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 眠い目を擦りながら出勤したら、同僚の一人がラリアットかましてきた僕の今日の運勢は、立ち読みした雑誌では末吉だったはずなんだけど。これ、凶じゃなかろうか。

「フェイ、お前何やった!?」

「お、おばようごじゃいまずぅ」

「おはようとか言ってる場合か! おい、その馬鹿逃げねぇように締めとけ!」

「お前力なくて役に立たない以外に何やらかしたんだよ!?」

 首を絞められながらも頑張って朝の挨拶をした僕の育ちの良さを、誰か見習ってほしい。ぐえぐえ品なく鳴く僕を、がくがく揺らす同僚達の肩越しに見えた人に、僕はぴしりと固まった。その人がこっちに歩いてきたことに気付いた同僚達から解放されて、呼吸を確保しながら慌てて髪を直す。朝一番から会うとは思わなくて、わたわたと身なりを整える。隊長なんだから、迎えなんて雑事は部下に任せて、自分は鷹揚に構えていればいいのに。まさか隊長自らご出陣。そりゃあ、同僚達も狼狽える。僕も盛大に狼狽えた。だって、彼は生真面目な男だから、部下に任せないで自分で来ると思っていた。今日も朝から凛々しいですね。

「ロイヴァル、おはようござ」

「様つけろバカ野郎――!」

 同僚にすっぱぁんと頭を引っ叩かれてつんのめる。その頭をむんずと掴まれて、無理やり何度も下げられる僕の横で、同僚達も一緒になって頭を下げていた。

「申し訳ありません、ロイヴァル様! こいつど田舎から来た田舎者の中の田舎者で! でも悪い奴じゃないんですよ! 何やったか知りませんが、どうか勘弁してやってください!」

「ほら、お前も謝れ!」

「フェイの馬鹿野郎! 俺らも首になったら一生祟ってやるからな!」

 矢継ぎ早に飛んでくる皆の言葉に返事を返す余裕もなく、がっくんがっくん首を下げられて脳が揺れる。僕は本当に同僚に恵まれたけど、力技はちょっときつい。

 目の前で振り子人形と化した僕に動揺一つ見せない片目は、感情の見えない瞳で僕を見下ろしていた。片目だからではないだろう。たぶん、両目でも感情は読めなかった。それくらい淡々とした目と声だ。

「フェイ・クアーズ。聞きたい話がある。お前の上司には既に話をつけてあるので、私と共に来てもらおう。昨日の続きだと言えば分るだろう」

「はい。大丈夫です」

 背筋を伸ばして背負い直した僕の荷物が引っ張られる。背負い直した動作は無に帰した。虚しい……。荷物を引っ張ったのは先輩だ。同僚達も円陣を組むように僕を囲んで、ひそひそと顔を寄せてくる。無精髭が痛いです。

「お前、ほんと何やったんだよ……」

「何もやってませんよぉ! ちょっと、昨日変な人目撃しちゃったので、それについて詳しく聞きたいんだそうです」

 皆はあからさまにほっと胸を撫で下ろした。

 なんですか。皆、僕が変なことしたと思ってたんですか? 同じ釜の飯を食っ……てはないけれど、同じ職場で働く仲間じゃないですか。寮ではないから同じ釜の飯を食ってはないけれど、酷くないですか!

 ぷんすこ怒って膨らませた頬は、荷運びで厚くなった皮が張った指に潰された。更に、ぶさいくだなぁとしみじみため息をつかれた。酷い。訴訟である。訴えてやる!

