閑話1-3
前面に大きくお店の名前の入った前掛けを腰に結んだ少年と、派手な色の組み合わせをした服を着た見たところ同い年くらいの3人の少年達。彼らを正面から見下ろすように僅かな隙間を残して取り囲む人相の悪い男達。少年達の後ろ、お店の奥から現れたその人相の悪い男達に『姐御』と呼ばれる制服姿の少女。
少年は困惑していた。見ていると恐怖が浮かんでくるような男達が後ろで顔を覗かせているであろう少女に対して、ある種の敬意のようなものを表しているように感じられたから。
少年達は恐怖していた。姿を見るまでには至っていなかったが、目の前に立つ男達が『姐御』と呼ぶような存在が明らかに下だろうと思っていた少年の家の奥から当然のように出てきたから。
男達は歓喜していた。くだらない諍いだと思っていたら予想外の人物と出会うことができたから
少女は・・・何も考えてはいなかった。外から聞こえてくる声が増えていたから、という好奇心で出てきていただけだったから。
「あれ?なにかあったんですか?」
少女が男達に問うと、男達は我先にと説明するために少女の前に移動する。だがどうも要領を得ない現状に対して思考を放棄した少女は、男達の向こう側に居る少年の紹介を始めた。
「え~っと、この男の子!今日はおじいちゃんのお手伝いに来てくれたんです!」
そう言いながら少年の背後にまわり肩をそっと押して輪の中に入れる。
少年が唐突に巻き込まれたことに混乱している内に話が進んでいく。
少年達は、この店が『姐御と呼ばれる少女の祖父の店』だと思い込み、顔色を白を通り過ぎて青くしながら気付かれないようにゆっくりと離れていく。
そんなことも知らずに
「おじいちゃんのお孫さんなんですよ~」
と、なぜか少女が誇らしげに胸を張る。
少年達の耳にその言葉が届いてはいても、ただの音として意味を理解する余裕もなく処理されていた。
そして話題が先ほどの騒動になると、振り返り首をかしげた。
「どうかしたんですか?そんなに遠くに居ないで一緒にお話ししましょう」
「「「ひぃっ!!」」」
まるで「逃がさない」とでも言うかのようなあまりのタイミングの良さに、鬼を幻視してしまうと、端から崩れていく橋を走り抜けるかのように今までの行動など関係なく逃げていく。
「あ・・・そうですよね。先におしゃべりしていた所に後から来て、邪魔しておいて『一緒に』なんて言ったら怒っちゃいますよね・・・」
「あ、姐御・・・」「元気出してくだせい」「姐御は悪くありやせん」「とりあえずとっ捕まえていつもみたいに話してみますか」
「そ、そうですね・・・うん。そうですよね!まずはお話ししてみないとですよね!」
少女は大きな決意を小さな拳に秘めて天に突き上げる。
なんだよ!なんなんだよ!!
俺たちは走っていた。逃げるように、ではなく本当に逃げているから。
なんでこんなことになっているんだろう。
元々は、新しくできたゲームセンターに行ったんだ。たまたまその帰りに去年同じクラスだった鳴海を見つけて少しからかってやったら、黒服にサングラスの男達がやってきた。
男達に囲まれてもう駄目だと諦めかけた時に、奥から同じくらいの年の・・・いや、あの制服はこの近くにある高校のだからたぶん年上なんだろう女の子が出てきた。そして、男達がその子に頭を下げたんだ。
それが、店の孫娘だと!?
