リベリオン-Rebellion-
※ピクシブ版での冒頭あらすじを小説家になろう版では一部カットしています。
ARデュエルで起こった一連の事件は、大手芸能事務所であるハンターズプロの仕業と言う事でTVのニュースで一斉に報道される結果となった。
しかし、このニュース自体が伊藤の進めている計画の一つである事は、まだ知られていない。
果たして、伊藤の真の狙いとは…?
『ARファイターの称号を持つ者たちよ、今こそ我々の世界の秩序を守る時である!』
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西暦2014年4月5日午前12時、テレビ局はUHFの独立局も同じニュースが流れていた。例外は、旅番組を放送している1局だけである。
『ARデュエルで起こった一連の事件に関して、警察は先程、大手芸能事務所ハンターズプロのビルを家宅捜索を始めました』
『過去にハンターズプロは、CDチャートの不正水増し事件で―』
テレビでニュースをチェックしているのは、伊藤零である。これも『計画通り』と言う気配だろうか?
「ハンターズの息の根を止めれば、後は他の超有名アイドルを邪魔するような組織は存在しない。残存勢力を結集させた所で、我々に勝てる要素は皆無」
そして、パソコンで次の一手を考えつつ、何かのメールを作成していた。
「後は日本政府に超有名アイドルブランド以外を偽ブランド認定する法案を出せば、全ての計画は完了する。日本は超有名アイドルが支配する大劇場となる」
最終的には超有名アイドル以外の存在を許さない法案にする予定だったが、それでは面白くない…と伊藤は別の手段を用意していた。
「いよいよ、フィナーレと行こうか」
伊藤はARウェポンであるロングソードを握り、ARスーツである漆黒の甲冑を装備して、何処かへと向かっていた。
【結局、ハンターズプロは同じ末路をたどったのか】
【別の世界線では事務所は解体―これは一種の偶然じゃないのか?】
【過去にハンターズプロは複数の事件が起こって解体の危機だったのを立て直した。別の世界線で事務所が解体しただけで、この結末に結び付くと考えるのは早計だ】
【アカシックレコードは100%当たる予言等と全く異なる物。あの記述を鵜呑みにすれば、超有名アイドルと同じ事が起こるのは明白】
【まさか、超有名アイドル側はアカシックレコードの解析が終わっているのか?】
ネット上では、ある人物の発言によって超有名アイドル側もアカシックレコードを握っているのでは…という流れとなっていた。
【もしかすると、モノリスプレートの正体は…】
そして、ある1人の発言が思わぬ所に想定外の障害を生み出すきっかけになる。
同日午後1時40分、西雲和人は北千住のへと戻っていた。
「これは…あの時の本か。もう少し遅れると思ったが、到着が早かったな」
家の郵便ポストに何かが入っていた。中に入っていたのは、少し前に通販で注文した本だった。入金は既にネットで済ませている為、発送待ちと言う状態だったのだが…。そして、届いていた商品の梱包を解くと、そこから現れた本のタイトルは…。
《AR技術の最先端―超有名アイドルもデジタルで作り出せる時代―》
この本の内容は、現在の日本で最先端とされているAR技術を用いる事で簡単にアイドルを作り出す事も可能である…という本である。他にも色々な最先端技術も一緒に紹介されている。
「さすがに、一般で売られているような本にアカシックレコードの技術が載っている事は―」
西雲がページをペラペラとめくっていると、そこには何か見覚えのあるような名称が出て来たのである。
「キサラギ重工…?」
そう言えば、他の世界線でもキサラギという名前がいくつか目撃されている。人物の名前にキサラギが使われているケースもあるが、半数以上は企業名である。
「もしかして、キサラギ重工の正体は―」
そして、西雲は自転車で例のゲームセンターへと向かった。
同日午後2時、中規模ゲームセンター前…。
「またアンタか…。少し前には違う人間が何度かプロテクト解除に挑んだが、全員失敗に終わっている」
例のパソコンが置かれているテーブルには、先程と同じドラゴンの覆面がいた。彼は、既に西雲がゲーセンに到着する前にも何人かがプロテクトを外そうと考えていた人物がいた事を話す。
「世界有数のハッカーや興味本位でアカシックレコードを確かめようとした人間も挑戦したが、パスワードは全部ハズレだった。強引にプロテクトを外そうとすればパソコンが爆発したりはしないが、プログラムは無事では済まないだろう」
