エクストラステージ―Extra stage―
※ピクシブ版での冒頭あらすじを小説家になろう版では一部カットしています。
※なお、ラストの一部を微妙に記述等を変更しております。
『ARファイターの称号を持つ者たちよ、今こそ我々の世界の秩序を守る時である!』
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6:エクストラステージ
西暦2014年4月11日午前9時30分、スカイフリーダムが南千住駅のARスーツ着替え室から出てきた所に、一人の人物が通りかかったのである。
「スカイフリーダム…あなたは超有名アイドルの何を知っていたの?」
その人物とは、既にインナースーツを着て臨戦態勢と言う瀬川碧だった。
「何も知らないわ。ただ、超有名アイドルの暴走はこの世界だけではなく、他の世界にも広がっていると言う事。そして、最終目的が不老不死のアイドルを生み出して永遠に印税収入を得ようとしている事―」
「不老不死…話にならないわね!」
スカイフリーダムの一言を聞いて、瀬川は呆れて物が言えない状態になった。そして、不老不死と言う単語を聞いて非常識にも程があると思っていた。
「しかし、この世界の超有名アイドルは、それを実現させようと資金を集める為に低クオリティのCDをリリースし、最終的には賢者の石を完成させようとした。この意味がどういう事か分かる?」
スカイフリーダムは、それでも瀬川に何とか協力をしてもらおうと考えていた。その理由は、伊藤零が再び保釈されたと言う話がつぶやきサイト上で流れていたからだ。
「この話が事実とは限らない…。超有名アイドルは殺人以外の考えられる手段を使い、自分たち以外の存在を抹殺しようと考える存在―」
瀬川は超有名アイドルの所属事務所のやり口を知っていた。そう言った事もあって超有名アイドルに失望し、彼らを消滅させる為にARデュエルにも参加した。
「これは―」
スカイフリーダムが駅近くにあるモニターを見ると、衝撃的な場面が目に入ったのである。そして、二人は秋葉原へと急ぐ事にした。電車を使っていたら手遅れになってしまう。2人が移動手段に使用したのは、意外な事に高速移動のスキルだった。
同日午前10時、2人が到着した頃には警察の家宅捜索は終わり、モノリスプレートも撤去された後だった。
「既に現実世界にもアカシックレコードの存在が知られてしまった以上、世界線が書きかえられる可能性が高くなっている。それを止める為にも必要な事―」
2人の目の前にいたのは、西雲和人と闇月弥生の2人だった。
「過剰にアカシックレコードへ依存する事は、本来であれば自分達で決める事を他人に回答を求める事と同じ事…」
弥生の言う事にも一理ある。他人へ意見を求めすぎた事により、自分で決められるべき事も決められない。しかし、それとアカシックレコードへの依存は関係があるのか?
「ARデュエルの事は、ARデュエルのプレイヤーが決める。そして、その勝者に選ぶ権利もある」
西雲の言った事の意味が2人には分からなかった。弥生は覚悟を決めているようだが…。
『ARファイターの称号を持つ者たちよ、今こそ我々の世界の秩序を守る時である!』
スピーカーから聞き覚えのある声が聞こえた。この声は実況担当のアナウンサーである。
『時には、戦いでしか決められない事もある。覚悟を決め、その戦いに挑む事も…選択の一つである』
『仮にもブレイブランカーの持ち主が―』
アナウンサーの実況を聞いて、周囲にはハテナマークが頭の上に浮かぶような事態になっていた。スカイフリーダムがブレイブランカーであると言う事実は知られているのだが、他のメンバーは…。
「これはもしかして、下剋上マッチなのか?」
「仮にもランクに大きな差が出ているバトルは成立しないはずだ。公式大会等の特殊ケースではない限り…」
「まさか、これが特殊ケースのバトル?」
周囲にいたギャラリーの一部は状況を理解した。どうやら、特殊ケースのバトルと言う方向で間違いはないと―。