「ほら、飴やるから元気出して行ってこい」

「わあ! イチゴ味だ! ありがとうございます! 行ってきます!」

「……ちょろい」

 何か聞こえたような気がするけれど、僕はイチゴ味の飴を食べるのに必死でよく聞こえなかった。朝ご飯食べてないから、甘さが胃に染みわたる。ああ、幸せだ。

「ふぇは、いっへひまーふ!」

 食べている口の中が見えないよう口元を手で覆い、ぶんぶん片手を振った僕に、同僚達は手を振り返してくれた。皆の眼には、あいつ本当に大丈夫か? という色が浮かんでいたように思うけれど、僕はこんなにも元気なので皆は心配性だなーと思った。




 皆の心配は真実だった。僕は全然大丈夫じゃないし、全然先が読めない馬鹿です。

 僕は、嫌な汗を流しながら高そうな紅茶を頂く。あ、このお茶、西方で取れる茶葉だ。少量しか取れないから凄く高いのに、やっぱり王城は一味違う。

 関係ないことを考えるのは現実逃避だ。

 僕の前に座っているのは刺繍の顔、ではなく、刺繍が施された高そうな布を垂らしたトゥール様だ。そして、その横と後ろに親衛隊、僕の横と後ろにも親衛隊。部屋の四隅に親衛隊。寧ろ壁際全部に親衛隊。部屋中が黒々しい。すっごく怖い。なんだこれ。今日の運勢大凶じゃなかろうか。あまりに怖くて、胸元のお守りを握り締める。

 目の前にトゥール様がいるけれど、喋るのはもっぱらロイヴァル様だ。分厚い書類を次々と読み上げていく。

「昨日お前を取り調べている最中にお前の部屋を調べさせてもらったが、一先ず、怪しい物はなかった」

「大家さんからの苦情の元凶発見!」

「出入りも調べさせてもらったが、一人暮らしなんだな。家と職場の往復、偶に生活用品を買いに出かけるくらいで、友人と遊びに行くことも、同僚と飲みに行くこともなく、恋人もおらず、ただただ家と職場の往復…………お前、趣味はないのか?」

 片目に少々の憐れみ発見! これは痛い! そして悲しい! いっそ無感情のほうがありがたかった!

 僕はわっと顔を覆った。こんな目で見られるなんて虚しすぎる。

「出稼ぎで田舎から出てきてぇ、給料の大半仕送りしてる田舎者にそんなお金あるわけないじゃないですかぁ! かつかつなんですよぉ! 今日だって朝食に食べる物何にもなくて、同僚から貰った飴が最初の食事ですよ! ………………あれ?」

「何だ」

「……僕、夕食食べましたか?」

「私には判断がつかないが、報告書では何も買いものはしていないな」

「あんな時間に解放されてもどこの店も開いてませんからね! 訂正します。僕は昨日の夕食から…………いや、待ってください。取り調べは昼もありましたよね?」

「………………ああ、そうだな」

 僕の嫌な予感が伝染したのか、不穏な空気になる。そして、僕のお腹は鳴った。素晴らしいタイミングである。空気を呼んでくれた胃は、とってもいい子だ。

 鳴り続ける僕の腹音以外沈黙が保たれた秩序を破ったのは、この中で一番幼い少年の声だった。

「……何か、食事の用意を」

 神の声かと思った。



 東の希少鳥の肉や、南の高価な香辛料を何種類も使ったスープ、北でしか取れない甘い野菜のサラダ、バターと砂糖をこれでもかと使った焼き菓子。大変至福な時間を得て、僕はようやく人心地ついた。ごねてよかった。おかげで美味しい食事にありつけた。こんなに美味しい食事久しぶりだ。美味しい材料に、手間がかかった調理、何より温かい食事がありがたい。

「ああ……美味しかった。ごちそうさまでした」

「いえ……いい食べっぷりだったようで何よりです」

 見えないはずの彼にも判断できるほど、僕が平らげた食器の音は鳴り響いたようだ。

「恐れ入ります」

 一応恥じ入っておいた。ただし、後悔は欠片もない。大変美味しゅうございましたまた食べたいです。でも、やっぱりここは礼儀が大切だ。いくら美味しい食事をしたくても、そうそう催促なんてできない。

「というわけで、僕はこの辺で……」

 お暇しようと腰を上げたら、左右の親衛隊から肩を押し込まれた。下に。めり込ませる勢いで椅子に戻される。昨日から僕の肩には厄でも集まっているんだろうか。おかしいな、立ち読みした雑誌では、『花彩生まれのあなたは今月絶好調! ラッキーアイテムはイチゴ飴☆』と書かれていたのに。

「まだ話は始まってもいませんが」

「はい……」

 全然絶好調に思えない。寧ろ絶不調。

 占いって、いい部分は信じたいけど、悪い部分は無視するから、もしかして悪い部分見落としているのだろうか。今日早く帰れたらもう一回立ち読みしよう。そして、食料の買い出しも忘れずに!