彼の警告もあったが、西雲は解除する為のパスワードに自信があった。そして、例の画面が表示される。
《このアカシックレコードを持ちだす事が意味する物、それは超有名アイドルが現実世界で絶対的支配者、あるいは唯一神に該当する世界となった事を意味する。それを阻止する為の手段を、ここに残す》
《パスワード:キサラギ》
西雲がパスワードを入力したと同時に、画面は別の物へと変化した。それはまるで、そのパソコンが本来の機能を取り戻したような…。
《ここに、キサラギが記した全く別の可能性を持ったアカシックレコードを解放する。今こそ、超有名アイドルの市場独占を阻止する為に立ち上がる時だ》
メッセージが現れた後、西雲のARブレスに何者かのアクセスがあり、そこにアカシックレコードのデータが次々と送られてくる。どうやら、彼にならばアカシックレコードを引き継げると判断したのだろう。
同日午後7時、奇妙な場所でARデュエルが行われている動画が話題になっていた。その場所は、東京ではなく…。
【自分の地元じゃないか?】
【何がどうなっているんだ…】
【確かに、この場所は非公式エリアではなく公式HPにも掲載されている場所だが…】
【今まで過疎化していたのか、それとも別の理由か?】
【多分、最近になって置かれたばかりの可能性が大きいな】
動画の説明文を見ると、埼玉県草加市とある。しかし、ARデュエルが行われている場所に問題があった。その為に『奇妙な』場所で行われている…と言う事なのである。
動画の日付は、西暦2014年3月30日に投稿された物と記されている。動画タイトルも『ナイトメアVSジークフリート』とある。
【ジークフリートの動画としては珍しく埋もれていたな】
【彼の動画ならば10万再生は早い内に達成できるだろう。何故、この動画だけ10万再生達成が遅かったのか?】
ジークフリートは、元格闘家と言う事や過去の戦歴等からもARデュエルの中ではランカーの次に人気のあるプレイヤーと言われており、彼の試合は10万再生が早い等と言う都市伝説が出来る程。しかし、そのジークフリートがバトルをしているのに関わらず、この動画は10万再生に到達するのが非常に遅かった。
【3日も経過しない内に10万再生突破はザラなのに、この動画が10万再生に到達したのは今日だ―】
【ナイトメア、一体何者なのか…?】
そして、筐体の置かれている場所は草加『駅』前。本来、電車の駅や空港、高速道路等の場所にARデュエルの設置は不可能となっている。しかし、場所を電車が通る線路や駅構内とは別の場所に置く事で何とか解決をしている。
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《ラウンド1 ゲットセット!》
最初に攻撃を仕掛けたのはナイトメアだった。彼は自分の身長よりも大きいグレートソードをジークフリートに振り下ろす。しかし、ジークフリートは上手くガードし、その直後のカウンターであるキックでファーストヒットを決める。
ジークフリートのキックが決まった後は、ナイトメアがふらつくと言う状態に。キックを1回受けただけで格闘ゲームでもおなじみの『ピヨる』と言う事はあり得るのだろうか?
『ピヨる』状態から復帰した後は、ナイトメアが逆にグレートソードで乱撃を決めると言う展開になり、まさかのジークフリートが1本を取られる結果になった。
《ラウンド2 ゲットセット!》
次のラウンドではジークフリートがパンチの連打でファーストヒットを奪う。ライフ的にはジークフリートの方が有利なのは変わらない。
しかし、ナイトメアのライフが一定以下になった時に再びグレートソード乱撃に出る。もしかすると、発狂状態なのかもしれないが…。
そして、映像が10秒程ノイズが入った後、いつの間にかジークフリートは倒れていた。
《ウイナー ナイトメア》
ラウンド1でもグレートソード乱撃のシーンでノイズが入った為、視聴者は『機械の故障か?』と疑っていた。あるいは『意図した妨害』という説もあった。
―以上は、まとめサイトによる試合内容の簡略説明になる。試合時間は1分30秒と書かれているが、ノイズの入った部分を含めて真相は不明のままだ。
【やっぱり、あのノイズがカイザーの1件と似ていると言う事か】
【丸の内の筐体も、草加駅に試験的に置かれた筐体もデザイン等は似ている。やはり、筐体に仕掛けがあったと言う事か】
