蜜柑編3
2階には大きな扉が一つと小さな扉が一つ。大きい方の部屋に蜜柑様がいるんだろう。小さなほうは・・・倉庫か何かかな?
扉の前まで来ると、宗一さんが、
「この扉の奥に蜜柑様はいらっしゃいます。・・・お話出来たらいいのですが」
会話も・・・出来ないのかな。・・・いや、綺麗な人がそんな状態のままだなんて俺は納得できない。絶対に元の優しかったであろう蜜柑様に戻して見せる。
俺はドアを開ける。
「失礼・・・しまーす」
部屋の中は甘い香りで満ちていた。服や食べ物の跡が散らかっていて、奥のモニターが青い光を放っていた。
・・・ベッドの上に座っている女の子が一人。見たところ15、6歳といったところか。来ているものはピンクのパジャマ。髪は折角の綺麗な赤毛がボサボサになっている。虚ろな目でモニターを見ており、こちらにはなんの関心も示さない。
「蜜柑様・・・。あんなに美しかったのに」
横の桜花が口を抑える。余程たちのわるい男がいたのであろう。・・・可哀想に。
「蜜柑・・・様?」
恐る恐る声をかけるも、こちらを向きもせずにモニターをずっと凝視している。
モニターには魔法少女のアニメが流れている。・・・?なんで分かったんだろう?俺・・・見たことが?
「っ!」
突然頭に鋭い痛みが走り、思わずうずくまる。
「どうしました帝様!」
「いや・・・大丈夫だ。気にしないでくれ」
俺は思い出す事を止め、肩を叩いたり少し大きい声で名前を呼んだりしてみるが、まるで反応が無かった。
「・・・どうすっかな」
「帝様、実は考えが有ります」
お、桜花!
「なんだ?」
「ここより少し西にいったところに、心にリンクすることが出来る精霊がいます。その精霊の力を借りられれば、あるいは・・・と思うのですが」
「うーん・・・他に手は無さそうだし、行ってみるか」
俺たちは部屋の外に出る。宗一さんにはもう一回来ると伝え、橙玉邸の外に出る。
「じゃああの馬車もう一回だしてくれるか?」
「承知いたしました」
桜花は懐から四角形の物体を取りだし、軽くふれる。すると大きくなって数秒後には馬車が目の前に出てきていた。
馬車の中、俺は桜花に問いかける。
「なあ、桜花って何歳なんだ?」
「年齢でございますか。・・・えっと、帝様のもといた人間の世界で言うなれば、16歳といったところですね」
ふむ、16歳か・・・十分結婚できるな。・・・じゃなくて!
「じゃあ蜜柑様って何歳くらいなんだ?」
「人間を単位とするなら、約17歳ですね」
なるほど・・・凄い年上だったらどうしようかと思ったが、良かった。
「帝様は何歳か覚えていらっしゃいますか?」
「んーと、悪い。覚えてな・・・っ!」
また・・・頭痛が・・・。
「帝様!?」
「いや、大丈夫。年齢は・・・覚えてる。18歳だ」
「・・・大丈夫ですか?熱とか・・・」
桜花が額を合わせてくる。ちょっ、近いって!でも突き放すのは可哀想だしな・・・。仕方なく目を瞑ってやり過ごそうとする。
「・・・帝様?何故目を瞑ってらっしゃ・・・!も、もも申し訳御座いません!とんだはしたない行為を!」
「あー、まあ大丈夫だよ」
俺は笑顔で返す。・・・内心心臓バクバクだったが。顔に出てないといいが。
一方桜花は思いっきり頬を紅潮させ、目が泳ぎまくっている。
「わ、私のせいで、不愉快に・・・」
「それは違うよ。桜花」
「へ?」
「ちょっとびっくりしたけど、不愉快なんてこれっぽっちも思ってない。・・・むしろちょっと嬉しかった」「う、うう嬉しかった!?」
「ああ。だからもう二度とそんなこと言わないでくれ。俺は桜花のこと、絶対に不愉快になんて思わないから」
「帝様・・・ありがとうございます。私は、私は・・・」
思わず泣きそうになって胸に泣きついてくる桜花。・・・そんなに嬉しかったのかな?
「大丈夫だからね」
桜花の頭を撫でてやる。・・・今さらだけどすっごいいい香りだ。この状況を嬉しく思っている自分が絶対にどこかにいる。
・・・さすがにちょっと長い。10分は経ってる。多分離すタイミングを失ったんだろう。気まずい。
「あの・・・そろそろ」
「は、はいっ!そうですね!」
俺の正面に戻る桜花。その顔は赤く、目は斜め下を向いて髪をいじっている。
ちょっと、恥ずかしかったかな。