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11:魔女見習い、企む

 夕餉の後、メアリはエリスの部屋の前に立っていた。もうすっかり日は落ち、夜の帳が下り始めていた。いつのならとうの昔に家に帰っている時間である。延滞料金でもふんだくってやろうかとも思っていたが、約束通り、メアリはアベルの夕餉のメイン、肉料理を頂いたので少しばかり溜飲を下げた。


 少々緊張しながらも、メアリはしっかり部屋をノックして声をかけた。アベルの時とは大違いである。


「エリス様、メアリです。今、お時間はよろしいですか?」

「……メアリ? どうしたの? 入っていいわよ」

「失礼します」


 ドアを開け、その隙間に身を滑り込ませた。エリスはソファで本を読んでいたらしく、顔をこちらに上げた。


「どうしたの?」

「え……っとですね」

 何となく気恥ずかしく、メアリはコホンと咳払いをする。


「あの、ですね」

 しかしなかなか口火を切らない。エリスは怪訝な顔をした。


「何か伝言でも?」

「そうではなくてですね……」


 意を決してメアリは顔を上げる。

「お茶会、しませんか?」


 エリスは一瞬きょとんとした後、すぐに疑い深い表情へと変わった。


「お茶会……? いったい何を企んでるの?」

「い、いえ、何も……。ほら、エリス様にとっても良い機会ですよ? 将来の夫となるかもしれない殿下と仲良くなれるかもしれないので」

「無理じゃないかしら。あの人、精神年齢低そうだし。それに口下手じゃない。お茶会なんかで二人っきりになったらそれこそ静かになって気まずくなりそうだわ」


 エリスのアベルに対する印象が最悪であることは重々承知。しかしそれを見越してのこの計画。

 メアリはしたり顔になるのを堪えながらふっと笑う。


「なるほど……。エリス様はやはり静かで気まずいのが嫌だ……と」

「な、何よ?」

「では、わたしもそのお茶会に参加してもいいですか?」

「突然どうしたのよ」

「わたしがいたら二人の間を取り持つこともできますし、何より気まずい何てことありませんよ?」

「まあ、それもそうね……」

「あ、でもそうしたら今度はわたしが何だか気まずいですね。二人のお若い男女の間にお邪魔虫が入り込んでいるみたいで……」

「考え過ぎじゃないかしら?」


 今まで散々エリスとアベルの仲を取り持っておきながら、いきなりしおらしくされると反応に困る。というか、この誘導尋問のような会話自体が腹立たしい。


「――で、つまりは何が言いたいのかしら?」

 自然と鋭い物言いになる。しかしそんなことに臆するメアリではない。


「そのお茶会に、わたしのお友達も呼びたいんです」

「友達?」

「そうです。そのほうがわいわい賑やかになりますし、気まずくなるなんてことは絶対にないです!」


 確かにアベルと二人きりで気まずい思いをするのは嫌だ。しかしそれを回避する手段がどうしてメアリの友人なのだろうか。


 急に現れた友人という単語にエリスはあらゆる角度から疑いの目を向けたが、しかしメアリの交友関係を知らない彼女では、友人とやらの素性を調べるすべはない。結果的に、何もかもが面倒になってきてエリスは頷いた。


「まあ……それならいいけれど」

 渋々ながら、本人から了承の言葉を得ることができた。メアリは内心ほくそ笑む。


「ありがとうございます!」

「日取りはいつなの?」

「えーっとそうですね、明日の昼餉の後なんてどうですか? この調子だと良い天気になりそうですし」

「分かったわ。庭園に行けばいいのね?」

「はい、お迎えはわたしが行きますので、待っていて下さいね!」


 そのまま浮かれた気分でメアリはエリスの部屋を後にした。お茶会が開催されるとなると、まずは準備が必要だ。何から始めればいいのかすら分からないので、熟練者の協力が必要だ。


「あの、すみません、ちょっといいですか?」

 メアリはちょうど通りかかったメイドに声をかけた。


「アベル殿下とエリス様、他数人でお茶会をすることになったんですけど――」

 魔女見習い主催のお茶会は、着実にその形を現していった。

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