ゲームオーバー-Gameover-
※ピクシブ版での冒頭あらすじを小説家になろう版では一部カットしています。
裏で超有名アイドルによる日本掌握を企んでいた伊藤零が遂に逮捕された。しかし、100兆円という保釈金で釈放され、事件の真相を話す事もなかった。
その一方で、如月キリト、オーディーンをはじめとしたARデュエルの上位10人であるブレイブランカーが遂に一連の事件に介入する流れになった。
そして、オーディーンは警告する。「ブレイブランカーの前でARデュエルの自由を奪おうと言う存在は、誰であろうと容赦なく…斬る!」と。
果たして、ARデュエルを超有名アイドルの魔の手から守ることは可能なのか?
『ARファイターの称号を持つ者たちよ、今こそ我々の世界の秩序を守る時である!』
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西暦2014年4月7日午前7時、通勤の為に電車を利用する人たちも足を少し止めるニュースが電車内の電光掲示板に流れた。
『昨日保釈された伊藤零氏が一連の規制法案に対して、超有名アイドルは除外するようにという注文を自治体に文章で送った事が明らかに』
伊藤零が昨日保釈されたのは知っている人物は多かったが、保釈後に今回の一件に関する文章を送っていた事実は知らなかったらしい。
同日午前8時、伊藤はモノリスプレートの前にいた。周囲に他の人影は全く見られない。
「そうか。そう言う事だったのか…。この手を使えば、超有名アイドルが永遠の存在になるのは間違いない―」
伊藤は何を考えているのかは不明の一方で、劇場の方は休館日で入り口は閉められていた。そして、伊藤はスタッフ専用裏口からオーナー室へと向かった。
同日午前9時、謎の電波ジャックによって1局を除いたテレビ局の番組が全て別番組に差し替えられる事態になった。
『私の名はナイトメア。日本に本当に必要な物…それは、超有名アイドルである』
『超有名アイドルがいれば、全ての災いを抑える事も出来る。彼女達だけがいれば、日本に他のコンテンツは必要ない』
『その手始めにARデュエルを消滅させる事を宣言する! 今こそ、超有名アイドルファンの結束を世界へ見せつけるのだ!』
放送は、ここで終了している。1分弱という電波ジャックだったが影響力は計り知れない物があった。
【今のは何だったんだ?】
【遂に訪れるのか…超有名アイドルファン以外が国外追放される世界が】
【日本の経済を救ったのが超有名アイドルとは、到底信じられない。何かのねつ造じゃないのか?】
【超有名アイドルがいれば全ての世界で戦争がなくなるとでもいうのか? 冗談じゃない。そんなご都合主義的なアイドルがいるわけがない】
【これが、超有名アイドルのデウス・エクス・マキナ化…】
【モノリスプレートの正体、そう言う事だったのか】
ネット上では、既に電波ジャックが始まった辺りで祭りとなっていた。そして、ネット住民は超有名アイドルが支配する日本が現実化する事には反対をしていた。
【モノリスプレートは超有名アイドルが全世界を征服するような存在になった時、世界は滅亡すると言う警告を示していたんだ!】
【警告だとしたら、ナイトメアが超有名アイドル以外不要という宣言をするはずがない。おそらくは、超有名アイドルに都合のよい情報だけを記して、絶対的な神は超有名アイドルであるという事を示そうとした物だと思う】
【意図的に読めなくしてある文章は、超有名アイドルにとって不利益な情報を示す物だった。そして、別の解釈出来るように意図的に文章を隠した―】
【何故、不利益な情報だけを隠す事をしたのか?】
【おそらくは『超有名アイドルは数年後に滅亡する』とでも書いてあったのだろう。永遠の存在にする為にも彼らにとっては都合の悪かった】
【永遠の存在って、もしかして不老不死の―】
【それ以上はいけない。そこまでに到達するような存在になったら、突如として日本がファンタジーの世界になってしまう】
【既に世界線によって複数の並行世界がある地点で―】
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同日午前10時、とある芸能事務所のビルでは会議が行われていた。
「伊藤の言う事は当てには出来ないと言う事か」
「我々が動くべきではないのか?」
「今こそ、超有名アイドルを無限の利益を生む存在にする為の―」
「そうだ! 今こそ、超有名アイドルを永遠の存在にする為に動かなければ」
会議の内容は超有名アイドルの今後だったが、半数以上は超有名アイドルを永遠の存在にして年商1000京円以上を目指す為に…という意見が半数だった。
「伊藤の指示もない以上、下手に動いて一気に壊滅する事は避けるべきか」
「しかし、これ以上長引けば我々の立場が危うい」
「今の状況は超有名アイドルを排除しようと言う動きになっている。それを阻止する為にも、反対勢力は社会的に潰すべきだ」
「今こそ、超有名アイドルだけに無限の利益を!」
「今こそ、超有名アイドルだけに無限の利益を!」
『今こそ、超有名アイドルだけに無限の利益を!』
そして、彼らは伊藤の指示を待つことなく動き出す事になった。この暴走は、後に重大な誤算を招く展開となった。
同日午前11時、突如として芸能事務所の有名アイドルが揃いも揃って強豪プレイヤーを撃破していると言うニュースが流れた。しかし、ニュースはそれだけではなかった。
【超有名アイドルによるARデュエルの初心者狩りとも言える状況か…】
【露骨な宣伝行為で失格…と思ったら、相手側がアイドルを傷つけたと言う事で失格とか】
【既にARデュエルは超有名アイドル勢に制圧された後なのか―】
【初心者狩りも失格対象のプレイのはずだが、どうして失格扱いになならないのか不思議だ】
ネット上では、超有名アイドルがARデュエルを制圧しているような状態になっていた。ARデュエルは超有名アイドルの所有物になってしまったのだろうか?
