お前らの希望、貰ってくぜ
※本日二話目
「……」
俺はその日、一人になりたくなって家に帰っていた。別に破壊活動を行ったのはただテネスの能力を馴染ませるための力試しの意味が強かったようで、テネス化による事故などは多かったが、そこまで破滅していた訳ではなく、誰も人がいなかった俺の家は無事だった。
「……全てのアウラの力を集める、か」
今日俺が会長と戦ってから五日経って目覚めた後に、破壊の跡を見た俺に坂井が告げた会長と対抗する手段。
テネスの力を統治してほぼ無限に力を増殖させる会長に対抗するには、アウラの始祖であるαだけが使えるという、全てのアウラの力を統合する能力。それを使うしかないという。
そうすれば絶大な力を得ることが出来て、さらにそこへ俺のテネスの力を加えれば、会長に対抗出来るという。
だがそれをすれば、必然的に俺が会長と戦うことになり、決して勝てるとは言い切れない状況の中、死ぬ覚悟を決めて戦いに挑み、世界の命運の俺一人の肩に背負わせることになる。
選択権は俺にくれた。もし俺が拒否しても責めずに、アウラ達全員で一か八かの特攻をかけてみるという。
その際には姉ちゃんも戦いに参加し、世界のために会長を倒すという。
……それを聞いて俺が、断れるとでも思ってるんだろうか。
姉ちゃんは子供の頃、両親が死んでからの俺を一生懸命に守ってくれた。自分の辛さを押し込んで、俺を優先してくれた。今だって仕送りしてくれるし、仕事を頑張ってちょっと恥ずかしいセリフも吐くがそれくらいは許容出来るくらいに恩を感じてる。
特攻をかけた場合の成功率は限りなく低い。一%さえ下回ってしまうかのような確率だ。そんな作戦に姉ちゃんを行かせる訳にはいかなかった。
まだ全然、恩を返せていない。
それなのに死地に向かわせることが、出来る訳なかった。
だが、それでも、しかし、死ぬのは怖い。
正直言って俺はいくら戦い慣れてきたとはいえ、普通の高校生だ。本来なら体育館で怯えて避難してる側だったハズだ。それが何の因果か世界の命運を懸けて戦うことになった。
いくら姉ちゃんのためでも、俺の代わりに死ぬか俺が戦うかしかないとしても、坂井や須藤、そして美雪。まだ見ぬアウラ達を犠牲にしてでも生き残りたいと、そう思ってしまうかもしれない。
……他の誰かを犠牲にして生きるなんて、それこそ出来る訳がなかった。
一人で家のベッドに寝転がり、少し暗くなった薄暗い部屋で物思いに耽っていて、気づいてしまった。
思えば最初からそうだ。
いきなりおっさんから訳も分からんのに正義の味方になれって言われて、戦った。普通それっておかしいんじゃないか? 普通だったら戦わない。キモい雑魚テネスとだって戦いたくない。
だっていうのに、俺は見ず知らずの他人のために変身し、正義の味方となって戦った。そんな自己犠牲にも直結する俺の行動だが、俺は不思議と違和を感じなかった。
それはきっと、俺が両親と姉ちゃんの血を濃く受け継いでいるからだろう。
消防士に、警察官。それらは人を守る仕事だ。それこそ命を懸けて。
そんな両親と姉ちゃんに心から憧れて、見様見真似に人を助けて、正義の味方になって。
そんな俺が、他人を犠牲にして、他人を見捨てて、のうのうと生きていける訳がなかった。
「……ふふっ」
思わず笑いが零れる。
だって正義の味方じゃないとか言っておいて、俺は元来そういう、人助けを苦と思わない思考回路の持ち主だったんだから。むしろ進んでそっちを選んでしまうような、そんな性分だと、今更ながらに分かってしまった。
そしてそれに気づいた時、俺の選択は一つしかなくなった。
坂井にメールをする内容はもちろん――。
後日。俺はここら近辺を見張るためのアウラ基地である、おっさんのいない拠点に向かった。
今日がその決定した内容を実行する日だ。
「……ホントにいいのね?」
自分から提案したにも関わらず、少し申し訳なさそうな顔をしている坂井に苦笑して頷く。この場には当人である俺、坂井と須藤と美雪がいて、テーブルの上には無数の武器が置いてあった。
「……じゃあ、変身して。そしてこの全部に一言、声をかけるの。何でもいいわ。ただアウラが、力を貸したくなるようなことを言うの」
坂井がさり気なく無茶振りしてくるが、ここは甘んじて受ける。ちょっとアバウトだったが、変身した。
「……」
深呼吸を一つ。これをしたら、もう後戻りは出来ない。今更戻る気なんて一切なかったが、気持ちはそうじゃない。今も戦いたくない、死にたくないと喚いている自分がいる。
だが死ぬ訳じゃないし、負けたらどっちにしろ死ぬ。遅いか早いかの違いだ。
「……お前らの希望、貰ってくぜ」
俺は少し考えた結果、シンプルにそう告げることにした。すると武器が輝き出し、俺にゆっくりと向かってくる。……剣が切っ先を向けて突っ込んでくる様は少しビビリそうだったが、何故か俺を傷つけるモノじゃないと理解出来て、ジッとしていた。
武器は一つ一つ俺の身体に吸い込まれていく。須藤の鉤爪、坂井の二丁拳銃、美雪の杖。他にも色々な武器があり、ペンや消しゴムなんかもあってこんなんで戦えるのか、とか思いながら武器が吸い込まれるのを見ていた。
「……これで、アウラの力が全て賢人に渡ったことになるわ」
坂井が言って、二枚のカードを差し出してくる。
アウラ・アクセルとテネス・アクセルというカードだった。
「……全てのアウラの力を顕現させるカードと、賢人の中にあるテネスの力を顕現させるカードよ。多分、こういう時のために作ってあったんだと思うわ」
坂井が説明してくれる。……これでアウラとテネスの始祖として、テネスの力を統治した会長と戦うことになる。
「……そうか」
俺はそれだけを言って二枚のカードを受け取り、変身を解く。
「……ホントによかったの?」
「……今更何言ってんだよ。それに、俺が戦わなきゃ勝率は低いんだろ」
「……それはそうだけど」
まだ俺を戦場に送ることが不安らしい坂井は、悲しそうな顔をする。
「……別にそこまで気にすることはないだろ。パパッと行ってパパッと帰ってくるだけだ」
俺は笑って言い、坂井の頭をポンと軽く叩いてその場を去る。須藤は兎も角、美雪には一切声をかけなかった。
その日の夜、俺は一人ベッドの上で座っていた。
「……よしっ」
覚悟を決め、気合いの声を出す。……そして眠った。
翌日の早朝に、会長の下へ行って戦うことを決めたからだ。