やばい。やばい、やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
もう、なにも、かんがえられなかった。
ただここに居るのはマズイ。その一心で少しずつ、ゆっくりと、鶯張りの廊下を歩く泥棒よりも恐る恐る離れていく。
あと少しで視界から外れる!そう思った瞬間のことだった。
「どうかしたんですか?そんなに遠くに居ないで一緒にお話ししましょう」
「「「ひぃっ!!」」」
もう駄目だった。
頭の中が真っ白になって俺たちは走っていたのだ。
周りの目も気にせず我武者羅に走り、店と店の間という、人が通ることを考えていない隙間を、前を走る友の背中を押し、後ろから来る友に背中を押され、洗われていない壁に擦れ、道を右に左にまた右にと向かいたい場所も向かう方角も分からぬままにまた右に。
道と言えない道も気にせずに進むたびに、どんどんとホームレスの仲間入りができそうな姿になっていく。
落ち着きを取り戻したのは、曲がり角を曲がった先が行き止まりになっているのを見た時だった。
「はぁ・・・はぁ・・・げほっ・・・」
「こ、ここまでくれば大丈夫だろ・・・」
「それ・・・フラグ・・・だからな・・・」
「そんな、展開は、フィクションだけだからな。ふぅ」
そんなことを言い合いながら息を整える。
「よし、このまま駅まで行くぞ」
「おう。で、駅ってどっちだ?」
「とりあえず動いてみないとな」
3人の勘に任せてまた右に左にと進んでいくが、また行き止まりだった
仕方なく少し戻って右右左右。で、行き止まり・・・
「なあ」
「言うな。なんとなく言いたいことは分かるが言ったらなんかが終わる気がする」
「わかった・・・」
やっぱり戻ってきてしまっているのかもしれない。
「とりあえず、ここになんか置いて行こうぜ」
「そうだな。まだ決めるのは早いよな」
「とりあえずペットボトルでいいか」
少し中身の残ったペットボトルを角に置き歩き始める
10分か20分か。少なくとも5分以上は確実に歩いただろう先に見えてきたのは1つのペットボトルだった。
「「「・・・」」」
沈黙は戻ってきてしまったことに対してではなかった。
その角からあの女の子が出てきたのだ。
「あ!やっと見つけました~」
言い笑顔で言われてしまった。
「こんな所にいたんですね。普通に通っていたら来られない所だと思ったのですがどこから入ったのでしょう?」
それは、つまり、入ってな行けない場所。やましい物を隠すための場所。ということなんだろうか。
「出口は分かりますか?」
なんの!?どこから出るための!?この国から?魂が肉体から?だめだ。考えても答えが分からない。
「だ、大丈夫。です」
本当は走って逃げたかった。でもさっきまでの疲労でもう足が限界に近かった。
そして、ふと思い出すのは家の隙間を通ってきた時のこと。
きっとそういった所を通らないと来れないように隠されていたのだろう。
「そういうわけなので」
自分でも意味のわからない言葉を残して歩いて逃げる。
そして、見えなくなったあたりで適当な隙間を通ると、抜けた隣にまた女の子が立っていた。
「たぶん逆方向ですよ」
後ろからやってくるアイツ等を無理矢理押して戻る。
文句を言ってくるがそれを無視してなるべく遠くの隙間を通るとどこかで見たような景色になっていた。
それを喜ぶ2人を引っ張って駅まで急ぐ。
「着いた・・・」
そこには安堵と喜びと達成感とがごちゃ混ぜになったような感情があった。
改札を通るとどこからか呼ばれたような気がして足を止めると椅子の上に1枚の紙と文珍の代わりのペットボトルが置いてあり、そこには『忘れ物ですよ』とだけ書いてあった。
「どこまで行ったんだろ」
突然走って行ったあの3人を追って少し前に店を歩いて出て行った女の子を思う。
いくら土地勘があったとしても追いつくはずがない。と思いはするのだがあの時浮かんでいたのは自信ではなく余裕だった気がする。
『自信』と『余裕』では似たようなものに感じるが、例えるなら足し算をするときに「そんなの当たり前」という感覚で解くことはあっても「出来る!」と思いながら解くことはしないような、そんな、言葉にしても伝わるかどうかは分からないが、明確な差があると思う。
と、誰に言うでもない意味もない自論に全力を注ぐのは、目の前の光景が理解できないからなのだろう。
「ほらほら、これも持って行ってくださいよ」
「いえ、そういう訳にもいきやせんので」
「お固いこと言わないで。ほれ、ウチのもどうぞ」
「皆さんからのショバ代は毎月きちんともらってますんで。貰いすぎる訳には・・・」
「これはそういうのとは別だから。ね。ほんの気持ちだけだから。御宅の所が守ってくれているお蔭で綺麗に安全になっているんだから」
「それも合わせての金額なんで。若ぇのを教育する一環にもなっているんであまり甘やかすのは」
そんな会話が商店街の人と黒服との間でずっと続いているのだ。
普通逆じゃないのかな?いや、そうなって欲しいという訳ではないんだけど、なんか釈然としない。
青空が青と言いきれない朱を帯びてきた。
もしかしたらそのまま帰ったのかもしれない。そんな答えの出ない自問自答を何度繰り返しただろう。そしてその度に「もしも戻ってきたなら・・・」と告げる言葉を考える。
商店街の人たちも自分のお店に戻ってすっかり静かになってしまった。
お店の路地から少しも汚れていない制服姿のままでひょっこりと戻ってきた。
やっぱりド直球でいこう。
「忘れ物ですよ。カバン」
が、がんばった...いつも通りのぎりぎり完成
3人称視点ってこれでいいのかな?
ちょっと無理矢理だった気がするけど、これで一応本編に戻れる!
誰か褒めてくれるかな・・・
誤字・脱字・矛盾などありましたら教えてください。
来月から生活のサイクルが変わるから、いま以上に遅くなるかも?
なんか、ごめんなさいです