【だが、ナイトメアのARスーツはカイザーの物とは簡単に比較出来るような物ではない。カイザーは素手だったが、ナイトメアは武器持ちだ】
【ARウェポンの事だな。あのシステム自体、ARデュエルと同調させるのに時間がかかったと言うが…まさか、欠陥品だったのか?】
【カイザーの動画では、特にノイズが入ったようなシーンはなかった。ナイトメア戦に限って言えば、他の対戦相手と戦った時も同じノイズがあったらしい。10秒という長いタイミングではなく、5秒位だったが】
この動画が注目を浴びた理由は、カイザーと弥生の試合でカイザーが圧勝した事が一種の無効試合に該当するのでは…という流れから同じような不審な試合の動画を手当たり次第探した所で発見したのが、このナイトメア戦だったのである。
4月6日午前10時、この日は晴天に恵まれ、既に200試合近くのARデュエルが行われている。日曜日と言うのも理由の一つだろうが…。
「さて、私の相手は誰でしょうか?」
マジシャンを思わせるようなARスーツを着ている男性、彼の名前はシャドウフレア。過去に有名格闘技団体にも所属していたが、格闘技ブームが去ってからは超有名アイドルのスポンサーになることを条件に、他の格闘技団体の試合にも出ていた。
「10連勝でいい気になると後悔するぜ!」
シャドウフレアに挑むのは、現役キックボクサーである。
その一方で、丸の内に出来たばかりのARデュエルフィールドでは、予想外の対決が終わった所だった。
「そんな、バカな事って―」
倒れていたのは闇月弥生だった。カイザー戦で圧倒された後はスランプ状態に近かったが、徐々に持ち直しの傾向があった。そんな中で起こった圧倒的な敗北である。
「超有名アイドルは1組だけでいい。そして、彼女達が国会へ進出する事で日本は超有名アイドルによる独裁国家へと生まれ変わる」
弥生が乱入される形で戦っていたのは、黒のスカイフリーダムである。ARと実際ではスーツのデザインが異なるが、AR上のスーツデザインはまぎれもなくスカイフリーダムである。
「国会…?」
弥生は黒のスカイフリーダムの発言を聞き、衝撃を受けた。目の前の人物は、確かに超有名アイドルが『国会へ進出』と断言したのである。
「国会だと―」
「まさか、独裁国家を作る事が超有名アイドルの最終目標だったなんて―」
「これ以上の自由を奪うような超有名アイドルの悪行を許すな!」
「超有名アイドルは、全ての世界を思うがままに操ろうとする諸悪の根源だ!」
周囲からは、超有名アイドルが国会へ進出する事に対して、予想以上の反応が起こった。
更に同時刻、草加駅にあるARデュエルフィールドでは…。
「信じられん…俺が負けるなんて」
倒れていたのは覆面レスラーのトラップだった。身長は相手よりも若干高い程度。実力も、ほぼ互角…と思われていた。そんな中での、予想外とも言える敗戦である。
「超有名アイドルが行おうとしている事、それは全世界の意思をマインドコントロールを使ってでも超有名アイドルファンにする事に他ならない。今こそ、超有名アイドルが放つ悪意を全ての世界から排除すべき―」
トラップが連勝記録を止められるきっかけとなった人物、それは青のスカイフリーダムだった。何故、スカイフリーダムが草加市に現れたのかは不明である。
「マインドコントロールだと! そんな技術が日本にあるはずがない!」
「超有名アイドルの評判を落とす為の茶番だ。デマもいい加減にしろ!」
「超有名アイドルこそ、日本経済に必要不可欠な存在。他のアイドルを支援する存在は帰れ!」
「超有名アイドルの国会進出で超有名アイドル以外を排除する法案を絶対可決させるべきだ!」
周囲からは、超有名アイドルが日本には必要不可欠である事、それ以外の存在は法律で禁止されるべきである事…ある意味で想定外の事が起こった。
そして、この状況を見かねた『ある人物』が予想外の介入をする。
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《この世界が、仮にオンラインゲームだったとしよう。そして、以下のような例えをした場合、君達はどのような判断をするか…》
【超有名アイドルファン=重課金ユーザー】
【超有名アイドルファン以外=微課金ユーザー】
【アイドルに興味がない市民=無課金ユーザー】
ARブレスを通じて現れた、謎のメッセージ。それは、丸の内と草加駅のフィールドのみに発信されていた物だった。そして、このメッセージは音声ありで配信されている。どういう事なのだろうか?