【この試合を見ろ! ランクの表示が…】
ある試合では、ランキング8位のプレイヤーがスーパー新人アイドルにパーフェクトで敗北していた。
【彼の称号は魔神に対し、相手の称号は…伝説!?】
試合回数が10戦にも満たないプレイヤーが伝説と言う称号を取れるはずがない。これが、システムも掌握されていると言う事を裏付ける証拠になった。
【《急募》10戦以下(本日エントリーされたばかりのプレイヤーです)で伝説称号のスーパー新人アイドルと対戦した動画をワックワック動画にアップしてくれる方。おそらく、ステータス等も遠隔操作ウイルスの類で称号が改ざんされている可能性が高いです。検証の為に使用しますので、ご協力をお願いします】
この急募告知は、またたく間にネット上をかけめぐり、最終的には―。
同日午前11時5分、ARデュエル専用モニターが全て緊急メンテナンスの表示が現れ、中継映像が途切れてしまったのである。試合動画検索等の機能は正常に動く為、ライブ機能のみのメンテと言う事でネット上には情報が回っていた。
「遂に動いたか…最強最悪のガーディアンが」
上野駅にあるメンテナンス表示となったモニターを見て不敵な笑みを浮かべたのは、意外な事にオーディーンだった。
同刻、芸能事務所ビルの周囲を報道陣が取り囲んでいた。どういう事なのか…と周囲のスタッフも慌てている様子だった。
「まさか、もう足が付いたとでもいうのか?」
「そんなバカな事が―。こちらのハッキング技術も向こうに遅れは取らないはず」
そんな中で会議室に現れたのは『黒い』スカイフリーダムだったのである。
「貴様は…グループ50のメンバーではなかったのか?」
「おのれ伊藤、我々を裏切ったな!」
「やはり、超有名アイドルとは劇場を保有するアイドルグループだけで、他は切り捨てるつもりだったのか―」
その姿を見た関係者は、それぞれが伊藤に責任転嫁をするような発言を繰り返す。
《やはり。どの世界線も超有名アイドルは滅び去る宿命か―》
スカイフリーダムが発した声を聞いた途端、彼らは逃亡手段もないと判断し、途中から現れた警察に対して自首をしたのである。結局、スカイフリーダムは事務所に現れたのみで、何も攻撃などをする気配を一切見せなかった。
同日午前12時、ニュースの時間だったのだが速報で臨時ニュースが入って来た。最初に報道する予定だったニュースは別の物だったらしいが…。
『先程入った臨時ニュースです。本日午前11時30分頃から、大手芸能事務所100社以上に警察が一斉に立ち入り調査を開始した模様です』
『警察の発表によると、ARデュエルにおける一連の事件、アイドルCD投資詐欺事件、アイドルチェーンメール事件、大手事務所襲撃事件、出版社の営業妨害―』
流れた臨時ニュースを見て喜ぶ者、驚く者、一方で悲しむ者…彼らは、それぞれに色々な表情を見せていた。
【自業自得の一言で片づけられる事件ではないが、非常に長かった】
【遂に超有名アイドルの起こしてきた事件が全て表にさらされるのか?】
【既にCDを10万枚単位で購入し、CDチャート1位になれば高く買い取ると言う詐欺事件は逮捕者も出ているが…】
【高校生や中学生、遂には現役アイドルやテレビ局のスタッフ、挙句の果てには警察まで―お金が欲しいと言うだけで合法と思われていた物に手を出していたのか?】
【投資詐欺が犯罪だと言うのは確定的に明らか。それを超有名アイドルのCDに置き換えただけでビジネスになると考えるのはおかしいだろう】
【楽して金を稼ぐと言うのは事実上の不可能だ。その影響はテレビ局でも行われている】
【アニメ中心の1局と国営放送は例外として、他は全て1つの超有名アイドルを扱ったテレビ局が複数あると言う扱いだったからな】
【超有名アイドルの印税だけで楽して儲けようと考えた結果、テレビ離れが加速した。もはや、超有名アイドルを排除しない事には体質が変わる事は永久にないだろう】
