蜜柑編8
出発を決めた帝たちは早速歩き出す。
蜜柑の精神内は冒涜的な桃色を体現しているかのような圧倒的な不自然さが、奥に進めば進むほど増していき、その全てを脳に感じさせられていくようだ。現実らしさが全く無い。まあ現実ではないのだが。
帝は、桜花を立たせてゆっくり、しっかりと先を確認しながら道を進んでいく。分かれ道はなく、少し狭めの廊下を二人縦にならんで歩いていく。
今まで感じたことの無い違和感と不安は、生者を底知れない不快感に落とすのにはそう時間はかからないだろう。
とっとと原因を探してこの中から出たい。ここに長居したいとはとても思えない。出来ることなら今すぐ出たくもある。
「なあ桜花?」
「な、なんでございましょう帝さま」
桜花の顔を見た帝はある事に気づく。
「・・・顔色悪いぞ。大丈夫なのか」
桜花の顔は少し青く、歩くのもやっとな様子に見える。誰の目から見ても無理をしているし、少し休ませた方がいいのではないか?と帝は思っていたが、既にそれが遅かったことに気づく。
不意に桜花がこちらに倒れこんできたのだ。
慌てて抱き止め、崩れ落ちる桜花を支える。荒い息と共に、高い熱を感じとり、一瞬にして歩ける状態では無いことに気づく。
「桜花?桜花!?」
彼女は荒い呼吸を続けながら、
「帝・・・様・・・先へ、進んで・・・下さい」
「出来る訳無いだろ!どうして黙っていたんだ」
こんな状態の桜花を置いて先に進む?そんなの神や人間の前に生き物として間違ってる。大方、俺の邪魔をしたくない一心で黙っていたのだろう。
「なんで気づけなかったんだ・・・。おい!ジラルド!これはどういう事だ!」
俺は最後の頼みの綱に向かって叫ぶ。
「ふむ・・・。恐らく、桜花はこの環境に適応できていないのじゃろう。実は心のなかというのは悪い反応を出しやすいところでもある。お主は平気なようじゃが・・・」
「つまり、早いところ桜花をここから出さなきゃいけないってことだな?」
「まあ、そうなんじゃが・・・実はそこから出る方法は一つしか無いんじゃ。頑張って出口を探すしか無いんじゃよ」
出口・・・?出口らしきものがこの奇妙な壁にあると言うのか?
「わかった!一本道だし直ぐに見つけてやる!」
「それがな・・・一本道なのはそこだけなんじゃ。某有名RPGの二作目のラストダンジョン位・・・いや、お主にはわからんな。とにかく、物凄い迷路なんじゃ」
「それでもやるしかないんだろ!」
俺は桜花を背負うと、その迷路内に走っていった。
「全くお主は・・・いや、まあ大丈夫じゃろう。あの試練を潜り抜けたのじゃから、余程の事では死ぬまい」