さあ、始めようぜ
※最近は毎日更新しています
「……賢人のバカ!」
「……す、すまん」
気絶したせいで変身が解けてしまった俺を、まだアウラの姿をしたままの美雪が殴ってくる。腹部に重い一撃が突き刺さったこともあって、俺は言葉を詰まらせた。……まさか生身相手に拳を叩き込んでくるとは。容赦ねえな、美雪。
「……あんまり変身した状態で殴っちゃダメよ、美雪。生身からしたら近接が不得意なεでも結構強いんだから」
自分の疲労を隠して二人にεを向かわせた俺に、キレる美雪。だがそれを坂井が咎めた。
「……あっ。ご、ごめん賢人。痛かった?」
「……そりゃもう、滅茶苦茶痛い。もう一回気絶するから最後の一体はよろしく」
我に返って慌てたように謝ってくる美雪。だが俺は腹部を片手で押さえて蹲った状態から寝転ぶ。
「……ちょっ、ちょっと! 賢人ったらそんなとこで寝ちゃダメでしょ! っていうかそんなこと言える余裕があるなら大丈夫じゃん!」
美雪はすかさずツッコんでくる。……うん、美雪も大分ツッコミが身についてきたな。それはいいことだ。
「……夫婦漫才なんてやってないで、さっさと回復したら行きましょう。八体のテネスは倒したけど、あと一体残ってるんだから」
坂井が呆れたように言う。
「……め、夫婦……っ。そ、そんなんじゃないって! それより二人はもう大丈夫なの?」
美雪は顔を真っ赤にして首をブンブンと左右に振って否定し、すぐに話題を変えた。
「ええ。じゃあ賢人も目覚めたことだし、乗り込むわよ」
坂井が真剣な表情で言い、俺達三人は頷く。
「……待っていたぞ、アウラ達よ」
俺達四人が廃工場に入っていくと、一体のテネスが中央の地下に続く階段の前で仁王立ちしていた。……こいつがここの、最後の敵。
そのテネスは細マッチョな人間を凶悪にして黒くしたような、限りなく人間に近いフォルムをしていた。そして何故か、両腕に盾を、両肩に四角い大砲を装着していて、両脚が豹のような形をしていた。
「「「……っ!」」」
その上半身だけが人間らしい形で、しかし脚と武器が異質であり、しかも頭がかなり凶悪なフォルムをしている。
そしてそれらの異質な部分には、俺達全員に心当たりがあった。
「……何で、四天王の部位が混じってるのよ」
坂井が呆然として呟いた。……そう。人間らしい上半身は攻撃の四天王。豹の脚は速度の四天王。両肩の大砲は支援の四天王。両腕の盾は防御の四天王の部位だ。おそらく凶悪な頭だけがこいつ本来の姿なんだろう。荒々しい鬼のような感じだ。
「……それは、私が四天王の力を喰らったからだ。四天王は巨大にした俺のアメの欠片を食わせて作った存在。力が俺の下に戻ってくるのは当然だろう?」
そいつは言う。……つまり、元々同じアメから作られたテネスだから、一つになることが出来たって訳か。
「……チートかよ」
俺は半笑いで吐き捨てる。二体でも俺一人じゃボコボコだったってのに、四体全部の力を持ってしかももしかしたらこいつ自身の能力もある、なんていうチートヤツ相手に、勝算は今んとこ零に近かった。
「……でも一度勝った相手の能力ばかりだから。大丈夫よ」
θは気休めにもならないことを言う。……その一度勝った相手にボロボロにされたから、結局朝のギリギリまで時間がかかってるんだろ。そして坂井と須藤は勝った訳じゃなくて引き分けだし。
「……いや、全員無茶しまくって結構ギリギリだったんだぜ? 死ぬ気でやるしかねえじゃねえか」
俺は苦笑して言う。無傷に見えたεも、魔法らしき力を使うにはかなりの体力を消耗するようで、三人を全快させた今、かなりギリギリの状態だ。おそらくあまり長くは戦えないだろう。俺も豹型を倒した時は疲労がピークでぶっ倒れたくらいだしな。四人共、短期決戦が望ましい。
「……しゃーねえだろうが。いいからさっさとドラゴン・アクセル使えよ」
βが口悪く言ってくる。……正直こいつの言う通りにするのは癪だが、仕方ない。
「……ドラゴン・アクセル」
『アクセル・エボリューション・オーバードライブ!』
ガントレットにドラゴンのカードを差し込み、無機質な声が俺に続く。竜の翼、尻尾、頭を模したガントレットが形成されていく。
「……後先考えずに無茶するから、ぶっ倒れたら頼む」
「……だ、ダメよ。無茶しないで」
俺が正直に言うと、εが震える声で言った。……そんなこと言ったってな。
「……あいつが、無茶しないで勝てる相手に見えるかよ。――ディザスター・アクセル」
「「……っ!」」
爆発的に身体能力上げ高威力の波動も放てるバースト・アクセルより上の、金色のカードをガントレットに差し込んだ。このカードを知ってる二人が驚愕していたが、今は置いておく。
ディザスター・アクセル。世界に存在する全ての災害を体現し、さらに自らを災害とする最強のカードだ。……一回使ったらマジで全身筋肉痛になって、激痛に悶え苦しんだからあんまり使いたくはねえんだけどな。
「……ヘル・ドラゴン」
さらにドラゴンの頭を模したガントレットにも、くすんだ黒色のカードを差し込む。ヘル・ドラゴンはそのまま地獄竜で、地獄の暗黒を全身に纏う。カードと同じ、くすんだ黒だ。
「……β」
θが追加した二つのカードに何か思うところがあるのか俺を呼ぶが、チラ見するだけで何も言わないでおく。言わなくても、分かってるからだ。この三枚のカードを重ねることに、どれだけ負担がかかるかなんて、俺が一番よく分かってる。
「……チッ。てめえがその気なら、俺もやるしかねえじゃねえか。ヒューマンビースト・クロー」
βが舌打ちしながら言って、何らかカードを差し込む。訳すと人獣、だろうか。βの獣らしいフォルムが、さらに獣じみてくる。全身を覆う体毛が現れたからだ。だが相当強いのか、ピリピリとした気迫が俺にも伝わってきた。
「……ジャイアント・クロー」
続いてもう片方の鉤爪にカードを差し込む。グググ、とβの身体が巨大化した。と言っても獣が二本足で立ってるようにしか見えないんだが。大きさが変わっただけだ。全長は約三メートルってとこだな。
「……足引っ張んなよ、β」
「……はっ。誰に言ってやがる、α」
俺とβは軽口を叩き合い、全身に力を込めて構える。
「……はぁ。何でこうも男子ってのはバカなのかしら。こうなったら私達で援護するしかないわね、ε」
θが呆れたようにため息をついて言う。
「……う、うん」
少し元気のないεの声が聞こえた。
「ほら、後方支援は私達の役目でしょ。二人をフォローして、あいつ倒すんだから。元気出しなさい」
θはεの背中を軽く叩き、励ます。……何かθが姉っぽい雰囲気になってきたな。アウラとして先輩だからそう見えるだけなんだろうか。
「……さあ、いっちょやってやろうぜ!」
俺が言ったのを合図に、βとほぼ同時に駆け出した。