【超有名アイドルを排除したとしても、結局は別のコンテンツをメインにして楽して儲ける体質は変わらないだろう。やはり、法律で規制するしか方法はないのか。罰金を1000兆円単位にして―】
【これが、超有名アイドルと言う名の賢者の石を使い過ぎた反動と言う事か】
ネット上で大騒ぎになっている一方、ARデュエルのアンテナショップでも騒ぎになっていると思われたが―。
「これでARデュエルも少しは落ち着くだろう」
「超有名アイドルは自業自得だった。しかし、ARデュエルも一歩間違えれば超有名アイドルと同じ道をたどっていた」
「オーディーンの一言がなければ、実力行使もあり得るようなムードだったからな。下手をすれば、規制されていたのはARデュエルの方だったのかもしれない」
ARデュエルの方では、超有名アイドルはどうでもよくなっているような状況だった。対岸の火事と言う訳ではないが、下手に刺激して襲撃事件等が起きないようにしているような気配も感じる。
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同日午前12時、テレビのニュースを劇場のオーナールームで見ていた伊藤は…。
『―既に事務所の数か所では、一連の事件で使用した遠隔操作ウイルスも発見されており、プログラムの解析を急ぐように指示が出たようです』
「何て事を…。これで人々にとって超有名アイドルはスルーをしたくなる程の邪悪にされてしまった。このままでは、現実世界でも超有名アイドルの風当たりが悪くなり、最終的には同人ゲームや音楽ゲーム楽曲がメインとなる世界がやってくる―」
芸能事務所が余計な事をした影響で、超有名アイドル商法は風前のともしびと言う所までになっていた。このままでは日本政府がアイドルに関して大幅な規制をする事も避けられない。そんな中で、伊藤は最終手段に出る事にした。
「あの時のナイトメアは破壊されたが、これさえあれば―」
伊藤の目の前には、以前に破壊された物とはデザインの異なるARスーツが置かれていた。
同日午後1時、警察官が秋葉原の劇場に突入するが、伊藤の姿を発見する事は出来なかった。しかし、劇場からはCD不正転売や他の事件に関する証拠が次々と発見され、包囲網が作られた事は間違いない。
同日午後2時、池袋にある60階建ての高層ビル近くに設置されたばかりのARデュエルフィールドでは、ナイトメアと戦っている人物がいた。それは、意外な事に―。
《ラウンド2 ゲットセット!》
「お前の実力は既に分かりきっている。この私に勝つなど不可能―」
ナイトメアが大剣を振り回すが、命中はしない。しかし、この振り回しは相手を誘う為のトラップである。
「何っ!?」
相手は、大剣の振り回しがフェイクと言う事も分かっていたらしく、本命のキックをいとも簡単に回避したのである。そして…。
《ウィナー! 闇月弥生》
気がついてみると、ナイトメアはミスプレイによるダメージが蓄積し、気がついてみると2ラウンド共に奪われると言う結果になっていた。
「そんな馬鹿な。あのシステムが起動しなかったと言うのか?」
伊藤はナイトメアのシステムが機能しなかった事が敗因だと考え、再戦を申し込もうとしたが…。
「あなたはARデュエルを何も知らない。所詮、超有名アイドルを宣伝して金儲けしようと考えていた小悪党にはフィールドに立つ資格はない」
伊藤が戦っていた相手、それは黒いARスーツを着た闇月弥生だった。今の彼女からは、かつては連敗していた時のような表情はなかった。
「私が小悪党だと? 冗談じゃない! 私は超有名アイドルが有名になり、日本の経済を支える存在となれば良かったのだ。何故、この私の邪魔をする!」
伊藤は訴える。超有名アイドルこそが経済を救う唯一の存在である事を。その為にも他のコンテンツは不要であると言う事も…。
