じゃ、仲直りだ
「……で、てめえは何でこんな場所にいやがったんだ?」
俺と須藤は公園の高いコンクリートマウンテンで隣に並んで座って夜空を見上げていた。……ここでこいつと一緒にいるのは美雪のせいが九割なんだが、学校で一々突っかかってこられるのも面倒だし、ここらでケリを着けることにしたのもある。
「……別に、ここがちょっとした思い出の場所的なもんだったからここだけは壊されたくないと思ってただけだ」
俺は半分本当のことを言う。……それは後半の理由であり、俺がここに来た理由の元々は両親の命日で無意識に公園来てしまっていたんだが。
「……そうか」
須藤は特に突っかかってくることもなく頷いて、それ以上は聞かなかった。……何だ? 急に理解のあるヤツみたいな反応をしやがって。
「……何だよ、急に。気持ち悪いぞ?」
俺はちょっと須藤から離れて嫌そうな顔をし言った。
「……気持ち悪いとか言うんじゃねえよ」
須藤はギロリと俺を睨んでくるが、不思議とイラつかない。
「……で、何で俺は呼び出されてんの?」
決着をつけるつもりでいたのは確かだが、俺は美雪を介して須藤に呼び出される形となっており、受けたからにはきっぱり言うつもりだが先に須藤の用件を聞くべきだろう。
「……悪かったな」
……は?
数分にも感じる長い間を置いて、須藤はそう言った。消え入るような声で、そっぽを向いてではあったが。
「……二度は言わねえぞ」
須藤は照れたのかそれともただの錯覚か、顔を赤くして睨んできた。
「……まあ、ちゃんと聞こえたからいいんだけど。何についてのなんだ?」
俺は驚いてしまい戸惑ったが、何についての謝罪なのか分からなかった。俺に突っかかってきたことなのか、両親をバカにしたことなのか、俺を正義の味方じゃないと言ったことなのか。……最後のについては別に謝られる必要はないんだが。
「……お前の両親をバカにしたことについてだよ」
意外と、俺が一番重要だと思っていることについての謝罪だった。いきなりどうしたのかと聞きたいが、ここは須藤の言葉を待つべきだろう。
「……俺は、この前まで県外の高校に通ってた。巨大テネスの出現やらβに適性があって早くから戦ってた俺を諜報員として送り込むために、博士から要請があってお前らと同じ高校に編入することになったんだ」
須藤は俺が待っているのを察してか、語り始めた。
「……表向きはその二つが理由なんだが、俺が選ばれたのにはもう一つ理由がある。いきなり編入してきたヤツが地の利もなくテネスと戦うのは不利だし、巨大テネスが出現したらどこに街の避難所があってどこに誘導したらいいのかってのが分からねえといけねえ。その点俺は小学生ん時までここで暮らしてたって経緯があってな。俺が選ばれたって訳だ」
須藤はそう言って手を後ろに着き、夜空を見上げる。
「……俺の家族は全員生きてるが、一回、死にかけたことがあった。俺と両親で街のシンボルになるっていうでかいタワーに行った時だ」
「っ……!」
須藤が言ったその場所は、つまり俺の両親の死んだ場所でもある。
「……両親が守ってくれたおかげで俺は火傷一つ負っちゃいねえが、両親は最後まで残ってたってこともあって酷い状態だった。生きてるのは……そうだな。お前の両親のおかげだ」
須藤は少し自嘲気味に笑って言った。……泣きそうな顔にも見えた気がする。
「……俺達三人は最後の客だった。消防士が来た時はマジで嬉しかったし、助かるんだと思った。俺達三人はその二人の消防士が来たっていう道を通って外に出て、その二人が他に人がいないか探しにいくのを見送ってた」
須藤は再び空を仰ぎ言う。……ってことは何か? お前が助けられといて両親をバカにしやがったのか?
「……俺達は自分のことで精一杯だったし、生存者の確認が完璧じゃなかったのも要因だが、お前の両親に助けられて、今俺の家族は生きてるってのは事実だ」
「……。何で、それで、命の恩人をバカに出来る?」
今自分の家族が生きてるのはその消防士二人のおかげだと思っていながら、その二人をバカに出来た意味が分からない。
「……命の恩人だからこそ、お前を挑発出来たんだよ。俺がもし何も知らないヤツだったらお前も受け流すぐらいはしただろうが、俺が目の前でお前の両親の偉大さを知ってるからこそ、お前がぶん殴りたくなるような演技が出来たんだろうが」
須藤は殴られる準備をするためだろう、ギリッと歯を食い縛った。……もちろん殴るさ。両親の成果を知っておきながらバカにしやがったヤツなんか、殴られて当然だと思う。それを須藤は分かってるんだろう。
だから俺は、須藤の顔面を殴ってやった。須藤の方を見ないでの拳だったので、あまり威力はないハズだ。
「……いってえな」
「……これで、許してやるよ。俺の両親をバカにしたこと。お前が両親を凄い人だと思ってくれてんなら、明日にでも墓参り行けよ」
俺は須藤が悲しそうな顔をして殴られた頬を押さえるのを見ずに、後ろに手を着いて天を仰ぎ言った。
「……ああ。分かってる。命日には行けなかったからな。明日にでも行くさ」
須藤はどこか清々しい顔で頷いた。
「……じゃ、俺はこれでもう帰るからな。精々頑張ってくれよ、正義の味方さん」
俺は言って、少し気が晴れたような心持ちでコンクリートマウンテンを下りる。
「……待てよ。てめえの両親は命を賭けてこの街を守った。英雄なんて呼ばれてるような人だ。それなのにてめえは正義の味方にはならないってのかよ」
須藤は若干苛立ったように俺を呼び止める。……もしかしたら須藤は、両親の活躍を知ってるだけに俺が燻ってるのを見てイライラしてたのかもしれない。だから俺を挑発した、とかな。
まあそれは本人に聞かなきゃ分からないことだが。
「……勘違いしてるようだから言っとくぞ、須藤。俺も、親父も、母さんも、そんな風に言われたくて人を救ってるんじゃねえんだよ。ただ、自分のやりたいことをやってるだけだ」
俺は振り返って須藤を見据え、告げた。……両親については俺の推測でしかないが、あながち間違ってはいないと思う。
俺は何も言わない須藤から目を逸らし、そのまま自宅へと足を運んだ。