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【一方は十段(闇月)と皆伝(西雲)、片方は鉄人(瀬川)と伝説…。一応、ギリギリで通常バトルでも成立するな】
【あれだけの短期間で十段まで到達した闇月、短期間のレベルでは済まされない西雲の二人は間違いなくダークホースだろう】
【一方で、サムライを撃破してブレイブランカーになったスカイフリーダムと、一か月というスピード昇格をした瀬川…。どちらもネームドプレイヤーとしては強力な方だ】
【まさかタッグでバトルと言う展開になるとは意外だった】
【タッグシステム自体は他の格闘ゲームでは知られているが、ARデュエルだとどうなるのか―】
【タッグと言うよりは、片方が倒されたら交代と言うシステムになる可能性があるな。そして、両者が倒されたら負けとか】
【どちらにしても、ブレイブランカー同士の戦い以上に盛り上がりそうな予感がする】
ネット上でも今回のバトルに関して、色々な話が盛り上がっていた。
同日午前10時5分、想定外とも言える人物がフィールド上に現れた。その姿は劣化版ナイトメアという気配のする外見である。色も黒と言うよりは未塗装のグレーと言った気配がする。
「まさか―ノンプレイヤーARか?」
ナイトメアが現れて即座に無人と判断したのは竜宮クレナだった。当然の事ながら、彼はドラゴンの覆面をしていない。
「この無人ARは、俺に任せてもらおうか?」
ダークヒーローを思わせるARスーツで登場したのは、ジークフリートだった。
「では、無人ARを操っていると思われる人物は私が何とかしよう―」
竜宮は何かに気付いたかのように、フィールドを後にした。
同日午前10時10分、旧劇場前で交戦していたナイトメアらしき人物とジークフリートのバトルは予想外の展開を迎えていた。
「流石に借り物のスーツでは無理があったか―」
ジークフリートがそうつぶやくと、突然スーツを脱ぎだし、そこから姿を現したのは予想外の人物だった。
【どういう事だ? サブカの使用は禁止されているはずだが―】
【画面表示を見るんだ。プレイヤーデータは両方とも非公開扱いになっている】
【彼はジークフリートと名乗っていない。つまり…】
「まさか、ジークフリートの正体が如月キリト?」
「それは違うだろう。ジークフリートのスーツをキリトが着ていた…と考えるのが自然だろう」
ギャラリーもネット上も同じような衝撃を受けていた。目の前にいたジークフリートのスーツを着ていたのが、何と如月キリトだったのである。これには、試合が展開中の一方も―。
「どういう事だ? ジークフリートがこの場にいないのか」
西雲が外野の異変に気付く。この時間帯ならば、ジークフリートは何処かでバトルをしていてもおかしくはないはず。
「今は、こちらに集中すべきよ。外野は外野にいるメンバーに任せた方がいい」
弥生の言う事も一理ある。中途半端な心がけでは、スカイフリーダムを倒すのは不可能に近い。それは、西雲も弥生も今までの試合等を見て気付いている。
同日午前10時15分、竜宮は秋葉原にある旧劇場跡の裏にある事務所前にいた。ここは、グループ50の芸能事務所も兼ねた場所である。
「木を隠すには森…とはよく言った物か。警察も決定的となる証拠を回収しているはずだが、その一部はパズルのピースと同じで欠けている部分がある―」
そして、竜宮はドラゴンの覆面を被り、事務所の中へと入る。
「あ、あなたはもしかして―」
受付の女性はドラゴンの覆面を被った竜宮を知っているような口癖だった。そして、身分証明を確認せずにそのまま事務所内部へ通した。
「初めから覆面をしたままで事務所へ入り込めば、全ては上手くいったという事か。それにしても、ドラゴンの覆面をした人物とは一体―」
竜宮は疑問を持ちつつも機密情報を扱っていると思われる部屋を手当たり次第に物色していた。
「アクセスルーム…何の部屋だ?」
竜宮がいくつかの部屋を捜索している内に3階にあるアクセスルームにたどり着いた。その中に入ると、パソコン以外にもサーバー等が置かれている。
【アカシックレコードサーバー】
部屋に入る前、ドアに貼られていたプレートは、そんな名称だった。一体、何があると言うのか―?
