正義は必ず勝つ、そうだぞ
※本日三話目
まだ明るくなっていない早朝の街。すっかり人気はなくなったが、いてもどうせこんな時間に起きてるヤツはジジババとアスリートだけだ。
俺――羽白川賢人はアウラとテネスの最終決戦へ向かうために、この時間に起きて戦場へ向かおうとしていた。
「……ん?」
ただの私服で家を出ると、郵便受けに一通の手紙が入っていた。……こんな早朝にどうやって届けたのかは知らないが、昨日の夕方にはなかったモノだ。
「……茶水博士……?」
聞き覚えのない名前に首を傾げながら、封を開ける。俺宛てなので俺の知り合いだろうか。
「……おっさんかよ」
そこには一枚の写真と、手紙が入っていた。
「……そういや、イーラが博士って言ってたな」
博士と博士で全く同じ漢字だから違和感ありまくりだが。博士博士とかややこしいだろ。
手紙の最初の一文はこうだった。
『私達、結婚しました』
「……マジでか?」
写真には仲睦まじげな二人が海外と思われる背景の中で、幸せそうに微笑んでいた。
『挙式はまた今度にしようと思う。今世界が大変なことになっているようだからね。まさか統治なんていうチート能力を持ったテネスが現れるとは、正直予想外だった。彼のことはイーラから聞いているよ。まあ君のテネス能力である破壊と再生も充分強力な能力で、本来ならその能力が敵として最終決戦を迎えるハズだったのだけれど』
「……え」
元々俺が敵の予定だった。それを初めて知った俺は固まる。
『それでも君にはアウラの始祖になる素質が充分にあり、また正義感の強い子でもあった。だからこそ君を選んだのだから、我ながら凄いと思うよ』
「……結局自画自賛かよ!」
『自画自賛ではないよ。ただの事実だ。さて本題に入ろう。君はおそらく、今から彼に挑もうとしている。違うかな? 坂井理奈君にはアウラ統合とテネス融合のカードを渡してあるし、いざという時のアウラ統合について選択をさせてくれたと思う。彼女は責任感が強いからそれでも悩むとは思うけど、まあ大丈夫。きっと何とかなるさ』
俺のことを見透かしたような物言い。手紙なのに、まるで心を読まれてるかのような文面だった。
『心は読めないけど、感情は読めるよ。大体君は顔に出やすいからね』
またもや心を読んだような文面。……マジでここらにいるんじゃないかと思い、辺りをキョロキョロしてしまう。手紙なのに。
『早朝からキョロキョロするなんて、挙動不審だから止めた方がいいよ』
「……やっぱ心読んでるだろ!」
『それは兎も角本題だ。君は悩んだ末、戦うことを選び、この手紙を読んでいると思う。そしてきっと無駄だろうけど皆に内緒にして早朝の時間帯に出たと思う。君の考えはきっと、多くの人に見透かされるから正直に言って無駄だけど、君の心意気は認めよう』
……何であんたがそんなこと分かるんだよ。ちょっと偉そうだし何かムカつく。
『「ちょっと偉そうだし何かムカつく」。ここまで読んだ君の感想はこんな感じだろう。どうだろう、当たっていたかな?』
……当たりだよ、畜生め。手紙で心読むヤツとかあり得ねえし。実際に自分がされると気持ち悪い。
『気持ち悪いは心外だな。兎に角君は今から戦いに向かう。それは勇気ある決断で、今まさに幸せ絶頂な新婚旅行に勤しむ私には出来ない決断だ。私は戦えない。精々君達アウラをサポートするしか出来ない。それでも私は図々しいかもしれないが、君にこの言葉を贈ろう』
やっぱり心を読んでるような、実は俺がどういうことを思うのかコントロールされてるんじゃないかと思う文面だったが、急に真剣を帯びてきた。
『正義は必ず勝つ』