《どの世界でも力のある物が正義、力のない物は悪と言う判断が下されるのは、どのゲームやアニメでも言われ続けている。そして、最終的に下される結果はどこも同じだ。今回の事例が勧善懲悪に当てはまるのか…と言われると難しい物があるかもしれない》
《しかし、君達は分かっているはずだ。アカシックレコードに記された事が全て事実とは限らない。そして、モノリスプレートのメッセージを鵜呑みにしてはいけない事に》
《人間にも十人十色、千差万別…。同じ考えを持った人間が1億人も10億人もいるはずはない。そして、それら全てを1つにまとめ上げるのは現実的にも理論的にも不可能だ。そんな状況を見かねた、ある1人の人間は禁断の秘術を持って意思を1つに束ねようとした》
《ここまで言えば、僕が何を言いたいのかは分かるね。君達が倒すべき敵は、超有名アイドル劇場のオーナーである伊藤零だ。彼を放置すれば、国会は超有名アイドルの意のままになってしまう。それこそ、君達が超有名アイドル以外の事を考えただけで逮捕される世界になる》
《今の日本は、超有名アイドル依存症と言っても過言ではない。これが同じ世界線で何度も繰り返され、新たなるアイドルやヒーローによって超有名アイドルは解散、あるいは消滅をしていく》
《超有名アイドルのやり方は間違っている。それにも気付かないで、ベタな展開を何度も繰り返し、最終的にはファンによって地球の創造主として間違った知識を植えつけられる…》
《君達に残された選択肢は二つ…。ひとつは僕の言う事を信じ、伊藤零を倒す。もう一つは、超有名アイドルの命令は絶対と言う日本が生み出されるのを放置する。タイムリミットは、ない物と思っていい》
そして、メッセージは終わった。
その一方、秋葉原のゲームセンター。そこでは、1人の人物がARブレスを操作しているようにも見える。
「これが、キサラギが生み出したアカシックレコードの技術―」
メッセージの送り主である西雲和人は、2つのアカシックレコードを解析して作りだしたトークロイドという意思を持ったAIシステムを利用し、特定エリアにメッセージを送った。メッセージのテンプレートはアカシックレコードに記載されていたメッセージログを元にしている。
「もう見つかったのか?」
西雲は周囲のカメラを見て、行動が読まれていたと感じていた。そして、駆け足で後にすると怪しまれる為に他の客にまぎれてゲーセンを後にする。
同日、午前10時30分、草加市内のARデュエルフィールド。30分前の出来事も記憶に新しいが、そことは若干の距離がある。どうやら、新規で設置された物らしい。
「超有名アイドルこそ、この世界を創造した神だ。超有名アイドルを追放すれば、この世界は消滅するも同然!」
漆黒の鎧に巨大剣と言う外見をした人物、ナイトメアが前代未聞とも言える10人連続パーフェクト勝利を飾っていた所だった。
「何処のリアルチートだ。能力がでたらめ過ぎる―」
敗北した他のプレイヤーがナイトメアに向かって叫ぼうとするが、力尽きて途中で倒れた。
「リアルチートだと? 愚かな…。これが実力だ! これが、ARデュエルに悪夢を見せる為に現れたナイトメアの実力―」
「これを実力と言うのであれば、それはお門違いと言う物だ!」
ナイトメアの発言に割り込む形で現れたのは、ダークヒーローと言う外見のARスーツを着たジークフリートだった。そして、ジークフリートの登場に歓声が湧く。
「上位ランカーが一切姿を見せないのが残念だが、総合格闘技でも連覇経験のある貴様を倒せば、このパワーが実力だと言う事を周囲に思い知らせるにはいいだろう」
「貴様のような宣伝目的のようなプレイヤーを、上位ランカーが本気で相手にすると思っているのか? それこそ、ARデュエルの存在意義を間違っている愚かな人間と言う事だ」
そして、2人の激突が始まったのである。
同刻、再び丸の内のARデュエルフィールド。30分前の出来事が幻だったのでは…と言う位に観客の入れ替わりが激しくなっている。
《ウィナー オーディーン》
上位ランカー3位の実力者、オーディーン。彼のARスーツは北欧神話に出てくるようなデザインとロボットアニメで見られるようなデザインが両立した物となっている。その一方で、元のARスーツはインナータイプとなっている。
「何故だ、俺のパワーは10倍以上にも上がっていると言うのに―」
オーディーンが相手をしていたのは、何とカイザーだったのである。
事の起こりは15分前にさかのぼる。オーディーンは例のメッセージが配信された現場に居合わせていた。そして、その場所でカイザーに目を付けられた。
「お前もARデュエルのプレイヤーだな。この俺と勝負をしろ!」
そのカイザーの一言を聞いて、オーディーンは嫌な予感を感じていた。そして、試合を断ろうとしていた。その時である。
《ウィナー シャドウフレア》