「これは、まさか!?」
竜宮は目の前にある光景を見て、衝撃を受けたのである。複数のモニターに映し出されていたのは、本来はARデュエルスタッフしか見る事の出来ないカメラ映像だったからだ。それに加え、背広姿の虎の覆面をした人物がモニターをチェックしていた。
「君が現れるとは、予想外だった―」
虎の覆面は竜宮に気付いたらしい。しかし、モニターから離れるような気配は全くない。
「虎の覆面だと? 彼は別の世界線の人物であって、存在しないはず…」
竜宮も彼が振り向いたのを見て、若干の震えが出ている。本来ならば存在しないはずの人物が、目の前にいる事に。
「確かに。虎の譜面と言うのは一種のコスプレに過ぎない」
そして、彼が覆面を外すと、そこから見せた顔は竜宮にとっても見覚えのある顔だった。
「ジークフリート…そんな、嘘だっ!!」
竜宮は全力で彼の正体を拒否した。その正体とは、何とジークフリートだったのである。
「話せば長くなる。今は、そんな猶予が全くないだろう…」
「何故だ? あなたは格闘技でも連覇を果たし、英雄とまで言われていた人物のはず。それが、どうして超有名アイドル商法に手を!?」
「こうするしかなかったのだ。超有名アイドル商法が拝金主義の塊で黒歴史と呼ばれている存在だと分かっていても―」
「じゃあ、あの時のアレは嘘?」
「そう言う事になる。全ては、キサラギに関わる人物を見つける為に仕組んだ物だった」
「キサラギ…。全ては、超有名アイドルとキサラギの争いの一つだったと」
「私は超有名アイドルとキサラギの意見を集約し、共存できる可能性を模索しようとしていた。しかし、その結果は超有名アイドル規制法案を作り出す結果となった。国会ではニュースでは大きく取り上げられていないが、既に可決されているだろう」
「では、あの場で戦っているキリトは全てを知っているのですか?」
「おそらく、キリトは超有名アイドルとキサラギの争いは全く知らないだろう。彼は、何も聞かずに私の願いを聞いてくれた」
「伊藤が2度目の逮捕となったあの時は? 彼を精神崩壊させたのはあなたですか?」
「残念だが、あれを仕掛けたのは私ではない。その張本人は、今戦っている人物の中にいる」
「あの中に…。まさか、西雲和人?」
「私は、誰かまでは把握していない。ただ、彼は間違いなくアカシックレコードの作られた目的に気付いた」
「アカシックレコードの目的?」
竜宮とジークフリートの長話が続く中、事務所の方では侵入者を知らせる警報が響いていた。
「このホームページは知っているだろう?」
時間がない中、ジークフリートは竜宮に一つのサイトを見せた。それは、ホームページ作成用の素材サイトである。
「それと、アカシックレコードがどのような関係を?」
茶番につきあうつもりはない…竜宮は、そんな気持ちでジークフリートの話を聞く事にした。
「では、ひとつ聞こう。ARデュエルがどのような経緯で完成した?」
「それは決まっている。バーチャルリアリティ技術を利用して生み出された、次世代対戦格闘ゲーム。格闘技業界の衰退している現状を―」
「残念だが、パンフレットに乗っている情報だけでは正解は50%にも満たない」
「まさか、生まれた経緯は…」
それを聞こうとした所で、部屋の入口には複数の武装したアイドル警備兵が現れる。
「残念だが、両者の共存と言うエンディングはあり得ないのだ。どちらかが神となり、どちらかは消える…それが運命だ」
量産型の強化装甲を装着した女性アイドルは、竜宮に向けてビームライフルを放つ。
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同日午前10時30分、旧劇場で行われたバトルの結果は予想外とも言えるような物だった。
《ウィナー 西雲和人 闇月弥生》
最終的な結果は2-1で西雲と弥生が勝利を収めると言う展開になった。
「私が…負けた?」
瀬川は今の試合内容に納得のいかないような様子だったが、スカイフリーダムの方は無言で自分の敗北を認めた。
「確かに勝負事に勝ち負けは付き物。それはARデュエルでも同じ。この世の中には無敵という言葉は存在しなかった―」
弥生は、ようやく自分が何にこだわって負け続けていたのか…と言うのが分かったような気がした。完全無敵という超有名アイドルのような人物は、最初から存在しない。それこそ、架空の産物でしか過ぎなかったと言う事を…。
「確かにアカシックレコードも重要だろう。しかし、ARデュエルはARデュエルのプレイヤーの手で世界を広げていくべきなんだ。過剰なアカシックレコードの干渉は自分達にも他の世界にも悪影響を及ぼす事になる―」
西雲はアカシックレコードに書かれた事件や出来事も重要ではあるが、ARデュエルに持ち込む事で様々な事件を引き起こしたと言う側面もある。そして、最終的にARデュエルはアカシックレコードの中へと組みこまれていく。
「確かに一理あるわ。アカシックレコードが生み出す超有名アイドルとキサラギの争いによる悲しみの連鎖、そこから生まれる超有名アイドルファンと別勢力による争い…何処かで断ち切らなければ、この流れは永遠に繰り返される」
メットを外したスカイフリーダムは西雲たちにそう告げると、何処かへと姿を消してしまった。
そして、1発のビーム音が秋葉原周囲に響き渡った。
【一体、何が起こったんだ?】