「自分は過去にアイドルへの憧れを持っていた。しかし、今のアイドルはお金を儲ける為に作られた操り人形でしかない。そんな芸能界は、存在しない方が―」
弥生がフィールドを去ろうとした、その時である。伊藤は密かに隠し持っていた拳銃で弥生を撃とうと銃を向けたのである。
「本来ならば、こういった手段には出たくはなかった。これを実行すれば、超有名アイドルは反社会的勢力の仲間入りをしてしまうからだ。しかし、超有名アイドルの栄光と繁栄の為には止むえない―」
そして、伊藤は引き金を引いた。
「何だと? まさか―」
伊藤が引き金を引いたのは間違いなかったのだが、銃弾が発射されるような事はなかった。そして、カチカチという音はするが…。
《伊藤零、貴様の負けだ。その銃はARデュエル時にか使用出来ないARウェポン。架空世界の銃が現実世界と同じような能力を持つはずはない―》
何処かから声が聞こえる。しかし、この声は伊藤にしか聞こえず、他のメンバーが聞く事は出来ない。
《それすらも区別出来なくなった貴様には、アイドルをプロデュースする資格はないと言う事だ―》
「私は超有名アイドル商法で9999京円まで利益を上げた! それの何がいけない。金儲けをするのが犯罪だと言うのか!?」
《ファンクラブメンバーのみがCDを1人100万枚購入させてミリオンヒットを偽装、更に特典なしのCDを転売させて収益を上げた、更には競馬予想サイトを運営して得た資金をCDの宣伝費に流用、競合他社のコンテンツがヒットしないように無尽蔵な資金を利用して買収及び妨害工作、更には―》
「どれもこれも超有名アイドルが仕掛けた物ではない。全て別の芸能事務所が…ハンターズプロや他社の仕業なんだ! 超有名アイドルは唯一無二、絶対神、未来栄光消滅する事のない無敵のコンテンツなのだ。今年の紅白も既に確定し、海外進出も目前だと言うのに―」
《それは、全て偽りのアカシックレコード―モノリスプレートの記述だろう。お前は、説明書通りに従って行動しただけに過ぎない。そして、超有名アイドルは黒歴史になる》
「超有名アイドルが黒歴史だと? モノリスプレートもデタラメのはずがない! あれは他の芸能事務所を威圧する目的で―」
《ゲームオーバーだ》
その直後、突然として伊藤が倒れた。警察に連行される頃には何かの落ち物が消えたような顔でパトカーに乗り込み、そのままパトカーとともに姿を消した。
【一体、何が起こったんだ?】
【伊藤が何かを叫んでいたのは間違いないだろう。そして、この模様は全世界に中継された】
【全世界も超有名アイドル商法に対して規制法案を望む声が広がり、国連でも議論されるようだ】
【超有名アイドルが武装組織と同一のテーブルで議論されるとは…それだけ日本が行ってきた超有名アイドル商法が警戒されたという証拠だろう】
【芸能事務所1社だけで全世界の流通している資金の1000万倍以上か】
【これだけの資金があれば、世界征服も数日の内に完了できるのは間違いないだろう】
【これでも超有名アイドル商法として判明したのは氷山の一角なのは間違いないだろう。現実世界では、これ以上に恐ろしい事が起こっているという話も聞く―】
【やはり、人は同じ過ちを繰り返してしまうのか。そして、それを同じように批判し、未来を変えることはできないと諦めて…最終的には希望を自ら捨てる】
【その現実を喜ぶのは、一部の大手ブログを管理している会社だけだろう。超有名アイドルが消えようとも、彼らは火種となるような存在がある限り、それを炎上させて金儲けをする】
【いっそのこと、炎上ブログを規制する動きが国連でも議論されれば…】
ネット上では超有名アイドル規制が全世界にも広まるのでは…と。そして、超有名アイドルが黒歴史になろうとも争いの火種が消える事は決してない事も示唆された。
同日午後8時、西雲和人はテレビを消してパソコンに集中していた。厳密にはアニメは見ていたようだが、他の番組を一切チェックしていないと言う方が正しいだろうか?