手紙はその少し大きく書かれた言葉で、終わっていた。裏面には追伸がある。
『PS:君を心配する人達は君が思っているよりも多い。私もその一人だからね。君の武運を心から祈っているよ』
最後まで真剣なままで、おっさんの手紙は終わっていた。
「……ったく、相変わらず変なおっさんだな」
俺は笑って呟いた。……俺がおっさんに会ってから、抱いてきたことは変わらない。「あっ、こいつ変人だ」の一言に尽きる。
それでも俺をずっと支えてくれた人物の一人であり、本人には絶対言わないが感謝してもし切れないぐらいの恩は感じてる。ちょっと世界でも救って、その恩を返してやろうじゃないか。
無力だった俺に人々を守れる力をくれた、偉大な恩人に。
俺は再び歩き出す。おっさんから届いた一通の手紙を封に戻して、ポケットに突っ込んだ。
少し晴れやかな気持ちで歩いていると、坂井が立っていた。多分だが俺の考えを見抜いて、待ち伏せしてたらしい。……おっさんの言う通りじゃねえか。
「……あら。奇遇ね、賢人」
白々しく挨拶してくる坂井は、少し私服に気合いを入れた感じの格好だった。
「……何が『奇遇ね』、だよ。どうせ待ち伏せしてたんだろ?」
「ええ、そうよ。だって賢人、一人で戦うからって誰にも告げずに戦いに向かいそうだったから」
「……バレてるから反論出来ねえな」
「……でも、激励ぐらいさせてくれてもいいんじゃない?」
「……」
そう言って俺を見つめてくる坂井は、かなり不安そうに見えて、潤んだ瞳で上目遣いをしてくる様は、非常に、可愛かった。
「……悪かった」
「……いいわよ。必然的に世界の命運を押しつける形になっちゃった訳だし」
「……そうか」
俺が素直に謝ると呆れたような顔で言ってきた。……こっちの方が何だか坂井らしくて、笑ってしまう。
「……何笑ってるのよ。人がせっかく心配して、来てあげたのに」
だが俺が笑ってると、坂井はムスッとしたような顔で言ってきた。
「……別に深い意味はないけどな。坂井は呆れた方が坂井らしい感じがするなってだけで」
「……誰のせいで呆れてると思ってるのよ」
また呆れて、坂井らしいと思ってしまう。
「……それより、理奈よ」
「ん?」
「…………だから、私のことは理奈って呼びなさいよ。何で美雪は名前で私は坂井なのか、理由が説明出来るならいいけど」
坂井は少し照れたように頬を染めながら、はっきりと告げてきた。
「……特に理由はないけどな。まあ兎に角、来てくれたありがとな、理奈」
「……っ。と、当然じゃない。私は仲間なんだから」
俺が微笑んで言うと、名前で呼ばれたのが恥ずかしかったのかボッと顔を真っ赤にして焦ったように言ってくる。
「……そうだな。じゃあな、理奈。また会おうぜ」
「……ええ。帰ってきたら、そうね。愛人契約を結びましょう」
「……は?」
「だから、愛人になってあげるって言ってるの。正妻は私には無理そうだし」
「……何で愛人?」
呆然とする俺に、理奈は小悪魔的な笑みを浮かべる。……不覚にも見蕩れてしまった。
「……だって、背徳で魅惑的な響きじゃない?」
何故かとても、魅力的に見えてしまった。
「……じゃあね、賢人。無事帰ってきてよ、愛しの旦那様?」
冗談めかして微笑む理奈。……何かよく分からんけど、とりあえず無事に戻ってくることを願ってくれてるようだ。
「……ああ、分かってる。愛しの愛人さん」
俺も冗談めかして返すと耳まで真っ赤になったが、そのまま頭を少し撫でて立ち去った。
「……絶対だからね」
消え入るような小さな声が、背中から聞こえて、俺は心の中だけで「おう」と答えた。……そうすると胸を張って言える自信が、本音で言うとなかったからだ。