【まさか…大規模テロか?】
【RE:他の世界線では、超有名アイドルを人気にする為に色々な手段を使っていたが、ここまでひどい状態ではなかった】
【遂に、最悪の結末が訪れるのか?】
【超有名アイドルによる日本支配のシナリオが―】
【超有名アイドルの拝金主義は、日本の総理大臣にグループ50のリーダーを就かせる事で全てが完了するのか?】
【全ての世界が超有名アイドル商法の拝金主義に屈してしまうのか?】
悲観的なネット上に対し、試合を見ていた現地組も悲観的な意見はあったのだが…それはごく少数に過ぎず、半数は何故か希望を信じていた。
「ARデュエルまで消滅するような展開ではない」
「信じよう。今、あの試合を見て感じた事は間違いなく現実だ」
「架空のアカシックレコードに踊らされるよりも、現実を見つめる方が大事なんだ!」
「確かに超有名アイドルが日本を制圧しようとしている事実はある。しかし、それは人の心の持ちようで変えられる」
「今こそ、夢と希望を与える存在が再認識される時代が来た!」
彼らは希望を捨てていなかった。きっと、奇跡が起こると信じて…。
同刻、旧劇場跡の裏にある事務所前には警察のパトカーが数十台止まっていた。万が一に備え、サイレンは鳴らさずに事務所を包囲していたのである。
「まだ指示はないのか?」
現場指揮担当の警官の一人が内部からの諜報部員の指示を待つ。
「今の所、それらしき連絡はありません」
別の警官が現場指揮担当の人物に報告する。この事務所を包囲するようにと言う指示があってから30分は経過している。
「仕方がない。突入を―」
その時であった。警官が突入を開始しようとしたその時、ビーム音と共に1人の人物が外の非常階段から姿を現した。
「時間がない。早く、事務所から離れるんだ!」
竜宮が大声で警官隊に指示を出す。そして、警官も竜宮の指示を聞いてパトカーを事務所から退避させる。竜宮が諜報部員かどうかは関係ない…事態は急を要するのである。
「周囲に多数の人はいないが、半径100メートル近辺には避難指示を出してくれ」
ジークフリートも警官隊に避難指示を出すように声をかける。彼の右腕に装着されたARブレスから火花が飛び散っている。
《秋葉原周辺の皆様にお知らせします。グループ50事務所周辺で非常事態警報が発令されました。半径100メートル以内の住民の皆様は速やかに範囲内からの避難をお願いします―》
急に流れ出した非常警報を聞き、辺りはパニック状態になろうとしていた。しかし、それを落ち着かせたのは西雲だった。
「人は慌てる事によって正確な思考が出来なくなると言う話がある。落ち着いて、焦らずに避難を行ってください!」
パニック状態になってしまえば、いつのタイミングで炎上ブログサイトが情報を入手してARデュエルを排除しようと言う動きに出るかもしれない。それを考えての発言だった。
西雲の発言を聞いて落ち着いたギャラリーは、途中で駆けつけた警察や自警団の指示を聞いて慌てずに避難を開始した。
『住民の避難は80%が完了しました。後は―』
「了解した。残りの避難誘導に全力を注ぐ!」
警察も自警団も必死になって避難誘導等を続ける。下手をすればARデュエルが超有名アイドルのせいで消滅という危険性もあったからだ。それだけ、彼らも《超有名アイドルとキサラギの争い》を繰り返す流れにはしなくないと考えているのかもしれない。
同日午前10時40分、周囲の避難誘導は無事に完了した。半径100メートル付近は通行止めとなり、人の姿も自警団等を除いてはいなくなっていた。
「一体、何が起こるのでしょうか?」
ARスーツの元となった防護服を着ている自警団の男性が、警官の1人に尋ねた。
「何も起こりはしないさ。ただ、あれを市民に見せてアイドルに対する偏見が起こり、炎上ブログサイトのネタにならないようにする為の配慮だろう」
警官の一言を聞いても自警団にはさっぱり分からなかった。
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同日午前11時、お昼前のワイドショーも何局かで放送が始まった。そのトップニュースは…。
『先程入ったニュースです。超有名アイドルグループ50を運営する会社が破産を申請したようです―』
このニュースはネット上をまたたく間に広がり、その話題は炎上ブログサイトの耳にも入っていた。
【やはり、隠しとおせるものではなかったか】
【いずれ分かる事だったが、ここまで早いとは―】
【無尽蔵にあった資金が一転してマイナスになるとは…どういう事なんだ?】
【大半が犯罪で得た資金と認識されたのが大きいのだろう。既に伊藤が逮捕されていた事で内部事情等が判明したらしいな】
【週刊誌に書かれただけで、盗作疑惑、超有名アイドルCD投資詐欺、不当な会社買収、ファンによるチケットの転売で得た収益、法律を変える事で年9999京円を実現させようとした事、偽の他アイドルCDやグッズ等の販売、その他多数…挙げればきりがない】
【その結果、現在の収益は全て没収される事になるのだが…これだけの資金をどのようにして市民に振り分ける気なんだ?】
【バラマキと言われないようにするためには、色々と苦労する可能性があるな】
ニュースを見た感想、炎上ブログサイトを見た感想、週刊誌を見た感想…それぞれが混ざる中で、こんなコメントが投稿されていた。
