うぅむ、微妙だ
須藤との一悶着、巨大テネスの群れ襲撃、須藤との折り合いなどを経て、街や学校、クラスの雰囲気に落ち着きが戻った。
……ただ一つ、俺にはまだ解決してない案件があった。
美雪との微妙な距離感だ。
須藤の一件以来微妙な距離感になっていた俺と美雪だが、それは未だ修復出来てない。俺としては美雪との関係が以前のような感じに戻ればいいと思ってるんだが、なかなか出来てなくて困ってる。
俺が美雪に話しかけようとしても他の女子が話しかけたり、須藤が話しかけたりして上手くいかなかったり、逆に美雪が俺に声をかけようとしていると誰かが話しかけたり。
……わざとなんじゃないのかってくらい邪魔されて、声をかける成功率は二割に満たない。ただタイミングが悪いのかどうかは兎も角、このままじゃ本当にただのクラスメイトに戻ってしまう。今の俺がまともに話せるのは宏介、須藤、坂井の三人しかいないんだぞ。
俺が正義の味方だからか、それとも須藤の一件で見苦しくキレたからか、クラスメイトのほとんどは俺に余所余所しくてダメだ。俺の学校生活は今、かなり寂しいことになってる。須藤と坂井はほとんど話さないからな。雑談をする相手が宏介しかいないのはヤバい。
美雪の態度が緩和すればクラスメイトの反応も変わる、とまでは言わないが、少しでも影響はあるハズだ。……あると思いたい。
それに、美雪に対しては謝らないといけない。いくら何でも酷すぎた。
と言うことで、一応美雪のメアドは持ってるのでメールしておく。今日の放課後、体育館裏に来て欲しい、話があると言う文面のメールだ。……少し告白みたいな呼び出しっぽい気がしないでもないが、人前で土下座する勢いの謝罪をしたら引かれる。ドン引きだ。
そんな訳で放課後、俺は人気のない体育館裏に来ていた。……女子を呼び出すには少し人気がなさすぎる気もしないでもないが、仕方がない。
……そう言えば、返信はなかったんだよな。来てくれるかも分からないし。とりあえず待つだけ待ってみるしかないか。
――三十分後。
……あれ? おかしいな。メールを見てないんだろうか。いや、まだ大丈夫だ。美雪は帰宅部だが学級委員長だからな。色々仕事があるんだろう。
――一時間後。
……まだ来ないのか。まあ色々話し込んでるってこともあるだろうからな。ギリギリまで待ってみることにしよう。春だから完全下校時刻は六時だ。あと一時間半ぐらいだし、来るだろ。
――一時間半後。
……来ない。もう来ないんじゃ……いや、来るハズだ。いくら美雪が激怒しててもメールで呼び出せば来てくれるハズ。
――二時間半後。
……もう六時だ。校舎内には入れない。しかも結構暗い。メールの返信も来てないし、これは完全に無視されたな。諦めて帰るか。いや、もう少し待ってみよう。六時まで雑談していてそれから来るってことも考えられるからな。放課後は長いし。
――四時間半後。
……八時になってしまった。まだ来ない。いや、もう来ないんだろう。メールは完全に無視されたようだ。腹減ったな。今日は簡単にチャーハンでも作ってさっさと寝よう。また明日再チャレンジしてみるしかないか。
俺はそう思ってかなり落ち込みつつ外側の柵の乗り越えて学校から出る。どうせ校門も閉まってるので、近いとこから出た方がいいだろう。
……でも美雪がまさかここまで怒ってたとはな。確かに酷いことを言ったが、顔も見たくない程だったとは。
声をかけようとはしてくれてたから、何とかなると思ってたのに。
「……どうしようか」
美雪と仲直り出来ないとなると、かなり憂鬱だ。メールを無視されたせいで美雪との距離がさらに開いてしまう可能性があるしな。……俺がちょっと美雪に対しての評価を変えてしまいそうだ。距離を置いてしまうかもしれない。
「……はぁ」
俺は少し憂鬱な気分になりながらもトボトボとすっかり日も暮れた街路を歩いていた。
「……け、賢人!?」
だがそんな俺を後ろから驚いたように声をかける者があった。……その声に俺は思わず振り返る。
「……美雪」
そこには、制服姿ではなくラフな私服姿の美雪が、息切れしながら立っていた。……走ってきたのか。だが何故今頃? 遅くなるならなるで連絡をくれればよかったのに、何故今頃外出してるんだろうか。
「……こんな時間に外出か? 暗いし送ってやろうか?」
俺はとりあえず何もなかったかのように言う。……美雪の家は今美雪が走ってきた方向にある。急いでこっち方面に来たことは明白だったが。
「……ごめんなさい!」
すると美雪は俺が白を切ったのにも関わらず、深く思いっきり頭を下げた。……どうやら無視していたかは分からないが、メールを読んではいたようだ。
「……別にいいって」
俺はそう言って美雪に頭を上げさせる。……正直かなり傷付いたが、今はそれを言うべきじゃない。大体謝るのは俺の方なんだから。
「……俺こそ悪かったな。いくら怒ってたとはいえ、酷いこと言ったし」
俺はとりあえず謝っておく。
「……ううん。私こそ謝らないと。その、賢人のご両親があの……」
「……別にいいって言ってるだろ。それより送ろうか? もう遅いし」
美雪が言い淀んだので俺は苦笑して話題を変える。……本当に怒ってはいない。俺の両親については知らないヤツの方が多いと思うし、メールの呼び出しに応じなかったのも美雪がかなり怒ってのことだったら説明がつく。俺が悪いんだと思えば、そこまで怒る程のことでもないしな。
「……ありがと。でも、ホントにごめんなさい」
美雪は少しホッとしたように笑って、また頭を下げる。
「……だからいいって」
俺は苦笑しながら美雪と一緒に歩いて家まで送る。
その道中の雑談で、大分美雪との距離は戻ってきたと思う。