「アカシックレコードサイトも一部でメンテか―」
アカシックレコードサイトが緊急メンテナンスをしていた為、ここで小休止と言わんばかりにコンビニで買ってきた焼きそばパンを口にしていた。
「やはり、サイトへのアクセスが全体的に重くなっている―。外で何かがあったと考えるべきか」
今日の西雲はコンビニへ出かけた事と、気晴らしに例のゲーセンへ行っただけで外で大きな動きがあったにもかかわらず、そちらの方には無関心だった。
【アカシックレコードサイトがメンテとは…珍しいな】
【あのサイトでメンテ自体は年に数回レベルだった。今日に限ってアクセス数が多いのか?】
【ハンターズプロの家宅捜索、伊藤零の逮捕、超有名アイドル規制法案が世界規模で広まる…どれも大きいニュースだからな】
【他の世界線も大きなニュースを黙って見過ごすわけにはいかないのかもしれない】
【しかし、ここまでの規模で超有名アイドルを物扱いにしていた世界も珍しいか】
【他の世界線では、超有名アイドルを人気にする為に色々な手段を使っていたが、ここまでひどい状態ではなかった】
【全ては虎の覆面が書いたシナリオ通りか―。今回の反省点を他の世界で超有名アイドルを永遠の存在にする為に利用するのだろう】
【今回ばかりはキサラギサイドの圧勝と見るべきか。ただ、キサラギ側にも深刻なダメージがあるようだが―】
つぶやきサイトでは、虎の覆面とキサラギの超有名アイドルとそれ以外のコンテンツによる争いは繰り返される…と考えている住民がいた。この世界線では血で血を争う戦争ではなく、コンテンツ同士でどれだけ支持を得られるか…という争いになっているのかもしれない。
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西雲はとあるアカシックレコードを発見した。その文章に共感したユーザーは多く、日本だけではなく海外や他の世界線からも拍手ボタンが押されているのが分かる。
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【WL・SOV:全ての音楽に関わる人たちへ 西雲隼人】
(前略)
しかし、今の音楽はお金を生み出す為の手段として用いられるケースが多くを占めていると思います。そう言った側面がある事を自分は否定しません。自分も作曲家をやっている以上は、そう言った観点で音楽を作る事も時には必要になってくるかもしれないからです。ただ、現状は色々な事情はあると思いますが単純にお金を生み出す為だけに音楽が利用されている…そんな風に感じざるをえない状況になっているのは事実です。
皆さんが心に残っている音楽は何でしょうか。人それぞれに思い出に残る音楽はあるはずです。しかし、今のCDチャート等に踊らされているだけの気配がする音楽業界は完全にリセットをした方がよいと思っています。
ネットではJ―POPと音楽ゲーム楽曲の立ち位置を逆転させるというような事が言われています。自分も一度はそれを実行しようとしました。しかし、それでは全くの意味がないという事に気付きました。結論として立ち位置を入れ替えたとしても最終的には同じ事の繰り返しになり、再び立ち位置を入れ替える等の論争が起こるのではないかと…。
(後略)
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「これが、同じ西雲という名字を持った意味―」
西雲は別の世界線でゲームデザイナー及び作曲家としても活躍をしている西雲隼人の書いた文章を見ていた。その中には、今の自分には存在しないような考え方や全ジャンルの音楽と共存しようという考えが書かれていた。
「今の彼はどうしているのだろう。そして、何を考えているのか―」
しかし、西雲隼人の記述は1個の文章のみで残りは全て閲覧不可と言う状態になっていた。
「このロックは、特殊なプロテクトになっている」
残りの文章は該当する世界線からではないとアクセスが出来ないようになっていたのである。つまり、こちらのアカシックレコードからは閲覧が出来ないと言う事になる。
「キサラギが残したメッセージ―」
西雲は、キサラギがアカシックレコードに残していたメッセージを思い出した。
《アカシックレコードを希望とする事も絶望とする事も、その情報を受け取った一人一人に委ねられる。彼らが、どのようにアカシックレコードの情報から学び、何を学習するかまでは問わない。しかし、悪用される時があればキサラギは全力を持って悪用しようと企む存在に立ち向かうだろう》
「アカシックレコードは善にも悪にもなる…。その情報を扱う物の心次第で―」
そして、西雲はトークロイドの電源を切る。
「再びアカシックレコードが必要となった時、今の日本はどう変化していくのだろうか?」
西暦2014年4月8日午前10時、新装開店する秋葉原のゲームセンター前には長蛇の列が出来ていた。新規オープンと言う事で長蛇の列が出来ていたのも理由の一つだが、それとは別の理由もあった。