【アイドルと言う単語や概念を全てリセットしなければいけない事件が、今回のグループ50に関係した事件だった。遅かれ早かれ、どのグループでも起こる可能性があった事件が超有名アイドルで起こった事により、このように注目を浴びる結果になった】
このコメントを投稿したのは、何とキサラギを名乗る人物だったのである。当初は如月キリトを疑う声もあったが、彼はつぶやきサイトのアカウントを持っていなかった。
【このキサラギって―?】
【《超有名アイドルとキサラギの争い》のキサラギサイドか?】
【まさか、キサラギは重工業系の企業だ。超有名アイドルに関係あるはずはないだろう】
しかし、コメントに関しては信ぴょう性が薄い等の理由でスルーされる流れとなった。
その一方で、ネット上ではとある出来事も起こっていた。グループ50のファンサイトにある人物が投稿したらしいのだが、その人物の名前が…。
【グループ50は住民から…(中略)…最終的には神になろうとしていた。そんな悪行が現実世界で許されるはずがない。国連で超有名アイドル規制を求める声もあり、即刻解散すべきである。 西雲隼人】
このコメントを見たファンは反論し、遂にはこの一件が炎上ブログサイトに掲載される事になった。そして、その矛先は西雲和人にも及んだ。
「これは一体…」
アカシックレコードサイトに書かれていたニュースを見て、西雲は思っていた。やはり、これが現実になってしまったか…と。
「西雲の名前が超有名アイドルを打倒した英雄として、炎上ブログに加担する反超有名アイドルサイドに逆に利用されていたとは」
これを現状で打開するような策は残っていない。そんな中、西雲はとあるサイトを見て思いついた。
「これならば、何とか出来るかもしれないが―」
その一方で、西雲隼人の偽者を語る人物がインターネットのアイドルサイトに片っ端から書き込みを行い、それが超有名アイドルだけではなく普通のアイドルサイドにも波及し、遂には全てのアイドル勢が西雲隼人に反旗を翻そうとする非常事態にもなった。
「このままでは、超有名アイドルとキサラギの争い以上の悲劇が生まれる。それだけではない、一歩間違えれば大規模テロが起こりかねない―」
ARブレスから一連の流れを見ていたスカイフリーダムは、グループ50の芸能事務所へと急いで向かった。
同日午前12時、ほぼ無人に近い状態となった秋葉原を走るスカイフリーダム…。その一方で、ニュースでは―。
『速報です。第3者の名を名乗り、超有名アイドルファンにテロへの参加を誘導したとしてグループ50の現メンバーが警察に逮捕されました』
「遅かった…。このままでは、この世界は超有名アイドルとキサラギの争いに巻き込まれてしまう―」
ARブレスでニュースを確認したスカイフリーダム。既に遅かったのか…と心の中では思っていた。しかし、足を止める事無く目的地へと走り出す。
「!!」
スカイフリーダムが驚いたのは、無人の秋葉原で電機店のテレビ、大型モニターにある人物が映し出された事である。アイドルが着るような衣装とは全く異なった衣装を着ている人物はある曲を歌っていた。
《―エモーション―》
歌詞テロップを確認する余裕もないスカイフリーダムは、エモーションと言う単語のみを確認した。そして、グループ50の芸能事務所へと急ぐ。距離は1キロあるが…。
「間に合わせる! 全てが手遅れになる前に―」
5分後、スカイフリーダムはグループ50の芸能事務所に到着した。警察は既に撤収後で、部屋の中に誰もいるような気配はない。
「ここが、芸能事務所―!」
スカイフリーダムが後ろを振り向くと、そこには旧劇場跡につながる道だけではなく劇場が目と鼻の先にあった。つまり、証拠を隠す場所としても事務所が利用されていた証でもあった。
「ここでも流れているわね」
周囲を振り向くと、事務所に置かれたモニターでも同じPVが流れている。既に話も進んでいるらしく、先程のアイドルが秋葉原を舞台に別の武装化したアイドルと戦っていたのである、
「確か、アカシックレコードの強化型装甲、そして…ホーリーフォース―」
スカイフリーダムはメットを外し、エレベーターで3階へと向かう。
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3階に到着したスカイフリーダムは、そこでの惨状を見て驚きを隠せずにいた。倒れている無数の自警団と思われる人物。気絶しているだけと思われるが、ここで大規模な争いが起こったと推測できる。
「なんて、ひどい事を―」
怪我の様子等を見る限りは、警察の撤収後に何かが起きた…と言うのが正しい表現かもしれない。救急車を呼ぼうとも考えたが、何者かのジャミングで救急へ連絡する事は出来なくなっていた。
「ジャミング? これが動いている以上は例のシステムが起動しているはず―」
【アカシックレコードサーバー】
スカイフリーダムが到着したのは、先程まで争いが起きていたと思われるサーバールームである。
《ずいぶんと遅かったな。スカイフリーダム―》
この声には聞き覚えがあった。声の主は、間違いなくインフィニティシャドウだが…。
「インフィニティシャドウ、どういう事なの?」
スカイフリーダムはビームサーベルを構え、臨戦態勢を取る。本来ならばARデュエル筐体がなければフィールドは展開出来ず、ARウェポン等も動作しないはずだが…?