 僕が帰宅中の予定を立てている間、部屋の中は再び落ちた沈黙が支配している。居心地が悪くてちらりといろんな人に視線を向けるけれど、全員置物みたいに動かない。

 これは、僕が気を利かせて何か話題を振るべきだろうか。食事を食べさせてもらった恩もあることだし、年上として気の利いた話題を……。

「……本日は御日柄もよく」

「姉は」

 選びに選び抜いた話題は、トゥール様によって一刀両断された。ごり押ししてまで続けたい話題ではないし、何より親衛隊が怖い。たった一人の守るべき主が喋ったのだ。忠義の塊がそれを遮るなど許すはずがない。僕はにこやかな笑顔で気の利いた話題を飲み込んだ。怖い。



 小さな身体を固く強張らせたトゥール様は、絞り出すような声で言った。

「どんな顔を、していましたか」

「姉、とは?」

「……あなたが見たという、僕と同じ髪の色をした女性です」

 僕は驚いた。だって、あれが目の前の小柄で美しい少年の姉だというのか。あんな、化け物染みた目をした女が、姉。なんて可哀相な少年なんだろう……。

 僕の同情に満ちた目は、幸いというべきかは分からないけれど、とにかく彼には見えなかった。けれど、周りの親衛隊が怖い。今にも射殺さんばかりだ。お願いします、少年。あなたの親衛隊をどうにかしてくれないと、僕の夜道が危険です。

 居心地が悪いから、さっさと話題を終わらせて帰りたい。その一心で、必死に昨日の状況を思い出す。

「とても怒っていましたね。物凄い形相と獣みたいな恰好で飛び掛かってきて、もう、びっくりしました。髪もドレスもぼさぼさで、みっともなかったし、年頃の娘ならもう少し身なりに気を使わないと…………」

 あの時見た感想を正直に話していた僕は、ぴたりと口を噤んだ。左右からだけでなく、前後、へたすれば上下からも剣が突きつけられていたのである。でも、反射的に両手を上げた僕が口を噤んだ理由はそれじゃない。


 小さな手が骨が浮き出るくら握りしめられ、かたかたと全身を震わせている。

「やっぱり、姉様は、僕を恨んでいるんだ……」

「トゥール、様?」

「昨日、あなたが言ったではないですか。姉様が、許さない、殺してやると言っていたと。僕の所為だ。僕の所為で死んだことを、姉様はずっと怒ってるんだ」

 布の下から溢れだした涙が僕の浅はかさを責めた。呆然と周りを見回すと、僕に剣を突きつけて言葉を制した人達の瞳にあったのは、怒りではない。それは、酷い悲しみだったのだ。


 家族を亡くした少年の前で、守れなかった悔恨に塗れる人達の前で、死んだ人間の無様さを話すべきではなかった。どうしても話さなければならないことでも、もっと言い様が幾らでもあったはずだ。それなのに僕はそんな当たり前のことに考えが及ばなかった。つらつらと馬鹿みたいに見たことを話してしまった。死んだ人間と、その遺族に対しての配慮が吹っ飛んでしまうくらい、あの女のぶさいくな顔が衝撃的で。

 でも、そんなの言い訳にはならない。この子を傷つけたのは僕だ。無神経な僕の言葉が彼を抉ってしまった。昨日だって、ロイヴァルと、いるとは知らなかったこの子を傷つけたのだろう。

 目の前の子どもを傷つけた事実が痛い。目の前の男の片目が痛みに歪んだ事実が苦しい。私の所為で、目の前の二人が傷ついた事実が、傷つけた事実が、許せない。

 でも言ってしまった事は取り戻せない。一度口から出てきた言葉は撤回なんてできないのだ。紙に書いたって同じだけど。だって、その紙を廃棄したって、それを見た人が感じた気持ちまで消えないのだから。


 何か出来ないかと慌てて言葉を探す。せめて別の言葉で塗り潰してしまえないだろうか。

「姉弟なんですから、恨むだなんて、そんなことは」

「だって、僕の所為で姉様は死んだんだ!」

 それが事実なら恨んでいるかもしれないとちらりと思ってしまったら、心を読んできたロイヴァル様が睨み付けてきた。真贋も幻術も使えない普通の人間なのに、心を読んでくるとはこれいかに。そして今度こそ悲しみじゃない。普通に激怒だ!