目の前で行われていた試合は、上位ランカー5位のプレイヤーをシャドウフレアがあっさりと撃破していたのである。しかも、最終ラウンドであるラウンド3ではパーフェクトで勝利を収めている。
「お前が、彼と戦うのか?」
オーディーンはシャドウフレアを指さして言った。すると、カイザーは「俺が戦いたいのは、お前だ!」と回答する。
「後悔するぞ?」
そして、オーディーンはデュエルフィールドへ向かった。シャドウフレアと対戦する為に―。
《ウィナー オーディーン》
何と、オーディーンはカイザーの目の前でシャドウフレアを1ラウンドも落とさずに圧勝して見せたのである。シャドウフレアはなすすべもなく倒され、すぐにフィールドを後にする。
「あのシャドウフレアをストレートだと?」
カイザーは震えていた。しかし、丸の内には例のシステムがある。簡単に負けるはずなどない…と。
「悪いが、先に戦わせてもらうぜ。奴とは、ちょっとした因縁持ちだからな」
カイザーがエントリーする前、別のARスーツを着た男性プレイヤーが乱入した。彼の名前をカイザーは聞き忘れていたが、カイザーはエントリーリストを見て衝撃を受ける事になる。
そして、時間は午前10時30分に戻る。
「何故だ、俺のパワーは10倍以上にも上がっていると言うのに―」
確かにカイザーのパワーは、AR画面を見る限りではオーディーン以上の数値をはじき出していた。それは周囲の観客も証明している。しかし、オーディーンにはそれ以上の物があったのかと言うと…そうではなかった。
「パワーが10倍になっていようが、そんな物は関係ない。ARデュエルは高性能なスーツと能力だけで簡単に勝てる程、甘い物ではないからだ」
オーディーンの一言を聞き、カイザーは会場を後にする。そして…。
「やっぱり、あんたには勝てないな。自分がランカー1位とはいえ、ちょっとした油断ですぐに勝利は確定ではなくなってしまう―」
オーディーンのそばに現れた男性、彼はARデュエルでもトップランカーとして君臨するエイジという名前のプレイヤーだった。
「あのカイザーといい、先程のシャドウフレアといい、ARデュエルは何時から超有名アイドルがスポンサーについた広告塔になり下がったのか―」
オーディーンは何かに気付いていた。そして、その真相を暴くのは別の人物が役目を果たしてくれる…と。
同日、午前11時、草加市内のARデュエルフィールド。
「何て能力なんだ―」
他のプレイヤーがその後も挑んだが、未だにナイトメアに傷一つ付けるプレイヤーは現れない。
「上位ランカーは姿を見せないのか。まあ、いい―」
そんな状況で、1名のプレイヤーがナイトメアの前に姿を現した。その人物は、何とスカイフリーダムだったのである。
「奴は文字通りの化け物だ。勝てるという保証は…」
まさかのストレート負けと言う結果となったジークフリートがスカイフリーダムを止めようとするが、聞く耳持たずと言う状態だった。
「ナイトメア、あなたはこのバトルを始める前に敗北する―」
そして、スカイフリーダムは断言した。バトルが始まる前にナイトメアが負ける…と。一体、どういう事なのか?
「バトル前に負けるだと…何を根拠に、そんな戯言を言って―」
《システムエラー プレイデータを調査した結果、ナイトメア側に不正があったと判断―》
予想外の事態だった。どうやら、ジークフリート戦及び別プレイヤー戦で見せたあり得ない挙動が不正を判断させる原因になったのだろう。
「そんなバカな事が…。しかし、超有名アイドルの無尽蔵と言える財源を使えば、この試合を―」
「引っかかった―!」
ナイトメアの発言を聞いたスカイフリーダムは、勝利を確信したかのような目つきでナイトメアを睨みつける。しかし、バイザー越しの為かどんな目をしているかの確認はできない。
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同日午前12時、東京駅近くのラーメン店には弥生の姿があった。日曜と言う事もあって、店内は満員御礼と言った気配である。行列も10メートル位は出来ている。
「やっぱり、自分にはARデュエルは向いていなかったのかな…」
カレーチャーハンを食べながら、弥生はARデュエルを辞めようかとも思っていた。そして…。
『次のニュースです。人気アイドルグループ《HOPE》の海外公演が中止になったと先程発表になりました。この公演は海外ファンによる要望等で実現した物ですが、これに超有名アイドルグループがゲストに呼ばれると言う事が判明し―』
ラーメン店のテレビで流れたニュースは、HOPEの海外公演が中止になったという話だった。
「HOPEと言えば、紅白でも6回は出場していたベテランアイドルグループ。海外公演は海外のファンにとっても待望だったのに、どういう事だ?」
冷やしつけ麺をすすりながらニュースを見ていた竜宮クレナは、ニュースの内容に残念そうな表情を浮かべる。偶然にも、彼は弥生の隣にいた。
