いことにエリスはうっと詰まるだけで何も言わなかった。チラッと気遣わしげな視線もこちらに向いた。


 そのことに、思わずメアリは歓喜に浸る。

 おそらく、エリスはメアリの身を案じたのだ。メアリとアベルが通じていると一言告げるだけで、彼女の勝利は確定する。にもかかわらずそう告げないのは、ひとえにメアリのためだろう。王様にそのことを告げれば、十中八九メアリは厳罰を下される。アベルのことは(たぶん)どうでもいいが、厳罰されるだろうメアリのことを思ってここは口を開かないのだ。


 ――エリス様、わたくしメアリ、一生ついていきます! 殿下なんかさっさとやっちゃってください!!


 メアリはすっかりエリスに寝返った。


「ごめんなさい、どうも沈黙が痛くて。でも女性に洒落た話題の一つも振れないのは紳士としてどうかと思うわ」

「途中でいきなり部屋を出て行くのは淑女としてどうかと思う」


 殿下、それさっき使いました。あんまり威力ないです。


「それは先ほど沈黙が痛かったから、と言いましたよね? 何度も掘り返さないでくださらない?」


 ほーらー! エリス様の方が一枚上手だって!


 先ほどはエリスに一生ついていくと豪語したメアリだったが、エリスにやり込められていく哀れなアベルを見ていると、次第に応援したくなってくる不思議。


 アベルは形勢逆転を狙うつもりなのか、一つ、場違いな咳ばらいをした。皆が、彼を注目した。


「どうやら、エリス嬢は俺のことを嫌っているようだ」

 エリスは驚いたように目を見開く。対するアベルはしてやったりという顔になる。


「そうと決まれば話は早い。この婚約は無かったことに――」

「誰が嫌っていると言いました?」


 エリスはにっこり笑う。


「別に嫌ってなどいませんわ。確かにアベル様はデリカシーもないし、話も下手ですけれど。年下だから、まだ未熟だからと思えば可愛いものですわ。私はぜひアベル殿下と婚約したいと思っております」

 エリスが言い切ると、シーンと場は静まり返った。先ほどは自信に満ちていたアベルも、今度ばかりは蒼白だ。


 先に我に返ったのは王様だった。にこにこと笑いながら手を叩く。


「お……おお、良かったなアベル!! エリス姫もこう言ってくれていることだし――」

「嫌です」


 アベルは即答した。その言葉は否定であり、国にとってはマイナスなことである。にもかかわらず、会話がやっと成立したことが余程嬉しいのか、王様は笑顔で頷く。


「まあまあ、何を照れているのか――」

「あなたが良くても俺は嫌です。第一、性格が合わなさそうだ」


 ――残念。先ほどのアベルの言葉は王様に対してではなかったようだ。

 再び王様が落ち込む。


 そんな父を尻目に、アベルは止めを振り下ろす。


「あなたと結婚したら尻に轢かれるのは目に見えている。そんな生活は絶対に嫌だ。俺は父みたいにはなりたくないのでな」


 王様はついに両手に顔を埋めた。

 王妃はそんな夫を複雑な思いで見つめ、ポンッと肩に手を置いた。


 自分たちの心無い言葉、態度が王を傷つけているとも知らずに、アベルとエリスは勝手にヒートアップしていた。


「尻に轢くですって? それはもちろんそうしますわ。夫の手綱を引くのは妻の仕事と昔から言うではありませんか」

「だからそれが嫌だと言ってるんだ。俺は俺のしたいようにする」

「そうして出来上がったのが今の殿下だ……と」


 一旦口を閉じると、エリスはわざとらしくアベルを上から下まで眺める。そしてフッと鼻で笑った。


「将来一国を担う王子とは思えないほど子供っぽく、そして我儘。王子としての自覚もなく、護衛もつけないとよく聞きます。民衆のことなど目もくれず、王宮に引きこもっていたかと思えば、突発的な思い付きによって護衛もつけず外へ出る。これのどこが王子だと?」