「まさか、こういう展開になるとは―」
「展開が早過ぎる。どういう事なんだ?」
「これが第2次ARデュエルか?」
予想外の展開とは、目の前で行われていたオーディーン対スカイフリーダムの試合である。その結果はオーディーンのストレート勝ちだが、周囲のギャラリーが驚いたのは勝敗ではなかった。
「まさか、ARデュエルでお前の顔を見る事になるとは―」
オーディーンはスカイフリーダムの正体に関して何かを知っているような気配だった。フィールドには、スカイフリーダムのARバイザーを兼ねたメットが転がっている。オーディーンが止めの一撃を与えた時の反動で外れた物だろう。
「オーディーン―」
スカイフリーダムの正体、それは如月翼だったのである。何故、彼女がスカイフリーダムと名前を偽ってエントリーしていたのか…。
「あえて多くは語るまい。しかし、既に超有名アイドルの一件は決着した。そのスーツを着て戦う意味もないだろう―」
そして、オーディーンはフィールドを後にした。一体、彼は何を言いたかったのか、いくつかの疑問は残る。
同日午前11時、新装開店したゲームセンターの店内に意外な人物がいたのである。
「凄い―」
「何て反射神経の持ち主なんだ?」
「信じられない―」
ギャラリーが集まっていたのは、ガンシューティングの筐体だった。普通のガンシューティングではなく、ARを利用したリアルなシューティングゲームである。そして、現れる的に向かってリズムに合わせて命中させるという音楽ゲームとしての側面も持ったゲームだった。
「一体、誰がプレイしているのか―」
気になってギャラリーをのぞきにやってきたのは、竜宮クレナだった。今回は、例の覆面をしていない。
《ステージコンプリート》
衝撃度合いが凄かったのは、彼のプレイは何と全て全弾命中のプレイだった事である。全弾命中してなおかつパーフェクト判定のエクセレントプレイもあったが、そちらには到達しなかった。
「このゲームは稼働して1カ月も経過していない。そして、ARデュエルのブレイブランカーも務める…並大抵のことでは無理があるぞ」
竜宮の目の前にいたのは、私服でゲーセンに来ていた如月キリトだった。
「曲の難易度を見るんだな―」
キリトに言われた竜宮は左上に表示されている曲名の隣にある難易度表記を確認した。難易度はノーマルと書かれている。
「さすがに初見でハードをプレイするのは不可能だ。隣の人物みたいなプレイは、流石に無理だが―」
キリトが視線を合わせる先には、同じゲームをプレイしている如月翼の姿があった。
《ステージコンプリート エクセレントプレイ》
エクセレント達成の瞬間にギャラリーは湧いた。しかも、プレイしているのはハード譜面である。曲目はキリトと異なるが…。
「あれだけのランカーがARデュエルもプレイしていたとは―」
「ARデュエル以外にも音楽ゲームでもランカーだったとは驚いた」
翼を見ての反応は人それぞれだが、好意的な物が多いという展開にはキリトも驚いていた。
「格闘ゲームと音楽ゲームではプレイする層が一番異なると話を聞いた事がある。そして…」
何かを言いたそうなキリトだったが、止めておく事にした。そして、キリトはゲーセンを後にする。
「どのゲームにも『ルールを守って正しくプレイ』という概念は存在する。やがて、それが破られる事になれば超有名アイドルと同じ道をたどるのは明白だろう」
竜宮も何か思う所があったが、彼もキリトの後を追うような形でゲーセンを後にする。
(私は、私を道でARデュエルを極めて見せる―)
翼は2人の姿を見る事はなかったが、ギャラリーの湧き方等で来ていたのだと判断した。そして、彼女は新たな道を進む事にした。
「いつか、それぞれのジャンル同士で起こっている争いの火種が他ジャンルに飛び火しない世界が築かれる事を―」
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同日午後6時、予想外のニュースが飛び込んできた。
『グループ50の新曲が1億枚以上のセールス記録が取り消しされる事が明らかになりました』
何と、先週にイベントも行われたグループ50のCD売り上げが取り消しと言う事態になったのである。CDに不良品があった訳でも、キャンセル数もカウントしていたという理由でもない。
『記録取り消しの原因は、CD発売初日に特典なしのCDが99%がオークションに出品されていた事、出品していたのがその他の芸能事務所関係者と言う事で取り消しとなった模様です』
テレビを見ていた視聴者が思わず疑問を抱くような理由だった。オークションにCDを出品するのが違法なのか…と思われても仕方のないような理由で記録が取り消しを受けたのである。
《ARデュエルにおける不正データを利用したプレイヤーについて》
一方では、ARデュエルでの不正データを使用したプレイヤーのアカウント及びIDの凍結等の告知も更新されていたのだが、その中でも…。
【予想通りの展開になったな】
【ナイトメアは警察が調査中という関係上で外されたが、この3名は大きい】