《この私は気付いたのだ。キサラギと超有名アイドルの争いを実現させる事が出来れば、この争いに乗じて無限とも言える利益を上げる事が出来る。日本経済を復興させる事も―》
「キサラギと超有名アイドルの争い…確かに、あの戦いが続けば経済を一気に盛り上げる事も出来る。でも、そんな事をすればコンテンツの消耗戦に発展し、最終的には海外コンテンツ勢に日本は占拠される」
《超有名アイドルのみによる市場独占には限界が来ている。芸能事務所側が焦った結果が、あの末路だ。向こうは低クオリティでノーリスクハイリターンと言うアイドルを複数生み出し、ありとあらゆるものに印税をかけようと画策さえしようとした》
「その結果が…伊藤零の逮捕?」
《伊藤の逮捕は、氷山の一角に過ぎない。私が望むのは、全ての世界線における超有名アイドル勢力とキサラギの勢力をぶつける事。これによって切磋琢磨し、作品のクオリティを上げる事が出来れば―》
「その結果、日本が海外勢力に吸収されても構わない…と?」
《それをさせない為の争いだ。今まではキサラギ側の勝利で超有名アイドルの衰退、超有名アイドル側の勝利でその他ジャンルの減少という末路を繰り返してきた。今こそ、本当の意味で夢中になる事の出来るコンテンツを生み出すべきなのだ》
「その為に大きな戦争を日本で起こそうとしている。そんな考え方はおかしいわ」
《しかし、似たような考え方をしている人物は他にも多数いるはずだ。地球征服とまではいかないが全世界大ヒットや世界進出も―規模は違えど、元々は同じはずだ》
「確かに世界を目指すという考え方は間違っていない!」
そして、スカイフリーダムはインフィニティシャドウの方へ向かってダッシュをする。しかし、ダッシュした先には彼の姿はなかった。
《世界進出するアーティストは数多い。中には、国の支援を受けて全世界進出という歌手も存在する位だ。しかし、金の力だけで地位を手に入れたようなアイドルでは…この先を生き残る事は出来ない!》
「だから、キサラギのようなハイクオリティのマイナーアーティストを輩出し続ける事が日本の為になると…」
《量より質のキサラギ、質より量の超有名アイドル、どちらにも支持者が存在する。そして、逆に支持をしない人間も存在する》
別の場所に出現したインフィニティシャドウに向かってビームライフルを放つスカイフリーダムだが、その攻撃は当たらなかった。そして、それを何度か繰り返していく内に…。
「あなたの狙いは何なの!? キサラギと超有名アイドルの争いを再現する理由は?」
遂に、スカイフリーダムが新規に装備した右肩の大型シールドを分離、そこから放たれたのは無線式のファンネルと呼ばれる物だった。インフィニティシャドウにビームが数発命中するが、手ごたえは全くない。
《狙い? アカシックレコードや超有名アイドルの秘密を探ろうと考えていた君ならば、既に気付いていると考えていたが―》
《リアル日本を舞台としたARオンラインゲーム…。ゲームのルールを破るようであれば、その者は永久にゲームの枠からは排除される世界―それが目的の一つ》
「ゲームのルールって、まさか―」
《察しが良くて非常に助かる。法律を破る物にはペナルティを課し、最終的には世界から排除する》
「架空と現実の判別が出来なくなって、そこから犯罪が起こった事はあなたも知らないはずはない!」
《確かに。だからこそ、そう言った人間を強制マインドコントロールで二度とペナルティを起こさせないようにする。さすがに、こちらとしても殺人サバイバルを行う気は皆無だからな―》
「あなたは架空と現実の区別さえもついていない。そんな人物が、アカシックレコードに触れれば―」
《これが現実だ。超有名アイドルのようなコンテンツは闇に―沈むべき―なのだ》
「もしかして…?」
インフィニティシャドウの台詞に若干のゆがみと矛盾を見つけ、もしかして…と思ったスカイフリーダムは彼を無視して近くにあった作業用エレベーターから1階へ降りる。
【スカイフリーダム…警告…。直ちにARブレスを外してスーツを無効化せよ】
謎の警告文がARブレスとバイザーに表示されるが、それを無視してエレベーターは1階へ…。
同日午前12時30分、エレベーターが1階に到着し、そこから降りたスカイフリーダムの目の前にいたのは驚くべき人物だった。
「ジークフリート―」
目の前にいたのは、途中からダークヒーローへと路線変更した際のARスーツを着たジークフリートだった。一体、これが意味している物とは?