「超有名アイドルって、年にどれ位の利益を―」
弥生は竜宮に質問をする。HOPEの海外公演に割り込めるだけの財力があるのだろうか、と。
「この世界では6カ月で約1000京円、1年で2000京円弱は稼ぎ出す。国家予算クラスのお金ならば、簡単に海外へ援助出来る位の規模はある。おそらく、HOPEの海外公演が中止になった理由は買収による圧力だろう」
竜宮の話を聞いて弥生は頭を痛めた。それ位の大金を持っている芸能事務所が、どうして自分達の為だけにお金を集め続けているのか…と。
「もしかすると、その大金を得た手段は非合法手段なのかもしれない。過去に楽曲ダウンロードが1兆回を記録したアイドルの楽曲があるだろう。それは、無数のサクラがバイト代の為にやったと言う事が週刊誌で報道されていた。しかし、それも超有名アイドルの芸能事務所が金でもみ消した―」
今の話を聞いていたと思われるサラリーマンが話に加わった。どうやら、この人物は芸能事務所のプロデューサーをしている人物らしい。
「この話は、どうやら叩けば大量の埃が出てくるような気配がする。しかし、この話が今まで外部に漏れなかったのは何故?」
竜宮の話も一理あるのは確からしく、プロデューサーはこう続けた。
「超有名アイドルファンの中には【殺傷能力を持たない武器】で武装化されている勢力も存在する。彼らの仕事は、主に超有名アイドルが今まで起こしてきた悪事を口封じする為に動いている。万が一、週刊誌等に情報が流れた場合は、彼らが武力でもって出版社を制圧するらしい」
この話を聞いた弥生は、あまりの非道とも言える行動に対し、超有名アイドルは殲滅するべきという思いが現れた。しかし、プロデューサーは話を続けた。
「しかし、これらの話は全て報道される事は一切ない。表向きには、華々しい彼女達の活動や地域貢献等の話題しか報道されない。表があれば、必ず裏は存在する。正義に対して悪が存在するように―」
『臨時ニュースをお伝えします。先程、劇場オーナーでもある伊藤零容疑者が逮捕された模様です。罪状は不明ですが、おそらくは超有名アイドル絡みで何か動きがあった物と思われます』
そこに流れてきたニュースは、何と伊藤零の逮捕という衝撃以上のニュースだった。
同日午前11時10分、草加市内のARデュエルフィールドには予想外の人物が姿を見せた。
「ホールドアップだ!」
ARウェポンのハンドガンを手にして銃口をナイトメアに向けているのは、何と西雲だったのである。
「伊藤零、脱税と不正商法禁止条例違反で逮捕する」
そして、西雲の後に登場したのは複数の警察官だった。ナイトメアは警官に向けて大剣を振り回すのだが、剣は警官をすり抜けた。
「不正商法禁止条例違反だと…。そんな法律は聞いた事無い。警官なのに嘘の罪状で逮捕しようと言うのか?」
確かにナイトメアの言う事も一理ある。西雲も不正商法禁止条例に関しては初耳だからだ。しかし、この条例を初耳ではない人物が、この場には警察官以外で1人いた。
「残念だが、警察官の言っている事は本当だ。昨日の新聞を見ていなかったのか? あるいはテレビ欄しか見ていなかったとか―」
この条例の事を警察官以外で知っていたのは、何とジークフリートだったのである。
「どういう事なの?」
新聞は取っているが、朝刊には該当するような記事はなかった。スカイフリーダムも条例に関しては全く気付いていない。
「こういう事だ―」
ジークフリートは、筐体近くのミニコンテナに入っている手荷物から新聞を取り出した。新聞と言っても全国紙ではなく、スポーツ紙である。
《不正商法禁止条例案、関東地方限定で段階的に実施》
記事が載っていたのは一面ではなく、三面と言う位置にあった。しかも、分かりづらい場所にひっそりと書かれていた。これは、編集者が意図的に分かりづらい場所にしたのかもしれない。
「これと、今回の逮捕に何の関連性がある! 証拠を見せてみろ!」
ナイトメアも反論する。確かに彼が伊藤であると言う証拠は何処にもない。
「では、これならば…」
もう一つは、週刊誌等ではなく1枚のDVDだった。これを再生出来るような環境はこの場所にはない為、警官がDVDを受け取り別の場所へと向かう。
「あのDVDの中身は一体―」
スカイフリーダムはジークフリートに中身を聞こうとするが、「あの中身は知っているはずだ」と言うような表情をしていて話す気配はない。
5分後、別の警官が戻ってきた。どうやら、あの中身をチェックした警官らしい。そして、複数の警察官と何かの相談をしている。
「やはり、ハッタリか! 超有名アイドルの存在を黒歴史にしようとしても無駄だ。既に国会の政治家は全て買収済。超有名アイドルを殲滅させようとする存在があれば、国家権力の力で全て社会的に追放してくれる!」
ナイトメアの発言を聞いて、急に西雲が笑い始めた。一体、これが意味する物とは…?