【ARデュエルでも不正データや違法パーツと言う懸念はあったが、システムのバグを逆に利用した1名はID凍結1週間で済んだのが不思議だ】
【システムのバグを利用したプレイと言うのは、他のゲームでもよくあることだ。しかし、ARデュエルでは対戦格闘ゲームである事もバグを減らさなければ…という理由の一つだろう】
【バグを利用した結果、特定のキャラだけ優遇されるような状態になっては、格闘ゲームとしては成立しなくなってしまう】
不正データを使用したメンバーの内、システムバグを使用して勝利数を稼いでいた1名はID凍結1週間と言うペナルティを受ける事になった。
【問題は、こちらの方だ。利用したのがバグではなく、改造チップの類だった1名が該当アカウントの破棄。もう一人は永久追放になったらしい】
【改造チップの方は、カイザーか。予想通りの展開とは思っていたが―】
カイザーが圧勝出来た秘密、それは特定エリアの筐体に設置された特殊チップとカイザーが使用していたAR強化プログラムが連動していた物だったのだ。
【ナイトメアも同じようなチップを使用していたのかもしれない。丸の内の筐体と草加駅の筐体には型番不明のチップが見つかったらしい】
【丸の内の方は少し前に取り外されている。そして、草加駅の方も―】
【池袋、新宿、新大久保にも同じようなチップがあった。池袋と言えば、ナイトメアが逮捕された場所だったな】
【道理で、草加の時に見せた強さが全く見られなかったのは、この為か】
一方の永久追放されたのは誰だったのかと言うと、実は例の人物だった。
【RE:《急募》10戦以下で伝説称号のスーパー新人アイドルと対戦した動画をワックワック動画にアップしてくれる方。おそらく、ステータス等も遠隔操作ウイルスの類で称号が改ざんされている可能性が高いです】
【その後、大量に動画が貼られた結果、遠隔操作ウイルスによる異常なステータス強化があった事が発覚して、即座に永久追放か―】
【公式でも検証結果で、違法プログラムによる強化が証明されたからな―】
【相手プレイヤーは防御力:0にされていたも同然だった。しかも、ARメットには偽のデータが表示されて、あたかも正常に動いているように見せている】
【これだけ手を込んだウイルスがARデュエルに使われれば、どういった末路になるか…その身をもって知った事だろう】
【ARスーツと言えど、軍事利用される可能性も否定できない。それはARデュエルも同じ。こうした転用を防ぐ為に一連のルールが存在する】
【そのルールが破られる時、それはARデュエルが超有名アイドルと同じように破滅の一途をたどるという事だ】
【最終的に超有名アイドルが黒歴史化したのは、違法な資金集めやマインドコントロールに近い宣伝方法にも問題があったが、他にも問題と言うのは多数ある】
【それは、芸能事務所側が利益を優先させて暴走した結果、ルールの穴を突くような行為を何度も繰り返した事だろう】
【その行為が繰り返される事によって、不正商法禁止条例や超有名アイドル商法規制法案が国会に提出され、可決されようとしている】
【別の芸能事務所が今までやってきた問題のなかった事も、今回の法案では禁止される事が確実視されている。つまり、アイドルが超有名アイドルのせいで色眼鏡で見られるようになったと言う事だ】
【一部の人間が行ってきた事により、他の人間にも影響が出るのはアイドル商法に限った事ではないが…】
ネット上では、超有名アイドルが行ってきた事が規制法案の可決と言う結果を生み、これによって3次元のアイドルは衰退してしまうのでは…という懸念があった。
同日午後7時、CDチャートを掲載している会社のホームページも更新されたのだが…。
【そして、CDチャートでも超有名アイドルが早速黒歴史になっている。今週分は出ていないが、先週分のチャートも別物に変わっているような顔ぶれだ】
【『グループ50というアイドルは最初からいなかった』と言う気配だな。どちらが架空のアイドルで、どちらが現実のアイドルなのか分からなくなるな…】
【確かに一理あるな。チャートの中にはゲーム作品に登場するアイドルグループも入っている】
【普通であればチャート対象外になる場合は注意文が出ているはずだが、それも存在しない。どういう事だ?】
【注意文で混乱を招かないように…という配慮なのか、それとも最初から扱っていなかったという扱いにするのか―】
【まるで、マインドコントロールが解けた時のような現象だな】
【しかし、超有名アイドルが規制されたとしても別ジャンルが同じような商法で市場制圧をしかけないとは限らない】
【その為の不正商法禁止条例や超有名アイドル商法規制法案だろう。過剰に法案へ頼れば、それだけ反動があるのは間違いないが―】
ネット住民の反応はバラバラだった。今回の一件を『超有名アイドルの独裁時代からの解放』と言う意見もあれば、『別ジャンルによる独占時代が来る前触れ』との意見もあり個人で思っている事が違うと言う流れになっている。
その一方で、西雲はとある記述を発見する。モノリスプレートに関する検証記事のようだが…。
