私は、弟主義者だ
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「……こ、宏介君。どういうつもりだ? 君は俺についてきてくれるんじゃなかったのか?」
会長は身体に四つの穴を開けられながらも何とか立ち上がって、俺を殴り飛ばしたが会長に四つも穴を開けた宏介に聞いた。
「……俺が賢人達三人が正義の味方で、委員長が怪しいって言ったのは、あんたが正義の味方を殺そうとしてるって聞いたからだ。四人の情報を与えて俺を信用させ、今この場で裏切るためにな。そのために賢人達を売ったのは悪いと思ってる。だからここであんたを倒す、会長!」
宏介は言いつつ、バリバリバリッ! と雷電を全身に纏う。
「……クソッ! こんなところで俺の計画が潰されて堪るか! そいつを殺せ!」
会長は苛立たしげに言って、周囲のテネスに宏介を殺すよう命じる。
「……宏介!」
「……悪いな、賢人。勝手なことしちまって。でもお前が何か頑張ってて俺に言わないってことは、何かヤバいことに首突っ込んでるって分かってたし。記憶がなくなるってのは関係なく、お前が街を守ってたんなら、そのお返しをしなくちゃだしな。俺と同じ境遇で、賢人から守ってもらってたヤツばっかだってのに、その恩を仇で返すような恩知らず共は、俺が倒す!」
俺が叫ぶが、宏介は止まらない。……そんなことどうでもよかった。恩返しとかどうでもよかった。
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
宏介は雷電を迸らせ、高速で動きたくさんの襲いくるテネスを迎撃していく。
別に、宏介の潜在能力が飛び抜けてる訳じゃない。宏介より強いヤツは大勢いて、無双出来る強さじゃないハズだ。
それでも宏介は無茶苦茶に雷を放って六本の腕と二本の脚を使って敵を倒しまくっていく。腕の多さのおかげで最初こそ無傷だったが、次第に傷が増えてボロボロになっていく。
「……宏介!」
俺はドアのめり込みから抜け、宏介に加勢しようとする。だが会長の命令により立ち塞がる何体ものテネス。……クソッ。
「……てめえら邪魔だあぁぁぁぁぁ!!」
俺は咆哮してドラゴン・アクセルをガントレットに差し込む。その間にも宏介はダメージを受けすぎて一方的にやられるだけとなっていく。
「……宏介えええぇぇぇぇぇぇぇ!!」
俺は叫び、ドラゴン・アクセルを発動させようとしたその時。
ドカァン!
轟音が響き渡り、天井が破壊される。それに体育館にいる全員が天井を見上げた。
「……ウチの弟を泣かせるとはいい度胸だな、ガキ共」
天井に開いた穴から颯爽と体育館に侵入する一つの影。
その人影から聞こえる頼もしい声に、俺は驚愕する。
「……ね、姉ちゃん」
俺は半ば呆然としたままその人物の名前を呼ぶ。
「……ああ、お前のたった一人のお姉ちゃんだぞ、賢人。どうした? もっと喜んでもいいんだぞ? 何なら抱き着いてもいい」
姉ちゃんからそんな軽口が返ってきて、思わず苦笑する。……久し振りの再会だってのに、相変わらずの姉ちゃんだった。俺と四つしか変わらない二十歳にも関わらず、最強の女警官として名を馳せている猛者、それが俺の姉、羽白川佳那だった。
「……か、佳那さん。お久し振りっす」
宏介も姉ちゃんとは面識があり、ボロボロになりながらも挨拶する。……そういや一回宏介は姉ちゃんにボコられたことがあったんだっけな。
「おぉ、その声は宏介君か。随分変わった格好をしてるな。いつも弟の賢人が世話になってる」
姉ちゃんはテネスと化した宏介も見てもそれだけしか反応を示さず、姉らしい挨拶をする。