 駄目だ、トゥール様を慰めないと殺される! そうしたら、あの女みたいに化けて出てやるぅ!

「あ、あの! あなたの姉はそんなこと思っていませんよ! 恨むなら襲撃者のほうでしょう!? ね!?」

「…………やっぱり、僕が幻術使いを殺さないと、姉様は僕を許してはくれないんだ」

「突然物騒になるのはやめてください!」

「一族の、家族の敵を取るために、僕は生き残ったのかもしれません」

「月並みな言葉だとは思いますが、弟にそんなことをしてほしい姉はいないと思いますよ!?」

 この小さな手を血で汚させたら、それこそ自分を許せない。

 必死に宥めていると、布の向こうからしゃくり上げが聞こえてきた。駄目だ。音が大きくなってる!

「だって、僕が、ロイヴァル達に隠れて、一人で探検したいって、おも、って。だから、姉様、僕を探しに、きて、くれて、あいつら、姉様、姉様を、き、斬って、姉様、なのに、姉様、逃げ、逃げなさいって、真っ赤で、血とか、火とかで、真っ赤で、姉様、真っ赤で」

「トゥール様!」

 ロイヴァルは、私の視線から隠すようにさっとトゥールを抱き上げて背を向けた。成すがままの少年の呼吸がおかしい。引きつけを起こしたように、ひっ、ひっと、息が軽く、小刻みだ。

「違います、トゥール様。ジェネビア様が恨むというのなら、守れなかったこのロイヴァルです。あの方を守ることができず、むざむざと生き残ったこのロイヴァルを恨んでおいでなのです」

「僕の、僕の、せい、姉様、僕が殺し、僕が」

「全てこのロイヴァルの責です。あのお優しいジェネビア様がトゥール様をお恨みになるはずがないではありませんか。あの方がお怒りになるとすれば、傍にいながらお救いすることが叶わなかった、このロイヴァルです」

 黒服を着た男が、黒服を着た少年に、必死に自らの罪を告白している。けれど少年は小さな子どもみたいにむずかりながら、己の罪にのた打ち回っていた。こんなことを三年間も続けてきたのだろうか。同じことを罪とする人間同士で、こんな泥沼みたいな場所で三年間も動けずに、死んだ人間の責任を奪い合っていたのか。


「馬鹿、ですね」


 無意識に口から飛び出ていた言葉に、部屋中に殺気が満ちた。けれど、すぐに困惑に変わる。でも、殺気のままでも怖くはなかった。

 周りの気配がおかしいことに気付いたトゥールが、不安げにロイヴァルの手を引く。

「ロイ、ヴァル……?」

「は、いえ。いえ、は、その」

 返す言葉を見つけられないまま、それでも目の見えない主からの状況確認に声を出すくそまじめな騎士。忠義に厚く、心優しい、同じ傷持つ騎士達に囲まれて、トゥールは同じ沼に沈んでいく。みんな仲良く同じ場所で、絡まり合ってもだえてる。

「……何故、お前が泣くんだ。フェイ・クアーズ」

「え? フェイさん?」

 馬鹿だ。大馬鹿だ。こいつら全員、大馬鹿野郎だ。

 ぼたぼたと流れる涙を拭いもせず、ロイヴァルとその腕に抱かれたトゥールを睨み付ける。

「助かったのなら、それでいいじゃありませんか。誰の所為でもないんですよ。生き残ったあなた達を恨むような人達だったんですか。お前達だけでも生き残れてよかった、ほっとした、どうか幸せになりなさいって言ってくれる人達だったんじゃないんですか。それとも真贋使いの一族とは、何でお前達だけ生き残ったって恨むような、醜悪な性質だったんですか。自分達を理由にその小さな手を汚せと、恨みに塗れて生きれば満足だというような、酷い家族だったんですか」

