蜜柑編1
俺は桜花と一緒に馬車の中にいる。神といえども俺は新米らしく、この程度しか用意出来ないんだとか。ま、移動手段はどうでもいい。とりあえずこの世界のことを聞かなきゃ。
「なあ桜花。ここ、どこなんだ?」
「さ、先程も申し上げましたように、天界でございます」
「天界・・・?」
「一般的に神様の住む世界でございます。・・・なにも覚えていらっしゃらないのですね。今はお話出来ませんが、帝様は自ら神様となったのですよ?」
「俺が神様に・・・」
「はい。ですから用があればこの桜花にお申し付けください」
どうやらこの桜花という少女、俺の召し使いかなにかみたいだ。・・・ちょっとイタズラしてみようか。
「なあ桜花。・・・俺の頼みを聞いてくれるか?」
「は、はい。何なりと」
「結婚してくれ」
「はい?」
「聞こえなかったのか?・・・もう一度言うぞ。結婚してくれ」
「はっはいいいいいいいいいい!?」
桜花は顔をリンゴよりも赤くして大きく後ずさった。
「結婚してくれ・・・ダメか?」
「だ、ダメでは御座いませんが・・・。そ、その。あのう。・・・神子として純潔を守らねばなりませぬ故・・・」
ま、それなりの貞操観念はあるよな。
「悪い。冗談だ」
「え、冗談・・・なのですか」
「うん?本気にしたか?悪かったって」
「い、いえ。そうでは御座いませんが・・・」
そういってそっぽを向く桜花。・・・可愛いなこいつ。
おっと、それより世界について聞かなきゃ。
「ところで、天界以外には何かあるのか?その・・・下界とか」
「はい。ございますよ。天界、地上界、下界の3つがございます」
「天界は神の住むところだろ。地上界は人間・・・か?下界には何がすんでるんだ?」
「帝様の仰られた通り、地上界には人や動物が住んでおります。・・・帝様も元は地上界の生まれで御座いますよ。下界には悪魔や追放された天使などが住んでいます」
「つまり俺は元人間ということか?」
「はい。帝様は元人間です」
・・・そうなのか。記憶が無いが、人間の身でありながら神様になろうとするなんてロクな奴じゃないな、俺は。
「・・・分かった。あとは・・・そうだ。ここは天界のどの辺なんだ?」
「先程いた場所でしたら、天界の東。田舎中の田舎でございます」
「じゃあ、今向かってる蜜柑様の所は?」
「そこから少し北にいったところにあります。橙玉邸にお住まいになっております」
橙玉邸・・・。蜜柑様、綺麗なんだろうな。・・・早く会いたい。
「蜜柑様ってのは綺麗なんだろ?」
「はい、それはもうお美しゅうございます。求婚者も後をたたないとか」
蜜柑様ってのはかぐや姫かなんかなのか?・・・まあ綺麗なのはわかった。
「さて、最後に重要な質問だ。・・・俺の家は有るのか?」
「・・・?はい、ございますよ?」
「何処に」
「最初に倒れていたあの場所でございます」
「え、あのボロ洋館?」
正直住めるレベルじゃないと思うんだが。
「今はもう使いが綺麗にしていると思いますよ?帝様が帰るころにはきっと豪華に戻っていると思います」
ならいいんだが・・・。さすがに住むところは欲しいもんな。
「あ!見えてきましたよ。あれが橙玉邸でございます」
桜花が指さした先には・・・。