ああ、これが正義の味方だよ
え~っと、読んでくれたらと思います。
「ひっ!」
一人のクラスメイトが怯えて悲鳴を上げる。
それに続いて皆が一斉に逃げ出した。それでいい。テネスは人を襲うからな。ってか、その人が化けただけなんだが。
「あっ」
ひとまず俺も逃げて、そこからどっかで変身しようと思ったんだが、一人の女子が転んでしまった。
女子はかなり近い所にいて、結構危険だった。
「っ!」
俺は後先考えずにUターンして女子を助けに向かう。
「バカか! 助けらんねえだろ!」
宏介が叫ぶが、お構い無しだ。
今は変身してないが、俺は正義の味方なんだから。
俺は女子を襲おうとしてるテネスを思いっきり蹴飛ばした。雑魚いヤツだったから、靴が焼けてしまった。テネスは素手で戦えるようなもんじゃない。
「ってぇ。ったく。早く逃げろよ」
変身しないままで稼げる時間は少ないしな。
「……うん。ありがと」
女子はショックから立ち直れたのか、走って逃げて行った。
「よし。んじゃ、俺はちょっと残って時間稼ぐから先逃げてろ」
俺はテネスと向かい合って言う。
「おい! 死ぬぞ!」
宏介が叫ぶ。……いや。お前らがいると変身出来ないから早く行ってほしいんだが。
「はっ。俺を誰だと思ってんだよ」
ニヤッと笑って、テネスと向かい合ったまま言う。
「普通の高校生だろ?」
「だな。でも、十秒は稼いで逃げられる」
笑ったままで言う。
「ったく。しょうがないから、お前に任せた。けど、ちゃんと生きて帰って来いよ」
宏介の真面目な言葉に苦笑しつつも、
「オッケ。わかってるって」
軽く答えた。
「……じゃ、逃げるけど」
宏介は渋々逃げて行った。それに他の皆もついていく。
「……さて。待たせたな。こっからがマジのバトルだ」
俺は俺以外にテネスしかいない状況になって、ニヤリと笑って言った。
んじゃ、変身するか。
「ーー変身」
突然現れたベルトを、声と共に腰に巻き付ける。
アウラってのは何人かいるらしく、俺の力はアルファ、とか言うらしい。
俺はこの姿をあんまり気に入ってない。例えるなら、今いる堕天使っぽいテネスに似ているからだ。
全身は黒く、正義の味方というより悪っぽい。何が姿のモチーフになってるかは知らないが、かなり格好いいデザインだと思う。
「はっ!」
雑魚テネスを殴って倒す。この程度なら、武器を使わずに倒せる。
反撃にテネスが襲ってくるが、それを受けるくらい楽勝だ。
「甘いな!」
俺は雑魚テネスを三体とも倒す。あとは狼型と堕天使型の二体だけだな。
「そろそろ武器使わないとな」
勝てなくなる。
「アタック・アクセル」
俺は右手にあるガントレットを起動させて言う。
俺の武器の一つはこのガントレット。カードを差し込んで様々な効果を得ることが出来る。今の状態は攻撃態勢、というわけだ。
他にはガード、ディフェンスなどの基本的な効果と、ヒート、プラズマなどの現象系の効果もあり、カードの種類は多種多様だ。
アクセルってのが、ガントレットの力で、まあ俺も詳しくは知らん。
基本的に俺はカードと武器を組み合わせて戦うようになっているらしい。
「らぁ!」
右手で敵を殴る。すると、狼型のテネスは捻れて飛んだ。いや、狼型のテネスが捻れたんじゃなく、殴ったその先の空気が捻れたんだ。
「ア……」
狼型のテネスは壁に打ち付けられて倒れる。が、完全に倒したわけじゃないから、もう一体の方にてこずってる間には立てるだろう。
「ナメンナ!」
堕天使っぽいテネスが襲ってくる。テネスも元は人間なので言葉は喋れるのだが。
「お前とだけは全力でやんないとな」
俺はガントレットを構え直す。多分、アタック・アクセルじゃ倒せない。何か他のアクセルでやんないとな。
「はっ!」
右手でテネスを殴る。
「アマイアマイ」
ニィ、と笑ってテネスが言う。
「なっ!?」
俺は驚愕の声を上げる。攻撃に特化したアタック・アクセルが片手で止められたのだ。
有り得ねえ。アタック・アクセルはアクセルん中じゃかなり弱い方だが、片手で止めるだと!?
「コッチノバンダナ」
言って、テネスが俺をぶん投げた。
「おわっ!?」
俺はさっき狼型のテネスがぶつかった壁の逆の壁に打ち付けられた。
「っは……!」
息が詰まる。
「ってぇな。俺に反撃してくるとは、他のテネスと違ってかなりやるじゃねえか」
俺は立ち上がってニヤリと笑って言った。
「アァッ!」
テネスが俺に向かって口から波動を吐いてくる。
「っ!」
俺はガントレットからカードを取り出し、
「ガード・アクセル」
別のカードを差し込んだ。
見たことのないような紋章が手の甲に現れ、それが拡大し、紋章でテネスの攻撃を防いだ。
防御のアクセルだ。
……防いだのはいいが、かなり威力があったな。破られるかと思ったぜ。
「ブレイク・アクセル」
またカードを変える。今度は破壊系の効果だ。
「はぁ!」
相手の懐に詰めて、腹部を目掛けて拳を振るった。
「グアッ!」
敵は避けられずに直撃し、腹部の表面が砕けた。
「……ったく。ちょっとは堪えたか?」
俺はしっかりとした手応えがあったのに、確証なく呟いた。