「こちらとしては、その発言が聞けただけでも充分の価値はある。そして、超有名アイドルが今まで行ってきた悪行も―」
西雲の発言を聞いて、ナイトメアは若干の混乱をしていた。西雲の狙いは何なのか…と。
「だが、このままでは済まさないぞ! 超有名アイドルの名の元に天罰を与えてやる!」
その時である。急にナイトメアのARスーツが異常な反応を示したのである。
「どういう事だ―」
驚いていたのはジークフリートである。彼には、この反応には若干の覚えがあった。
『超有名アイドルは全世界で唯一神の存在であり、ナンバー1の存在なのだ! 彼女達がいれば、日本は無尽蔵と言う大金を得る事が出来る―』
突如としてARスーツが暴走を起こし、ジークフリートに襲い掛かって来た。このままではジークフリートが…。
「チェックメイトだ!」
一発のビーム音、そして、その直後にはナイトメアは倒れ、彼のARスーツも粉々に砕け散ったのである。ナイトメアの正体、それは…。
「今ならば逮捕が出来る。協力、感謝する」
彼の正体は何と、逮捕状が出されていた伊藤零だったのである。伊藤の方は気絶をしているだけであり、命に別条はないらしい。そして、警察官によって逮捕され、パトカーで警察署まで連行される事になった。
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同日午前12時、場所は再び、東京のラーメン屋に戻る。
『伊藤容疑者逮捕の続報です。彼を狙撃した人物の似顔絵が公開されました。警察では、彼が放った銃で伊藤容疑者の逮捕の決め手になったと言う事で逮捕は行わない方針ですが―』
先程の続報が流れ、テレビにはドラゴンの覆面とよく似た人物の似顔絵が公開されていた。
「あのマスクは特注のはず。同じ物が2つあるとは考えられない!」
このニュースに驚いたのは竜宮だった。
同日午前12時10分、草加市内のARデュエルフィールド。警察が出動した時は一時的にパニック状態になっていた周囲も、今は普段通りの状態になっている。
「お前はドラゴンの覆面か―」
ジークフリートが彼の姿を見て驚く。背広にドラゴンをベースとした覆面、それに鞄…。外見は、間違いなくドラゴンの覆面その物である。
「確かに。ドラゴンの覆面と言われればその通りだが―」
そして、彼我覆面を外す。すると、そこから現れた顔はジークフリート想定していた人物とは全く違う人物だったのである。
「君は一体何者なんだ?」
ジークフリートも、目の前にいる人物には見覚えがなかった。そして、周囲の何人かが彼の登場に湧きあがった。
「僕の名前は如月キリト。ARデュエルの上位ランカー、ブレイブランカーの1人―」
ドラゴンの覆面の正体は如月キリトだった。彼は、ARデュエルでも最上ランクとも言えるランキング上位10人から構成されるブレイブランカーの1人でもあった。キリトは、その中でも7位と言う位置にいる。
「あれが、ブレイブランカー」
スカイフリーダムは武者震いをしつつ、フィールドを後にした。ジークフリートでも苦戦をしたナイトメアを瞬殺した光景は、彼女の目に焼き付いていたのだが―。
同日午後3時、草加市内の警察では伊藤の取り調べが行われていたのだが…。
「超有名アイドルこそ日本を救うコンテンツであるのは明白。それを『売れすぎている』からで一方的に規制を導入するのはおかしい!」
伊藤に関しては、コレの一点張りで事件の真相を話そうと言う気配は全くなかった。しばらくして、100兆円という保釈金で釈放される事になり、ニュースでもその額を巡って話題となった。
同日午後6時、草加市内にある別のARデュエルフィールドでは予想外とも言える展開が起こっていた。
「マジかよ―」
「遂にブレイブランカーの入れ替えが起こったのか?」
「まさか、あいつが転落するとは別の意味で驚いた」
「どういう事なの?」
周囲のギャラリーが驚くのも無理はない。倒れているサムライの格好をした人物は、ブレイブランカーの9位に位置していた人物である。それが別のプレイヤーに倒されて10位に転落し、今回…。
《ウィナー スカイフリーダム》
《ランカーランキング10位おめでとうございます》
「遂にたどり着いた、ランカーの称号…」
スカイフリーダムはランカーという位置に到達した事に対し、再び震えていた。この震えは何処から来ているのか、それは分からない。
「そして、この先にある道はARデュエルでも想像を極める困難な道…」
同刻、秋葉原のARデュエルフィールドでは、予想外とも言える事件が起きていた。
《システムエラー プレイデータを調査した結果、ナイトメア側に不正があったと判断―》
オーディーンと戦っていた相手は、超有名アイドルであるグループ50のメンバーの一人だったのである。それをナイトメアのARスーツを着て密かに参戦していたのだが…この行動が裏目に出た。これによって、彼女は不正によってIDを凍結される事になるのだが―。
