俺って、シスコンなのか
※本日四話目
理奈と決戦前の別れを経て歩いていると、須藤が塀に寄りかかって待ち伏せしていた。……お前もか。
「……よっ」
「……ああ」
俺から須藤に声をかえ、短く視線を交わす。
「……俺はな、てめえの親に憧れて、正義の味方をやってきた」
唐突に語り始める須藤。
「……自分の命を顧みずに他人を救えるなんて、当時の俺にも今の俺でも理解出来ねえよ。結局自分が一番になっちまう」
「……それだってのにてめえはすぐ一人で戦う方を選んだ」
「……正直言って、羨ましかったんだよ。自分を顧みずに戦うなんて、そんな難しいことをあっさりやろうとしてるてめえが、羨ましかった」
須藤はポツポツと語っていく。今まで隠していた心の内を。
「……誰が他人のために戦うかよ。明日は我が身って言うだろ?」
俺は須藤がらしくないことを言うせいか少し照れ臭くなって、言い返す。
「……そうじゃねえよ。てめえは黙って聞いてろ。てめえと口利いてると余計な悪口が出てくるからな」
須藤が俺を睨んでくる。……それは俺が口を開けばムカつくヤツだって言いたいんだろうか。ちょっとショック。
「……これから言うことは全部、俺が心ん中で思ってることだ。嘘は言わねえ」
須藤はそう前置きして、語り出す。
「……俺はてめえに憧れてる。優しくてしかも人を救うのに躊躇のない両親を持って、あんな気高くて強い弟想いでしかも人を救うのに躊躇のない姉を持って、その誇るべき家族の血を色濃く受け継いで今、一人で戦おうとしてるてめえに、憧れる。最初はとんだ腑抜けだと思ったもんだった。勝手に期待しといて勝手に失望して、言わなくていいことまで言っちまった。だが俺はてめえに憧れてる。尊敬してる人物はと聞かれれば、本心ではてめえと答えられる。自信を持って、な。普通なら背負わなくていいことまで背負ってもらって悪いが、言わせてもらうぜ」
かなり恥ずかしいセリフを吐きながら、須藤は俺を真っ直ぐに見据える。
「……俺が憧れてるてめえを、信じろ」
目つきの悪い瞳を真剣なモノにして、俺に告げてくる須藤。俺は思わずフッと笑みを零してしまう。
「……そっか。ありがとな」
俺は言って、須藤の隣を通り過ぎる。そして、須藤の打ち明けてくれた本心に応えるように、告げる。
「……また会おうぜ、切也」
「……っ」
驚いたような切也の横顔を見ることなく、俺は切也の隣を歩いて通り、そのまま立ち去る。
「……ああ。じゃあな、賢人」
そんな俺に応える声が、背後から聞こえた。
「……賢人!」
切也と別れてからすぐに、立ち塞がる人影があった。姉ちゃんだ。……さすがに姉ちゃんにもバレてるか。
「……よっ、姉ちゃん」
俺は軽く手を上げて言う。
「……私に黙って行くつもりだったとは、酷いぞ」
「……ごめん」
ムスッとしたような悲しそうな姉ちゃんを見て、素直に謝る。
「……全く。それで、ホントに行ってしまうのか? 今ならまだ間に合うぞ? 軍隊で総攻撃を仕掛ける予定も迫っている」
他の人の前では決して見せない、姉としての羽白川佳那の顔。オロオロしたような心配そうな顔をする。
「……いや、俺は戦うよ、姉ちゃん。姉ちゃんを無謀な戦いに行かせたくはないし」
「……賢人」
俺が首を左右に振って告げると、姉ちゃんは瞳を潤ませて感激していた。……そこまでのことを言った訳じゃない。ただ俺にとっては当たり前のことだ。
「……賢人」
「……っ」
姉ちゃんは俺に歩み寄ると、不意に俺を抱き締めた。……顔がその豊満な胸に埋まるように。
「……ちょっ、姉ちゃん!?」
俺は驚いて隙間から何とか口を自由にして呼吸を確保しながら、何事かと思う。……そして、気づいた。姉ちゃんの身体が震えていることに。
「……賢人。私こそ、お前に戦って欲しくはない。父さんと母さんのように死んでしまうのではないかと、凄く不安になる」
「……それは俺も一緒だよ。俺だって姉ちゃんには、警察だってやって欲しくなかった」
誇らしいと同時に、あの悪夢が蘇るから。行って、そして二度と帰らない。そんな悪夢が。
「……賢人。だが私は決めた。賢人が望むなら、私は賢人が戦うことも受け入れる。だって私がそうだからな。二人もそうで、私もその血を受け継ぎ、そして賢人も息子で弟だ。それは戦うことを選ぶと、分かっていた」
姉ちゃんは俺を抱き締める手を緩め、顔を上げさせて微笑む。
「……姉ちゃん」
「……だがその代わりに、私の胸の内に仕舞っていた気持ちを聞いて欲しい」
姉ちゃんは瞳を潤ませて、ホントは俺のように戦って欲しくないと叫びたいんだろうことを窺わせながら、言う。何でも聞き入れようと思った。
「……私は賢人を、弟としてとても愛している。だがそれ以上に、一人の女として賢人を心から愛している」
「……っ」
思わぬ告白と共に、今度は姉ちゃんが俺の胸元に顔を埋めるように、抱き着いてくる。……まあでも、ちょっと納得した気がする。重度のブラコンっぷりだからな。そう言われても、「ああそうだったのか」と納得してしまう俺がいたし、何より姉ちゃんに好きだと言われて喜ぶ自分がいた。
「……姉ちゃん」
俺もギュッと姉ちゃんを抱き締める。……俺も大概シスコンだな、と内心で苦笑した。
「……賢人。法律を変えたり国籍移したりすれば私達でも結婚出来る。だからその……名前で呼んで、キスしてくれ」
「……えっ?」
驚く俺を他所に、姉ちゃんは目を閉じて少し唇を突き出す。……マジで? いや姉ちゃんは確かに美人で、俺も少なからず好きだけど。
「……」
そこでまた、姉ちゃんが震えていることに気づいた。さっきまでの震えは俺が戦場に行ってしまうことへの恐怖。だが今度は、俺に拒絶されてしまうんじゃないかという恐怖だろう。
「……佳那」
俺は意を決して、姉ちゃんを泣かせるまいと決意しながら、自分から顔を近づけて軽く、唇を重ねた。
「……ありがとう、賢人。絶対に、帰ってきてくれ」
「……ああ」
数秒だったのか数分だったのか、俺と姉ちゃんはキスした後に別れた。姉ちゃんは吹っ切れたような晴れやかな表情を浮かべていて、俺も少し嬉しかった。
女の子の唇は何の味がするとか、そんなことは一切頭になかった。吹っ飛んでいた。
俺はまた、長年暮らした街を歩き出す。