「…………っ」


 反撃の隙も与えないエリスの完璧な物言いに、アベルは悔しそうに唇を噛んだ。しかしすぐに何やら思いついたのか、勢いよく顔を上げる。


「お……お前だってな――!!」

 咄嗟に、アベルはウィリスのことを言及しようとした。


 お前だってウィリスさんのことが好きだろ。好きな人がいる癖に違う男と結婚するって言うのか。

 弱点を突こうと、相手のことも考えずに口まで開いた。しかしすぐに閉じる。


 エリスは自分と違う。自分と違って我儘など言わず、自分の心を押し殺してでも国のためと生きている。

 そんな彼女を非難するのか、この俺が。


「何でしょうか?」

 言葉を途切らせたまま口を閉じている彼を、エリスは挑発的な笑みで見つめた。


 その笑みで、アベルは自分が引けないことを悟った。

 しかし、もうあの台詞は言えない、今の俺には。


 焦っている自分と冷静な自分とが衝突し合った。そうしてアベルの頭に浮かんだものは、ひどく単純なものだった。単純で、それでいて破壊力抜群のもの。


「あ……足が臭いだろ」


 場が凍った。


「な……何ですって……?」

 エリスは口元をひくつかせた。


「俺はな、足が臭い女は嫌いなんだ。だから婚約は無しだ」

 我ながら意味が分からない。


 しかし咄嗟に出た言葉はもう取り消せない。このまま突っ切ろうとアベルは決心した。

 けれどもエリスにとってはとんだとばっちりだ。わなわなと震え出す。


「あんた……今なんて言った……? 足が……私の足が、臭いですって?」

「ほら、化けの皮が剥がれた!! 見ました母上!? こいつはいつもこんな感じで俺を――!」

「黙らっしゃい! ほら、そんなに言うなら嗅いでみなさいよ!! ほらほらほらぁぁぁーーー!!」


 エリスがキレた。怒り狂ってアベルを捕まえようと勢いよく立ち上がり、歩き出す。アベルもぎょっとして思わず席を立った。


「な……何怒ってんだよ。ちょっとした冗談じゃないか」

「冗談? 冗談でも言っていいことと悪いことがあるの……!」


 ポキポキと指を鳴らしながら、怒気を含む笑みでエリスはアベルに近づく。冷や汗を流しながらアベルは後ずさりした。そうして彼が辿り着いたのは。


「……メアリ……助けて」

 メアリが立っていた隅っこだった。


「はっ、はあ!? ちょ、止めてくださいよ、話しかけないでください!」

 メアリが怖いのは、アベルでもエリスでもない。


 ――アクロイド国王とその王妃の視線だ。


「隅っこなら誰も気にしないって言ったの誰ですか! 殿下が話しかけたら興味持たないわけないじゃないですか!!」

「メアリ……薄情だぞ。俺を見捨てるって言うのか」

「メアリ……? 退いてちょうだい。私は今からそのクソ餓鬼にお仕置きをしないといけないの」

「ちょ……!? 勝手にやってくださいよ! 殿下もわたしを盾にしないでください!!」


 いつの間にかアベルはメアリの背中に回り込み、身を震わせている。どんだけ打たれ弱いんだ、と呆れたくなるのも当然だ。


 仕方がないので、メアリは腹を括って、エリスを正面から見据えた。


「やる気……なのね? 手加減はしないわよ」

「いや、誰もやる気なんて言ってませんから! ちょ、落ち着いてください本当に! ほら、王様や王妃様の御前ですよ!?」


 声を小さくしてエリスに伝える。しかしその瞳は炎を絶やさなかった。


「ここまでやっちゃったんだから、もうこの際どうでもいいわよ。――でもアベルだけは許せないっ! 私を侮辱したのよ! 一発殴らないと気が済まないわ!!」


 ――ある意味冷静に状況を整理していた。


 確かに、今から慌てて取り成しても遅いですもんね。殿下、諦めてください。

 メアリは心中でアベルに向かって黙祷を捧げた。そんなメアリの雰囲気に、何やら自身の身の危険を察知したのか、さらにアベルは縋り付いた。


「諦めるなよ? 俺の命がかかってるんだぞ!?」

「いや、大袈裟ですから。ていうか殿下、何かキャラ変わってません?」


 メアリと対峙した時は元気一杯に口喧嘩に応戦するくせに、エリスの前ではすっかり蛇に睨まれた蛙状態だ。アベルが打たれ弱いのはもうすっかり周知の事実だが、それでもメアリはその事実が何だか気に食わない。


「何をイチャイチャしているの……? 私への当てつけね!」


 エリスはカッと目を見開いて襲い掛かってきた。アベルは恐慌状態に陥り、メアリを盾にした。


「ちょ……邪魔よ!」

 エリスの方もメアリの肩を持ち、アベルの方へ押しやる。


 メアリを真ん中にした押し合いっこ。


「ちょ、あんた達今何歳ですか……」

 思わずメアリが漏らすのも無理はない。


 前後にフラフラ押される彼女にとって、この状態は堪ったものではない。


「ちょ、あのー聞いてますか、皆さん。こんな低劣な争い止めてくれませんかねー」

「メアリ、俺を守れ!」

「メアリ、邪魔よ!」

「いや、回り込んだらどうですか」


 一体いつまで続くのか、この幼稚な争いは。


「何だか……目が回ってきましたよ……」

 メアリがそっと呟いた。


 何度も前後に振られるせいで、気持ちも悪くなってきた気がする。同時に、ふわふわと妙な高揚感も感じる。


 ……あれ、本当に、回ってる……?

 メアリはふっと意識を失った。


 突然腕の中でメアリの力が無くなっていくのを感じ、アベルとエリスは仰天した。急いでその小さな体を抱き留める。


「メアリ!」

 薄れゆく意識の中で、二人の声が遠く聞こえたような気がした――。

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