俺は、負けたのか?
※今日で完結させます
六話連続更新となります
……。
…………。
「……」
………………。
……………………。
「…………」
意識が、浮上してくる。直前まで深い暗闇の底にいた気がする。
「……ん」
俺は意識が覚醒して、身体が嫌に重いことに気づいた。瞼も重かったが、何故か目覚めないといけない気がして瞼を開けた。
仰向けに寝ているようで、硬い地面に布が敷かれた程度の感触が背中にあり、天井を見ていた。
見知らぬ天井ではなかった。だがこんな場所で寝ているのも不思議だった。
俺が通う高校の、体育館の天井だ。バレーボールなどのボールが何故か天井に挟まってあるのは、どこの体育館でも一緒だろうか。テニスコートなどは多いかもしれない。バドミントンも羽がたくさん乗ってしまいそうだ。
夢だったのだろうか。起きる前に暗闇の中にいて、光を見つけそちらに泳ぐような感覚があり、少し長い意識の浮上を感じていた。
「……起きた?」
不意に俺の顔を覗き込んできた美少女がいた。艶やかな黒髪をした、可愛いと綺麗の中間をした美少女だ。その顔に、俺は見覚えがあった。
「……美雪」
俺はその美少女の名前を呼ぶ。そうすることで何故ここで寝てるのか、その理由を思い出せるかと思ったからだ。
「……賢人! 目が覚めたのか?」
ドン、と心配そうなホッとしたような顔を浮かべる美雪を押し退けて俺の視界に現れたのは、黒髪に切れ目の美女だった。目尻に薄っすらと涙を浮かべ、相当心配させてただろうことが窺える。
「……姉ちゃん」
その美女にも、見覚えがあった。姉ちゃんの格好はジャージだったが、どうやら俺のジャージのようだ。サイズはちょっとブカブカだ。
「……賢人ぉ!」
ギュッと抱き着いてくる姉ちゃん。豊満な膨らみがムニュッと押しつけられるが、そんなことより姉ちゃんを心配させてしまったことの方が大事だった。
「……ごめん、心配かけて」
俺に対して過保護なとこのある姉ちゃんなので、相当心配してたんだろうと思い、申し訳なく思って頭を撫でながら謝った。そんな俺と姉ちゃんを、美雪は呆れたようなムッとしたような微妙な表情で見ている。
「……全くだ」
姉ちゃんは俺の胸元に顔を埋めながら頷く。
「……目が覚めたみたいね。気絶するまでのことは覚えてる?」
長い金髪の可愛いというよりは綺麗な美少女が、そんな仄かな感動に包まれた俺に聞いてくる。
「……あっ」
坂井だ。そんな坂井を見て、少し離れた場所にいる目つきの悪い薄い黒髪をした少年、須藤も視認し、全校が集まってるんじゃないだろうかってくらいに人が体育館にいることに気づき、思い出した。
……そうだ。生徒会が全校集会やって、そこで生徒会がアメ配って全校のほとんどをテネスにし、俺達アウラと戦った。途中宏介が会長を裏切ったり姉ちゃんが乱入してきたりしたが勝てなくて、俺はイーラから貰ったアメを食べて変身し、アウラとテネスの融合として会長と戦い、そして無理が祟ってぶっ倒れた。
……まあちょっと俺よりな目線なので、傍から見れば俺が会長に負けたんだが。
それで最後に確か、会長が去っていったと思うんだが。
「……そうだ。会長は!? ――っ」
俺は起き上がろうとして、動いたせいかはっきり感じることになった多大な疲労に顔を顰める。
「……外見れば分かると思うけど、状況は最悪よ。見なさい、体育館に学校関係者以外の人がいるでしょ」
坂井は険しい表情で告げてくる。……俺が坂井に言われて周囲を見渡すと、それは事実だった。
何やら地域の人達らしい人々が床に布を敷き、水や食料を抱えて毛布に包まっている。その表情はどこか怯えているようにも見え、それは生徒や教師達も同じだった。
何か、避難してきたみたいだった。
災害時に学校の体育館に避難することはあるので、間違ってはいないだろう。
「……」
俺は暗い陰鬱な空気に包まれた体育館に、呆然とした。何か酷い、災害にでも遭ってしまったかのような現状が予測出来た。
「……っ!」
俺は思わず姉ちゃんを押し退けて立ち上がり、そのまま体育館の外へ飛び出していった。
「……賢人!」
姉ちゃんが俺を呼ぶが、今は無視だ。
そして俺は、体育館の外に出て、唖然とした。
街が、崩壊していたのだ。
「……何だよこれ……」
俺は誰にともなく呟いた。答える者はいない。姉ちゃんや美雪が後から駆け寄ってくるのを待つしかないだろう。
そこに俺が慣れ親しんだ街の風景はなく、世紀末の崩壊した街そのモノが具現化したような、破壊の跡。
俺がどれくらい眠ってたのかは分からないが、たった俺が気絶していた時間でここまで街を壊滅させるなんて、人間の仕業じゃない。
「……まさか、これを会長がやったってのか?」
俺は呆然として言った。
「……ええ、そうよ」
それに答えたのはいつの間にか後ろにいた坂井だ。俺に駆け寄ってきたのは坂井だけじゃなかったが。
「……あの如月のガキはまず、街に出た。そして賢人と戦ってついた傷を癒すために、ワールド・リフトという技みたいなので街の人を全員テネス化させると、ワールド・コントロールでテネスの力を光にして呼び集め、大勢の力を自分の身体に統治した」
姉ちゃんが状況を説明してくれる。……俺がアウラとテネスの力を同時に使っても勝てなかった存在だぞ? それがもっと強くなってるってのか?
「……統治の能力には慣れが必要だ。こいつの力を奪っただけであんだけ強くなった気がしたのは、おそらくだが回収してた力がやっと、自分に馴染んだからだ。だから早めに手を打っときたかったんだが、駆けつけたアウラは全員返り討ちにされた」
須藤がその後の状況を説明してくれる。
「……まだ死者は確認されてないんだけど、いつ会長が世界を攻撃し始めるか、全く分からない状況よ」
美雪も続ける。
「……だけど、もう打つ手がほとんどないのよ。残る手も、賢人なしじゃ実行出来ないし」
坂井が、他の四人も驚くようなことを告げてくる。……俺も驚いた。……あんなヤツに、勝てる手段があるってのかよ?
「……あいつが絶望のテネスを統治して集めるなら、私達は希望のアウラを集めるのよ」
坂井は物凄く真剣な表情で俺を見据え、その打つ手を告げた。