「竜宮クレナ、西雲和人、闇月弥生…彼らはやりすぎてしまったのだ。辛うじてバランスが保たれていたキサラギと超有名アイドルの争いに介入したことで、大きなバランスを崩し…超有名アイドルサイドは消滅の危機に陥っている」
「それだけではない。超有名アイドルサイドもキサラギ以外の勢力に対して武力行使を行おうとしている。その兵装には、賢者の石が使われているという話も聞く」
「賢者の石。その全貌は一切の謎に包まれた驚異的な魔力の象徴…それによって日本の全てが動いていると言っても支障はない」
ジークフリートの話を聞いて、スカイフリーダムは疑問に思った。賢者の石、それはアカシックレコードによっては記述が違う為、彼の言っている賢者の石がどれだと言う事が分からないと言うのもあるかもしれない。
「日本の全て…まさか?」
そして、彼の言っている事に気付いたスカイフリーダムは、何としてもジークフリートを止めなければ…とビームサーベルを展開しようとする。しかし、展開しようとしても反応が一切ない。
「その通りだ。ありとあらゆるものが賢者の石の力によって制御されている。つまり…超有名アイドルの存在が消える事は、日本の全てが動きを止める事になる!」
スカイフリーダムはジークフリートの言う事を信じようとはしなかった。日本の電力をはじめとしたライフラインも超有名アイドルが全て掌握していたのか…と。
「そんな話は…あり得ない! それが現実だとしたら、日本だけでなく世界も…アカシックレコードを有する他の世界線も機能を停止する事になる。つまり、今の発言は全てブラフ!」
そして、スカイフリーダムはARメットを外す。そして、今見えている光景を確かめる。目の前に人はいない。つまり…。
「これ以上、第4者の意思に操られる訳にはいかない!」
如月翼は、そう叫ぶ。そして、その叫びはつぶやきサイトを通じて瞬く間に広がり、超有名アイドルと言う存在に束縛された世界から日本を解放しようと言う別の道をたどる事になった。
「あの警告が意味していたのは、こういう事だったのね―」
例の警告は誰が送った物なのか…という事を翼は言及しない事にした。むしろ、このメッセージを送った人物には感謝したい位である。
「この世界には知らない方がいいという存在もある…か」
その状況を遠目で見ていたのは、ドラゴンの覆面を被った竜宮だった。そして、彼はこの場を後にする。
そして、例の事件から数時間後の午後5時…。
『秋葉原における一連の事件に関して、警察はグループ50のメンバーを逮捕する事を発表しました―』
『既に事務所からは遠隔操作ウイルスやハッキングに使用した機材が押収されており、伊藤零容疑者を再逮捕する事も検討しております』
ニュースではグループ50のメンバーが逮捕されたニュースが報道されていた。既に一部メンバーが超有名アイドルファンに武装蜂起を呼び掛けた事で逮捕された一件に加え、他にも芸能事務所の半数近くが警察の家宅捜索を受ける事になる。
そこから超有名アイドル規制法案が議論され、新たな火種になる事も考えられる。
しかし、それは別のエピソードになるだろう。
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西暦2014年4月12日、午前10時…。秋葉原では昨日の出来事が嘘だったかのような平和を取り戻していたのである。
『まもなく、ARデュエルが開始されます』
ARデュエルも健在、それ以外のARゲームも稼働し、それぞれのプレイヤーが切磋琢磨を続けている。
【結局、第4者の意思って何だったのだろうか?】
【それは分からない。ただ、超有名アイドルばかりに依存し、他が淘汰される世界…。それが実現する事だけは許されなかったのだろう】
【超有名アイドルが別の物に変わっても同じような事が繰り返される事は最も懸念されるだろう】
【つまり、コンテンツAの影響で犯罪が起こったから根絶→実は別のBというコンテンツでも同じ事が→更に別のCという→更にD→E…という事が繰り返されるのを求めていないと言う事なのかもしれない】
【最終的に巡り巡って『超有名アイドル以外は禁止』という世界に到達するのか】
【そして、キサラギと超有名アイドルの争いは繰り返されるのかもしれない】
ネット上でも第4者の意思に関しての議論はあったのだが、深く掘り下げるような議論はされなかった。その理由は分からない。
【しかし、超有名アイドルが日本で一番売れているが、世界では見向きもされていない。それどころか、彼らは音楽ゲームや同人ゲームの作曲家の方を支持している。この差は何だろうか?】
