チッ、無理言いやがる
「……チッ!」
βはαの襲撃後に動く手筈になっていたが、爆発と共に現れたテネスによって行く手を塞がれていた。
「……そうカッカするなよ、坊主」
敵はテネスの中では大人しいデザインをしていた。人間の潜在能力がヒトの形をしていない、それは今までのテネスで分かっていた。だが目の前にいるテネスは完全な人型。黒い細マッチョという姿だ。ということは凶悪な能力を持っている。βはそう結論づけた。
「……俺はあの方を守るために存在する四天王が一人。攻撃を司る」
「……攻撃か。それは気が合いそうで何よりだな」
テネスが名乗ると、βは仮面の中で笑った。心底θの方にこいつがいかなくて良かったという笑みだ。
『θ!』
というαからの通信が不意に入った。……βは耳元でうるせえと思いつつ、
『……大丈夫よ。それよりこんな相手を二人同時だなんて、αさんは大変ね』
θが軽口を叩くのを聞いてホッとした。すると突然の丸い光に続いて爆撃が目の前に巻き起こり、βは吹き飛ばされる。
「……てめえはうるせえんだよ。こちとら滅茶苦茶なヤツと戦ってんだぞ!」
βは怒鳴りつつ、いくらαでもこんなのを二体同時は厳しいんじゃないかと思い、すぐにその考えを消す。……少し前まで敵対していた相手を心配していると思われたくなかったのかもしれない。
だがすぐにαからの弱気な発言が聞こえる。ドラゴン・アクセルを使っても二体同時が厳しい程というのは、かなりヤバい。確かに攻撃を司るのがβのところにいるとは言っても、同等のヤツが二体もいればβでは絶対勝てないと分かる。
θも厳しいようだし、βも決着してすぐに加勢というのは厳しいと思われる。勝てるかさえ分からないくらいの強敵だと勘が告げているのだ。
それをそのまま言葉にすると、
『……そうかよ。だが頼んだぞ、お前ら。出来れば俺が死ぬ前に勝ってくれ』
いつになく弱気な発言をして、通信が切られる。βも通信なんてして戦える相手ではないが、少し焦りを覚えさせる発言だ。
「……チッ!」
βは舌打ちしつつテネスが放ったと思われる光と後に続く爆発を回避する。単純な力なら三人のアウラの中でもβが最も高く、一番万能なのがθである。αは基本的な能力ではなく必殺のカードが強力で潜在能力が高いということになる。
「……通信は終わったか?」
敵のテネスは両手を広げた格好で、ただ立っている。
「……」
βは答えない。敵を警戒するのに神経を集中させているからだ。テネスと敵対した時、真っ先に確かめるべきは相手の能力だ。相手の能力を理解し、対処する。それが対テネス戦闘の基本である。
「……シカトか。まあいいだろう」
テネスは薄く笑って言い、一筋の光がβの胸元中央を貫く。だが何も起こらない。
「……っ!」
だが光はβの胸を貫いて背中を大きく覆うように展開しており、それに気付いたβは驚愕して光を避けようとする。
「……もう遅い」
だが敵は呟き、光が爆発へと変わる。
「があ!」
βは何とか胸の中心から光を逸らしたが、光を中心に爆発が起こるため完全にはかわし切れず、爆発を受ける。
「……直撃じゃない、か。まあそう簡単には死んでくれないだろうな」
テネスは冷静に右肩辺りに傷をつけたβを見据える。
「……当たり前だろうが。で、てめえの能力は光を中心に爆発を起こすってことでいいのか?」
「……まあ、間違ってないな。だがまだ足りない。俺の力は俺の身体に触れている光を中心に爆発させる。つまり光を伸ばせばどこまでも攻撃出来るって訳だ。その分発動が遅くなったりとデメリットもあるが、強力だろ?」
βが尋ねると思いの他簡単に喋った。……だがその中に嘘が混じってないと信じられる根拠はない。
「……」
βは答えなかったが、カードを取り出し、差し込む。
「……スピード・クロー、ガード・クロー」
速度と防御を上げるカードだ。二枚は両手の鉤爪に一枚ずつ差し込んだ。
「……かかってこいよ、アウラ。盟主様のとこにはいかせないぜ」
「……っ!」
敵が相変わらず両腕を広げて言い、βは構わず駆け出す。光の線は真っ直ぐ敵の身体からβの下に伸びてくるが、爆発する前に上がった速度で左に回避する。爆発はβがすでに避けた後でも起こり、しかし続いて横並びに二本が伸びてくる。βは左への回避が封じられる形で伸びてきた二本の光を右に回避して避ける。すると右にも光が無数に伸びてきて、避けた方が爆発する。それを幸いにとβは左に避ける。
