蜜柑編7
「ん、ん?ここは、どこだ」
俺たちはさっきまでいた部屋のなかからいきなり、違う場所へ移動させられていた。
恐らく、ジラルドの唱えた能力で蜜柑様の心の中に精神体を転移させられたのであろう。となれば、近くに桜花もいるはずだが・・・。
「桜花?桜花ー?」
呼び掛けてみるも、返事がない。周囲を見渡してみると、俺の目を覚ました場所の後方にある壁にもたれかかるようにして桜花が座っていた。
目を瞑っている。寝ているのだろうか、スースーと可愛らしい寝息を立てている。
まるで警戒心のないその安心しきった寝顔は、庇護欲と共に劣情も少なからず浮かんできてしまう。据え膳食わぬは男の恥、とはいうもののあくまで対象は選ばなきゃならない。
出会ったばかり、しかも自分の従者だという桜花にはそういう事をしてはならない。最低限の理性を保たないと駄目だ。
これでヘタレと言われてもしょうがない。それは、俺の中のルールに反することだから誰になんと言われようとも曲げることはない。
俺はゆっくりと桜花に近づくと、そっと肩を揺らして起こそうとする。
「ふぇ・・・?」
「おーい起きろ桜花。起きないと」
耳元に口を近づけてそっと囁く。
「その唇を貰うぞ?」
「え、ええええええ!?」
慌てて後退りしようとする桜花。しかし後ろが壁な事に気づいたのか顔が真っ赤になってこちらを見上げる。
・・・はっ、駄目だ駄目だ。顔を真っ赤にして上目使いで此方を見る桜花に見とれそうになってしまった。
「おい帝。何をセクハラしとる。そんな事をしてる暇はないじゃろう」
「お、ジラルドのおっさん。なにしてんだ?」
突如としてテレパシーのように頭の中にジラルドの声が響く。
「いつの間にか口調も砕けおって・・・」
「まあそういうなよ。女性の肩のラインについて話し合った仲じゃないか」
「帝様!?私が眠っている間に何をお話になられてたんでございますか!?」
「その話はオフレコで頼むといったじゃろう!」
「ジラルド様!?」
「おい話が進まねえぞ!」
『誰のせいだと思ってる(んですか)!』
「ジラルド」
「・・・まあいい。今お主たちがいるのは蜜柑の精神内。お主たちは精神体じゃ」
大方俺の予想通りだな。
「今からその精神内にある、蜜柑を蝕んでいる原因を探してもらう。それさえ取り除けば蜜柑も元に戻るじゃろう」
「つまり諸悪の根元を潰して終わりって訳か。わかりやすくていいな」
「途中、蜜柑の記憶や思い出にも触れるだろうから、それも手がかりにして探すのじゃぞ」
そういうと声は聞こえなくなってしまった。
「桜花、歩けるか?」
「ええ、行きましょう帝様」
「ああ。その諸悪の根元とやらを取り除きにいくか!」