【超有名アイドルは『利益優先』の拝金主義だからな。クオリティは2の次、出したCDも次に莫大な利益を出せればと捨石にされるケースもある】
【逆に同人ゲームの作曲家は、利益等は関係なしに挑戦するような傾向もある。これはほんの一例だが…他の世界線では同人ゲームの曲が超有名アイドルの楽曲よりも評価されている世界もある】
【つまり、超有名アイドルの楽曲は買収されたファンが過大評価をしていると言う事か?】
【そう言った判断をするのは早計だ。それは世界線での1ケースに過ぎない。他の世界線も同じ評価をしているとみられるのは、他の世界線にも迷惑がかかる】
【超有名アイドルの悪行が、どれだけの世界線で色眼鏡で見られるような結果になったのか…それを芸能事務所にも考えてもらいたい所だ】
【そして、それを煽って金儲けを考える炎上ブログサイトの姿勢にも問題があると言わざるを得ない。彼らの存在をシャットアウトするように国連へ提言する事こそが、最重要と考えるが?】
【炎上ブログサイト自体、他国では勢力が小さい等の事情で国連へ持っていっても無駄だろう。日本独自で規制法案を作るしかないが、それでも半年位で対抗策が出来てしまうのが現状かもしれない―】
【結論としては、一度生まれてしまった物がそう簡単に消える事はないと言う事か。上手く共存出来るような環境を作っていく事の方が、排除するよりも難しいとは…】
その第4者候補には、炎上ブログサイトも上げられたのだが、その真相はいまだに謎である。
同日午前10時10分、北千住駅前ではある試合が行われようとしていた。
「始めようか―」
一方は、現役格闘家で最近になって話題になったヲタク格闘家である。今頃になってARデュエルを始めた理由は分かっていない。
「ええ。こちらは既に準備はできているわ」
格闘家の目の前にいたのは、魔法少女を思わせるような黒をメインとしたコスチュームを着た如月翼だった。スカイフリーダムではなくなってしまったが、ブレイブランカーの称号は今も残っている。
同刻、竹ノ塚駅周辺でも…。
「ARデュエルの広域拡大…これも時代の流れか」
西雲が既に倒していたのは、ブレイブランカーを名乗っていた事のあるサムライと言う名の人物である。
《ランカーランキング10位おめでとうございます》
気がついてみると、ランカーランキングの顔触れも以前とは比べ物にならない変化を遂げていた。
【1位のエイジ、2位のオーディーン、3位のキリト、4位のスカイフリーダム以外はほぼ総入れ替えもある】
【今回、西雲が10位到達と言う事は、近い内に再び入れ替えがある可能性も―】
【そう言えば、別の場所でもランカーランキング9位にリーチと言う人物がいたな】
同日午前10時50分、西新井駅近く。ここでは、近日中に別のAR系イベント会場も出来あがるのだが、それとは別にARデュエルの筐体も置かれていたのである。
【ランカーランキングに変動あり。10位プレイヤーが入れ替わりました】
電光掲示板に表示された速報を見て、会場が盛り上がる。どうやら、このバトルの結果次第では順位の再変更もあるような出来事らしい。
「誰かは知らないが、自分のランカー入りを阻止しようと考える人物がいるのは事実か―」
ドラゴンの覆面を被った竜宮がつぶやく。竜宮も、ここで勝利すればランカーランキング11位に滑り込み、上位10人に並ぶチャンスも出てくる。そして、竜宮は既に10名のプレイヤーを撃破しているのだが…。
《警告! アンノウン急速接近中!》
竜宮がオプションカスタマイズで変更した乱入時アナウンスと共に、挑戦者のデータが表示される。そして、その人物は意外な人物だった。
「どうやら、私の出番が来たようね」
そこに現れたのは、何と弥生だったのである。弥生もランカーランキングベスト20に入ったばかりで、このタイミングで竜宮へ挑むのは大きなチャンスでもあった。
【竜宮と闇月の対決か…。ランカーランキング的には、大きな変動になりそうだ】
【この対決の結果次第では上位ランカーの入れ替えもありえる。既に西雲がランカーランキング10位に入ったという話も聞く】
【旧勢力のメンバーでも敵わない新メンバーか…。オーディーンやエイジ辺りを倒せるプレイヤーも将来現れそうだ】
【我々は期待して待つとしよう。新たなるランカーの誕生を】
ネット上でも竜宮と弥生の対決は互角と見るユーザーが多い。その対決の行方は…?
「こちらも手加減はしない」
竜宮がドラゴンの覆面を直し、臨戦態勢を取る。
「それはこっちも同じ!」
弥生はARブレスを設定して竜宮との戦いに挑む。
《ラウンド1 ゲットセット》
そして、新たなる歴史の1ページが幕を開けようとしていた。