βは避けながらも確実に敵へ近付いている。敵もそれは理解しているので身体の前半分から光の線を無数に伸ばしてくる。先に伸ばしていた右側の数本が爆発する。もしかしたら先に展開した光は次に光が展開されると爆発するのかもしれないと、βは頭の片隅に入れつつカードを変える。
「……プロテクト・クロー」
カード・クローを自身の周囲に透明な壁を展開するプロテクト・クローに変えて強引に突っ込む気のようだ。透明な壁が光も遮るため、爆発は壁の前で起こる。強力な一撃に壁は破壊されカードが強制的にはじき出されるが、無事に爆発を乗り切った。
「……チェーン・クロー」
プロテクト・クローが排出されたので新たなカードを差し込みつつ、突撃する。
「……ふむ。少し爆発の威力を上げる必要がありそうだな」
敵は半径三メートル以内に入ってきたβを見ても冷静に呟き、太い光の線を展開する。それも、先程と同じく無数に。
「……チッ!」
βは舌打ちして両手の鉤爪を鎖のように伸ばし、縦横無尽に振るいながら敵本体を攻撃しようとする。
「……無謀だな」
敵は呟き全身に光を纏う。それはつまり、今ある線の爆発を意味し、βは特大の爆発の連鎖に巻き込まれる。放った鎖の爪も敵の周囲にある光から爆発することで防がれ、攻防共に意味をなさなかった。
「……ぐっ」
βは何とか形を保ってはいたが、無事とは全く言えない程に傷を負っていた。βの装甲がヒビ割れている。
「……あまり失望させるな」
敵はそう言い、βに向かってβの全身を覆う程に大きな光の線を伸ばしてくる。
「……っ!」
βはすぐに避けようとするが、爆発からは逃れられずに直撃を受ける。
「……がっ、はぁ……!」
βはアウラのこの世のモノとは思えない程頑丈な装甲を砕かれ、一部変身が解けかけている。
「……はぁ。アウラの一人といってもこの程度か」
敵は失望を隠さずにため息をつく。
「……うるせえよ! ――ビースト・クロー!」
βは吐き捨てて、ドス黒いカードを両手の鉤爪に差し込む。ドラゴン・アクセルと同じ強化というよりも進化といえるような効果を及ぼすカード。だがそれは決して使っていいカードではなかった。
「……ウオォ」
βは低い唸り声を上げ、ドス黒いオーラを全身に纏う。すると次第にβの姿が変わっていき、巨大な獣の姿へ変貌を遂げる。
「……ほう」
敵は感嘆の声を上げつつ、しかし油断なく構えたままだ。
「……ウゥ」
獣が唸り声を上げて、四肢を地に着けグッと力を込める。大体全長が五メートルくらいもあるので、さすがに敵も一撃を受けただけでも危険と思ったようで、獣の全身を覆える程に大きな光の線を伸ばす。すぐに次の太い光を展開して爆発させるが、獣は大きく跳躍することで回避した。
「……なかなか」
そのまま襲いかかってこようとする獣を見上げて言いながら、先程展開した光を爆発させて次の上にいる獣に向けて同程度の威力の爆発を起こす光を伸ばし、次のを重ねて伸ばし続ける。そうすることで爆発の連鎖が襲う訳だ。
「……ガァ!」
しかし獣は爆発の連鎖から抜け出してきてそのまま襲いかかり、驚愕する敵を巨大化した爪で深く切り裂く。
「……ぐっ!」
敵は呻くが、かなり深く切り裂かれていてダメージは大きい。獣と化したβは敵が後退したのを追って爪を放つが、敵は爆発を、光を放ってすぐに巻き起こし獣を後退させようとする。だが爆発から出てきた獣は無傷だった。
「……オオォ!」
獣は吼えて突撃し、敵を真っ二つに切り裂いた。
「……そうか! ダメージを内部に流して!」
真っ二つになった敵はそれでも得心がいったように言って爆発の光を巨大なモノにして獣を攻撃し、地面に落ちる。
βの装甲が普通に壊れてしまう程の爆発が起こっても、獣は無傷で長く鋭い爪を振り下ろし、敵を刺し貫く。
「……だがこれで盟主様のところへはいかせない」
テネスはそう言い残して、倒れた。
「……チッ。バレちまったか」
獣はドス黒いオーラを収めてβへと戻り、しかしそのまま変身が解かれる。須藤切也に戻ったβだが、その身体は傷だらけだった。敵の言う通りダメージを内部に逃がしていたようだ。
そのまま地面に崩れ落ち、動かなくなる。ダメージの多さに意識を失ったのだ。
βは攻撃の四天王と、引き分けて終わった。