「……ふぅむ。なるほどな。まず生徒会長が全校集会を行い、一部の者以外にテネス? というんだったか。それになるアメを渡し、洗脳か何かで食べさせる。私の可愛い賢人を真ん中に呼び出して宏介君に殴り飛ばさせ、しかしそれは宏介君の作戦で近寄ったところを宏介君に刺され、こうして宏介君をリンチさせ、私の可愛い可愛い賢人と宏介君を阻んでた、と。そういう状況か」
姉ちゃんはチラリと周囲を見渡して、状況を完全に把握する。……いや、これは元から見てたんじゃないか? ってか一々俺を呼ぶのに「私の可愛い」とかつけないで欲しい。気恥ずかしいから。
「……ああ、もちろん状況を見ただけで判断したから間違ってるかもしれないが。生徒会長君には宏介君に与えられたと思われる穴があり、宏介君はリンチされてる。だが最初から宏介君が敵対していればアメは渡してない。違うか?」
どうやら姉ちゃんは瞬時にそこまで考えて言ったようだ。……バカな俺には出来ない芸当だった。
「……今更羽白川賢人君のお姉さんが飛び込んできて、何の用だ? これからあなたの弟は処刑されるんだよ。大人しく眺めてれば死なずに済んだモノを」
会長は言って、手を伸ばし姉ちゃんに向ける。……ああ、死んだな。おそらく宏介もそう思っただろう。姉ちゃんが、ではない。
「……あ? てめえ今何つった? 私の可愛い賢人を殺すだと? 私の前でそんな口利くバカがまだいたとは、神馬家の情報網も案外大したことないな」
姉ちゃんの全身から途轍もない殺気が溢れ出てるのが、見えない俺からでも分かった。ジリジリと後退する周囲のテネス達からすれば、堪ったもんじゃないだろう。
「……俺のことを知ってるのか」
「……ああ、もちろんだとも。生徒会長にして、神馬グループを将来継ぎ、さらにグループを大きくすると噂される将来有望な少年だ。だがな、クソガキ。人は平気で人を殺せるようになった瞬間から、クズに落ちるんだよ」
驚いたような会長に対し、吐き捨てるように告げる姉ちゃん。……一瞬であんまり見えなかったが、姉ちゃんの格好は黒っぽい身体にぴったりくるボディスーツで、緑の蛍光ラインが入ってたハズだ。そのせいで姉ちゃんの大人っぽくて抜群なスタイルが丸分かりだった気がする。
およそ警察官の格好じゃあない。
「……ただ人間が俺に歯向かえるとでも?」
「もちろん。てめえが知らないだけで、世界は広い。私が今着てるのが科学の力で作られた、未だ量産の目途が立たないものの身体能力を著しく上昇させるパワードスーツだ。一警官の私がこのスーツを着てここに来た理由はただ一つ。私しかこの負担が激しいスーツを着こなすことが出来ないからだ。そして、ここが私のたった一人の弟である賢人がいる学校だからだ」
嘲笑する会長に、姉ちゃんが告げる。……パワードスーツみたいなもんがあるのか。ってか恥ずかしいセリフが飛び出すのを今か今かと待ち伏せなきゃ辛い。
「……はっ。ただの人間風情が、テネスである俺に勝てるなら、やってみろよ」
嘲笑う会長が、次の瞬間には高速で動いた姉ちゃんの飛び膝蹴りによって、壁にめり込まされていた。
「やってみたぞ、クソガキ」
「……クソッ! このブラコンが!」
檀上で仁王立ちして会長を見下ろす姉ちゃんに、会長が吐き捨てるように言う。
「……違うな。私はブラコンじゃない。確かに私は可愛い弟の賢人をこれ以上ないくらいに愛してる。だがそれはブラコンなんて生温い表現じゃない。そんな低俗な呼び方をするんじゃない、クソガキ」
姉ちゃんは恥ずかしいセリフを吐く。……もう止めて。
「……私は、弟主義者だ」
堂々と言い放つ姉ちゃん。
……もう分かったから止めて下さい、お姉様。