「超有名アイドルは、無尽蔵の資金を使ってARデュエルを超有名アイドルの宣伝目的に使おうとしていた!」
「超有名アイドルを排除せよ! 今こそ、試験的に行われている不正商法禁止条例案を日本全国へ広めるべきだ!」
「大金持ちだけが優遇されるような世界を許すな!」
「世界は超有名アイドルの所有物等ではない!」
「超有名アイドルファンをマインドコントロールで増やしている今の現状を許すな!」
「今こそ、超有名アイドル事務所を全て消滅させるんだ!」
周囲の超有名アイドルファンではない人物達が叫ぶ。中には『芸能事務所を潰せ』や『超有名アイドルから賄賂を受け取っている政治家を逮捕せよ』という発言も飛び出している。
「お前達も、所詮はARデュエルを政治の道具にしか見ていない連中と言う事か―」
オーディーンのこの一言で周囲は我に戻った。確かに、オーディーンの言う事にも一理ある。
「よく考えなおす事だ。本来あるべきARデュエルの姿は、政治やアイドルが広告塔として利用するような存在ではないと言う事を。そして、ブレイブランカーの前でARデュエルの自由を奪おうと言う存在は、誰であろうと容赦なく…斬る!」
オーディーンが周囲を睨むその姿は、まるでARデュエルに反社会勢力の介入を許さないという意思が現れているかのように見えた。
「これを警告と受け取るか、脅しと受け取るか人それぞれに任せるが…。炎上ブログの管理人達は、脅しと受け取るだろう。そして、同じく脅しと受け取る勢力はもう一つある―」
この言葉を聞いたギャラリーは、もう一つの勢力が超有名アイドルの芸能事務所と考えているのが大多数だった。しかし、オーディーンの目は別の所を見ていた。それは、ARデュエル撮影用のカメラである。
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同日午後8時、ネット上では早速ブレイブランカーの話題が出ていた。
【速報】ブレイブランカー10人目誕生記念スレ【まさかのサムライ降格】
【超展開】ブレイブランカー専門スレ【買収疑惑払しょく】
これ以外にも多数のスレが立つ程の祭りとなり、掲示板の1スレも1時間もしないうちに消費していき、5スレ目に突入する気配もあった。
「遂にブレイブランカーが動くのか―」
西雲は、ブレイブランカーであるキリトの発言が気になっていた。
『西雲和人と言ったな。西雲と言う名字の意味は分かっているだろう?』
この発言は伊藤が警察に連行された後、キリトが去る前に発言した物である。
「アカシックレコードでも西雲という名字には意味があった。それが意味している物とは一体―」
そして、アカシックレコードサイトへアクセスし、最初に発見した物を見て驚いていた。
「まさか、これは―?」
その一方で、キリトもパソコンでアカシックレコードを調べていた。調べていた記事は超有名アイドル絡みではなく、どれも別の作品に対する業務妨害等の記事である。
「やはり、向こうの世界でも超有名アイドルファンの暴走で他ジャンルを排除して超有名アイドルだけを支持しようと言う動きがあるようだが…」
更にキリトは、今回の記事とは全く違うニュース記事を見ていた。それは別の世界における税金関係のレポートだった。
「これが本当だとすれば、他の世界線も同じような現実が待っていると言う事か」
そして、その記事を読んで行く内に、ある出来事を思い出した。
「そう言えば、伊藤が保釈された事はニュースで報道されていたが―!?」
ニュースサイトの該当記事を見たキリトは、あまりにも衝撃的な内容に声が出なくなった。
「予想通りか。あまりにもおかしな行動を取ると思ったら、こんな所にトリックがあったとは―虎の覆面、ここまでの事をやるのか!?」
アカシックレコードで超有名アイドルによる全世界掌握を企む人物、その名前は全く不明で、虎の覆面とも言われている。彼の行動に関しては多くが謎に包まれており、超有名アイドルが全ての世界を掌握するのは『必然』とまで断言している。
「諸悪の根源である虎の覆面、彼を何とかしない限りは超有名アイドルが唯一神となる流れを止める事は出来ない。それだけじゃない、彼らは無尽蔵とも言える資金力で確実に日本を掌握しつつある。そして、超有名アイドル以外のコンテンツを全廃しようとしている…」
《超有名アイドル、それは賢者の石である。それは、疑うことなく真実として受けられる。それほどに、芸能事務所が行っている事は悪魔の所業なのだ》
これは『超有名アイドル商法と賢者の石』の1文である。この1文は、超有名アイドル商法が絶対神として扱われている現実に対して苦言を呈する本だった。この本が10万冊を売り上げ、今も重版が絶えない現実がある。それが超有名アイドルに依存し続けている市民が何とか超有名アイドルの輪から脱出しようとしている姿も見えてくるのかもしれない。