注連縄張れば土俵入り
朝の喧騒が一段落しまして、やれやれと思う間ぁもなくゴミだしの時間どす。指定された袋を提げて集積所へ行ったら、毎度の顔ぶれが揃ぅとぃやした。
「おはようさんどす。降りそうで振らん、けったいな日和どすなぁ」
ほんまのこと言うたら、この人ら好きやおへん。なんでて、寄っては人の悪口しか言わはらしまへん。そんなん、だいっ嫌いどすねん。
「おはようさんどす。あんじょう晴れたらよろしおすのになぁ」
小太りで吊り目、きっちりパーマかけたはる奥さんどす。この人に捕まったら、なかなか帰してもらわれへん。しばいたろか! 咽喉まで出まっせ。
「おたくはんとこ、酒屋はんどこと付き合うたはりますの?」
きましたやろ? どうせ、しょうむない事どっしゃろ。早う帰って、ゆっくりコーヒーでも飲みたいんやけどなぁ。話合わさんと何言うやらわからんし。難儀やなぁ……。
「角の酒屋はん、見やはったか? えろう立派な前掛けに替えはって……」
「前掛けて……、あの前掛けどすか?」
「へぇ。今までので十分使えるのに、立派な前掛けどすねん」
「前掛けなぁ……」
酒屋はんの前掛けちゅうたら、ごつい生地を染め抜いたのんしか知りまへんけど、そんなん、どっちゃでもかましまへんがな……。ほんま、あほくさ。
「そらぁ、ぎょうさん儲けたはるのやろうけど、なんぼなんでも化粧まわしどすえ」
小太り吊りパーマ奥さん、何を興奮せんならんのどっしゃろ。
「化粧まわし……。へぇ、そうどすか……」
「なぁ、着倒れの町どっさかい派手にしてもかましまへん。けどな、丁稚の分際で新品の前掛けどすわ。番頭はんやみな、裾に房ついてましてなぁ、お店行ってみとうみ。旦さんの格好、房だけやのうて、刺繍したぁるがな。あんなん、注連縄張ったら土俵入りどすえ」
懐かしい話どすなぁ。あの頃は前掛けした商人が走り回ってたもんや……。
あほくさ、お迎えが近ぅなると、けったいなこと思い出すなぁ……。