「もしかして、この内容は―」
モノリスプレートとアカシックレコードの一部で類似する記述は存在したが、ほとんどは超有名アイドルが有利になるように都合よく書きかえられた物だったのである。つまり、あのモノリスプレートの正体は…。
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そして、一連の騒動から数日後、超有名アイドルに対する風当たりが強い中、旧劇場前ではモノリスプレートの撤去作業が始まろうとしていた。西暦2014年4月11日午前9時の事である。
「まだだ…法案が提出されていない今ならば、まだ超有名アイドルを永遠の存在にする事が出来る!」
姿を見せたのは、ナイトメアである。それを見た周囲も驚きを感じている。確か、伊藤は―。
《しぶとさだけは一人前だな。しかし、貴様の唯我独尊によって超有名アイドルは絶対悪という存在に変わった事を、まだ理解していないようだな―》
「黙れ! お前に超有名アイドルが永遠でなければいけない理由が分かってたまるか!」
《分かっているさー》
ナイトメアの前に現れたのは、黒いスカイフリーダムだった。しかし、《分かっているさ》の言葉の後には別の姿に変化していたのである。外見はARデュエルのストーリーモードに登場したラスボス、インフィニティシャドウに酷似している。
「あれはインフィニティシャドウ? どういう事なんだ―。まだ、プレイ可能時間までには1時間ある―」
現場に居合わせた竜宮は、本来であればストーリーモードでしか出現しないインフィニティシャドウに驚きを隠せないでいた。
《貴様のような強欲な存在が、様々な新しい法律を作り、都合よく超有名アイドルが利益を得られるような仕組みを作った。そして、その結果が今回のARデュエルで起こった一連の事件につながった》
「それはお前達が勝手に考えているだけに過ぎない戯言だ。本来、あの法律は―」
《そして、超有名アイドル以外のコンテンツを強制排除し続けた結果、あの事件が起こるべくして起こった。ハンターズプロのCDチャート水増し事件だ》
《それだけではない。ハンターズプロ以外にも超有名である事を見せかけるために、ライブチケットを意図的にファンクラブ会員に転売させ、その利益を芸能事務所が受け取った―》
《数多くの事件が超有名アイドル絡みとはいえ、大幅な規制法案を作り出した影響で一部の芸能事務所が大幅な利益をアップ出来るように改ざんされた物だ》
「それは誤解だ! 超有名アイドルだけがもうかるシステムなどあるはずがない。他の会社も実際に利益を上げているのがその証拠だ」
《超有名アイドルが手にした賢者の石。それは、全ての分野で超有名アイドルが独占する為の物。それによって、思わぬ被害を受け、事業を撤退した会社もある》
《最終的には撤退した事業を吸収し続け、日本は超有名アイドルであるグループ50が経営する企業体に変化する。それが、超有名アイドルの最終目的―》
《それを阻止する為にも、超有名アイドルは全て抹殺する!》
インフィニティシャドウが放った光はナイトメアを飲み込み、ナイトメアは消滅をした。どうやら、あのナイトメアはCGで作られた存在だったらしい。
それを見極めた後、警察は劇場の家宅捜索を始め、数々の証拠を抑える事に成功した。これによって、一連の超有名アイドル絡みの事件は幕を下ろす事になる。
同日午前10時、その場に到着したのはスカイフリーダムと瀬川碧だった。既にモノリスプレートは撤去されており、警察の家宅捜索も終わっていた。後は劇場の改装工事…と言った気配だろうか。
「あれは、インフィニティシャドウ?」
二人はインフィニティシャドウが劇場の前にいると言う展開に驚きを隠せなかった。
《既にアイドルを悪用し金にしか興味のない諸悪の根源は消し去った。後は、ARデュエルを正常化する為にも―》
インフィニティシャドウの姿が変化し、声も途中からは男性の声から聞き覚えのある声へと変化していく。
「超有名アイドルの話題を引っ張り続けている君達2人には退場してもらおうか。これ以上、アカシックレコードの過剰干渉を防ぐ為にも」
スカイフリーダムと瀬川の目の前には、西雲の姿があったのである。しかも、彼が装着しているのは黒のスカイフリーダムに酷似したARスーツである。
「今ならば、分かる気配がする。ARデュエルはARデュエルのみで独立した世界と言う事が」
西雲の隣にいたのは、何と闇月弥生だったのである。
「これはブレイブランカーとしての警告ではない。アカシックレコードを扱う者、西雲和人としての警告だ!」
西雲はスカイフリーダムが使用する物と同じビームサーベルを構える。
「戦いは避けられないのね―」
スカイフリーダムはつぶやく。そして、西雲は…。
「既に現実世界にもアカシックレコードの存在が知られてしまった以上、世界線が書きかえられる可能性が高くなっている。それを止める為にも必要な事―」
そして、ここに想像以上の戦いが始まろうとしていたのである。