蜜柑編4
そのまま馬車で移動すること早20分。心にリンクする精霊が住むという泉に俺たちは来ていた。木々に囲まれたその泉は、深い霧に包まれ、怪しくも神秘的な空気がその空間を支配していた。
「霧が・・・深いな」
「ここは一年中霧が深いのです。・・・足元、気をつけてくださいね」
・・・それ男性のほうが言うセリフじゃねーか?
「それで、その精霊とやらは何処に住んでいるんだ?」
「はい、ここの泉に住んでいる・・・はずなんですが」
そう言うと桜花は泉に近づき、
「ジラルド様。いらっしゃいますか?」
すると、泉の上に霧が集まりだし、人の形を取り始める。・・・お爺さんかな?
「・・・誰じゃ?おお、桜花ではないか。元気にしとったかい?」
「はい、ジラルド様。桜花はとても元気ですよ」
「そうかそうか。・・・見ない青年じゃの」
「こちらは私の使えている新しい神様です。帝様、自己紹介を」
「あ・・・十六夜帝、です」
そう言うとジラルドさんは俺のほうに来て、俺の顔をまじまじと見つめたあと、合点がいったような顔をして、もとの位置に戻っていった。
「それで、何の用かな?」
「実は、蜜柑様のご様子が優れないようで・・・是非、お力をお貸し頂けないでしょうか?」
「・・・もちろん桜花のことは信頼しておる。だが、君とは初対面だ。そこで、テストをしよう」
・・・テスト?学力には自信が無いんだが。
「テスト・・・ですか?」
「ああ、といっても簡単さ。失敗しても傷は負わないし、何度だって受けさせてやろう」
「分かりました、そのテスト。受けます!」
「うむ・・・では、桜花は待機しておれ」
桜花は一歩下がり、俺はジラルドさんの真っ正面に立つ。
「じゃあな、頑張れよ、若造!」
その瞬間、俺の足元に大きな穴が開き、落ちていく俺。
「うわあああああぁぁぁ!!!」
帝が落ちたあと。
「大丈夫ですかね。帝様」
「何、死ぬような試験ではない。ただ、死ぬくらいの苦痛は味わってもらうがの。ホッホッホ。」
「はあ、全く直ってませんね。その性格」
「当たり前じゃ。この性格がそんな簡単に直るんだったらとっくに治しておるわい」
「・・・信じてますよ。帝様」
ん、ここは・・・。
たしか俺、ジラルドのおっさんに落とされたんだっけ。・・・テストってなんだろう。
俺が寝ていたのは硬いコンクリートの上。見たところここは・・・学校の屋上?タンクが並んでいて、上には真っ白い雲が流れている。
「ああ!?なんだって!?」
そのタンクの裏から声がする。太い怒鳴り声で、その声はよく響いていた。
「いや、止めて!」
此方は女の子の声。・・・ならば助けない訳にはいかない!
「おい!何してる!」
そこには女の子一人を囲む男子生徒数人の姿が。
「なんだテメェは!」
俺はその声を無視し女の子に近づく。
「なんだテメェはって聞いてんだろうが!」
男子生徒が殴りかかってくる。が、気にせず女の子の元へ行く。
俺はその後も殴られたり蹴られたりするが、気にせず女の子の元へ行く。
「早く逃げろ」
「え、でも・・・」
「早く!」
女の子は走りだし、無事に屋上から出ていく。
「おいテメェよぉ。なに人の遊具逃がしてんだ?」
「・・・・・は、・・なんかじゃない」
「あ?」
「女の子は遊具なんかじゃないっていったんだ!」
「ああ?じゃあテメェがその分の代わりに殴られてくれるのかよぉ」
「好きにしろ」
「ほう・・・やっちまえ!」
俺は囲まれ、男子生徒達から蹴られ続ける。
・・・何分経っただろうか。気がつけば俺はまたコンクリートに横たわっていた。
なんだ。なにか聞こえる。
「レベル1がクリアされました。レベル1がクリアされました」
レベル・・・1?
なんだ、それは・・・。
しかし、その言葉の意味を考える暇もなく、俺の意識は深く眠りについた・・・。