旅の始まり いきなりの事件
イセリアの人たちと別れ、新たな街のスコルビアに着いたいきなり事件(?)に巻き込まれるはめになったリクト。
窮地を助けてくれたのは実は面識がある人物!?
リクトが洗礼の旅に出発する日。村の入口には大勢の村人たちが集まっていた。その中に巫女たちの姿はない。ネリウムをはじめとした巫女たちとはすでに神社の方で挨拶を済ませている。そして今は一村人として挨拶を交わしているのだ。
「おねーちゃんいつ帰ってくるの?」
「もっと遊びたいよー!」
「いろんな街を見てきたいって理由で旅を始めるのはいいが、気をつけろよ」
「外は危ないから油断しちゃダメよ」
口々に言われる別れの挨拶。
「色々見てきたら帰ってくるから心配するなって」
いつもの様に軽い口調で言い、地面に置いていた荷物を持ち上げる。
「じゃぁ、行ってくるよ」
なかなか離してくれなかった村人たちと別れ、イセリアを出たリクトは村から一番近いところにあるスコルビアという街を目指して進むことにした。洗礼の旅をする中での決まり事は神を祀る神社、もしくは祠を回ることだ。しかし、順番は決まっていないため特定の経路というものは存在しない。つまりは割りと自由に旅をすることができるということだ。
スコルビアまでは徒歩約一日の距離。普通の人ならそれなりに遠い距離でもあるが、魔法を使えるリクトからすれば大した距離ではない。
魔法の美学としてどれだけ低コストでどれだけの効果を発揮させることができるのかというのがある。魔法の効率を上げれば神威にも見劣りしない効果を得られるとも言われている。
これから向かうスコルビアには魔法師が多くいるらしい。
「ここか・・・」
魔法によって移動速度を上げて進んでいたリクトはいつの間にかスコルビアの目の前に着いていたことに気がつく。時刻はまだ昼過ぎといったところか。やはり魔法による移動は便利だ。
スコルビアはそれなりに大きさのある街のため、人も多い。だから喧嘩やちょっとした事件の発生率も高かったりする。このくらいの街になれば自警団などが存在するので大概のものはすぐに解決する。しかし、それは一般的なものの話で、魔法が使用されていれば話は変わってくる。自警団でも魔法師の数を揃えるのは難しいのだ。例えば今のように魔法による爆発などが起きてしまえば、自警団はなかなか手が出せないのだ。
・・・今のように?
街の中に入ってすぐだっただろうか、街の中から派手な爆発音が聞こえてきた。灰色の煙がもくもくと上がっているので場所の特定には困らなかったが、何事かとリクトは小走りで現場に向かった。
場所は街の広場で、あたりの地面には木片や瓦礫が散らばっていて、その中心に二人の男性が立っていた。おそらく二人とも魔法師なのだろう。
人垣をかき分けて一番前に出ると男二人の会話がよく聞こえた。
「今日という今日は許さねえっ!!」
「役立たずの巫女に対して役立たずと言って何が悪い?あいつらは祈るだけで何もすりゃあしねーじゃねーか!!」
「魔法師こそ自分の力を振り回して暴れているだけじゃねーか!!巫女がいるお陰で俺達は今生きてこれているんだろうが!!」
巫女派対魔法師派といったところだろうか。さっきの爆発は魔法師派の男が怒り任せに放ったのだろう。男の周りのレヴァが荒れているのが肌でわかる。
「一度痛い目に合わねーと魔法師の方が巫女より優れているってのを理解できねー様だな・・・!!」
・・・どうやら魔法師派の男は短気なようだ。
男が発動したのは下級魔法ファイヤーボール。名前の通り火の玉を飛ばす魔法だ。爆発もおそらくはこの魔法のせいだろう。
「うわ・・・っ」
冷静に考えていると目の前で巫女派の男がそれをぎりぎりでかわした。そして火の玉は勢いを殺さずこっちに向かってきている。
「・・・え」
「うわっ、逃げろ!!」
リクトが声を出した瞬間、周りの人達が悲鳴を上げて一目散に逃げ出した。自分も逃げようと思ったが、誰かの肘をドンと勢いよく背中にぶつけられたせいでバランスを崩し、地面に膝をついた。
顔を上げると目の前に火の玉があった。
「え・・・、ちょ・・・っ」
対向魔法は間に合わない。そう思った瞬間リクトは覚悟を決めて目を閉じた。その瞬間、火の玉が当たるのとは別の衝撃がリクトを襲った。
「・・・大丈夫か」
恐る恐る目を開けるとリクトは自分より少し年上くらいの成年の腕の中にいた。
「う、うん・・・」
ぎこちない動作で頷けば男はすっと腕の力を抜いて地面に降ろしてくれる。リクトはほっと息を吐き出した。ふとすれば膝の力が抜けてしまいそうだが、それはなんとか堪えた。
男はすっと周りを確認するとリクトの手を掴んで短く言った。
「此処にいれば目立つ。とりあえず移動するぞ」
「え、あ・・・」
リクトの賛否を確認せずにそのまま男は走りだす。手を掴まれているためリクトも引っ張られるようにして走り始めた。走る速度は自分の事を気遣ってくれているお陰かそこまで速くはなかった。だから走っている間にリクトは平常心を取り戻すことが出来た。
男に連れられた場所は街のどこかの裏路地。しばらく男は周りを気にしていたが人がいないということがわかれば手を話してくれた。
「いきなりで悪かった」
「ううん。危ないところを助けてくれてありがとう」
若いのにいい性格してるんだななどと考えながらリクトは礼を言う。
「僕はリクト。君の名前は?」
「リアだ」
名前を尋ねる際には自分から名乗る。これは常識だ。だからリアも自然と答えてくれた。
「リア・・・?」
リアという名前にリクトは違和感を覚えた。まるでどこかで聞いたことがあるような感じだ。黒い髪に赤い目・・・。
「もしかして、君はあの時の・・・っ!」
おはようこんにちはこんばんは。凪原悠です。
時間があったのでサクッと(?)書いちゃいました。これからもこんなかんじで投稿していく予定です。なので投稿間隔はばらばらになります。ごめんなさい。
「お前だったのか」街で出会った人物の正体。
街の影に潜む怪しげな人影。
背後に映る第三勢力。
リクトはどう立ち向かっていくのか。
次話:再会と謎の組織 どうぞお楽しみに!!