 なんて不毛。なんて馬鹿な人達だ。姉が弟を恨んだりするものか。まして、被害者と加害者が明確では恨みの先を間違えようもない。彼が姉を殺そうとしたのならともかく、誰も襲撃があるなんて分からなかったのだ。当時十歳の少年が、大人の目のない秘密の冒険をしたくて何が悪い。それが家の裏山なのだから微笑ましいものではないか。その可愛らしい冒険の為に、親衛隊がちょっと目を瞑って通してあげたことの何が罪だ。庭とも呼べるべき場所に、子どもが一人で出かけた。本当はただそれだけのことだったのに、それで終われなかったことは誰の罪でもない。いや、襲撃者の罪だけど。

 ふつふつと怒りが湧き上がる。

 だから、なんなのだ。何だというのだ。

 僕の視線は、彼らの背後に固定されたまま動けない。大きな窓ガラス。そのたくさんの枠の中に浮かぶ、同じ顔。

『ゆ る さ な い !』

 この罪の沼の中、三年間もがき続けた人達に、お前は一体何を怒り狂っているんだ!


「それは、こっちの台詞だ!」


 窓ガラスに向けてがなり立てた僕に視線が集中する。けれど頭の中は沸き立っていて、恐怖は感じない。視線が集まるのなんて当たり前だ。だっていつでもこの視線の中に立っていた。

 ぎゅっと力を込めて閉じた瞼を開く。そこに咲く花に、ロイヴァル達が息を飲んだのが分かった。

「文句があるなら僕に言え! 受けて立ってやるよ!」

『殺してやる!』

「来いよ、悪霊! お前だけがその眼を持っていると思うな、ぶさいく!」

 甲高い音を立てて全ての窓ガラスが砕け散る。幻術使いと真贋使いの瞳術がぶつかり合えば、まやかしのはずの術に現実が混じり合う。力の奔流は現実の中に現れて、術の大きさによっては凄まじい衝撃波となるのだ。

 耳までに切り揃えた短い髪が激しく波打ち、頬や背中を叩く。強く睨み付けて瞳術を叩きこみ、割れたガラスを外に弾き出す。

 ゆらりと揺れる気配を感じた瞬間、もう一度真贋を叩きこめば、女の影も弾き飛んで消えた。瞳術を使っているときは、瞳の中の花結晶が光っている。どの破片にも姿がないことを確認して光を消す。胸元のお守りが熱を持っている。ぎゅっと握れば火傷しそうなほどだ。

 久しぶりに力を使った。力の余韻をうまく均せずにふらつく。力が入らずぐらりと倒れた身体が床に叩きつけられることはなかった。

 残された片目をこれでもかと見開き、僕の瞳を凝視する人が支えてくれたからだ。

「真贋……?」

 震える唇が僕の瞳をそう表現したから、僕は困ってしまって、へらりと笑うことしかできなかった。





 僕の故郷は田舎も田舎、地図に名前を書き忘れられるくらいの田舎の頂点に輝くど田舎。

 そんなど田舎に、突如として生まれた真贋持ち。本物の真贋使いみたいに、常時その結晶を瞳に宿しているわけではない。力を使うときだけ現れる。連発も出来ないし、長く発動することも難しい。

『お前は紛い物なんだから、村の外に出てはいけないよ』

 唯一の家族であり、たった一人の兄は、僕にそう言って聞かせた。そう、僕は紛い物。真贋使いのくせに紛い物。

 その瞳には嘘も幻も通用しない。彼ら自身も嘘や偽りを吐くことはない。彼らは誰の嘘も見破って、人の心を覗き見ることが可能だ。だからこそ、見破れない人達の為に、自らも真実であろうとした一族だ。

 そんな本物と肩を並べるなんておこがましい。僕は真贋使いだなどと名乗ってはならない。僕は何の力も持たない役立たずなのだ。

 僕は、存在してはいけない、真贋使いの贋作なのだから。



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