そういえば、今日だったな
おっさんに呼び出されてから一週間、特に何も起きなかった。
それはいいことでもあり、悪いことでもある。
敵が巨大テネスの量産を行い攻めてくることも、予想外に強いテネスが出て俺も戦わなければならないということもなかった。
だが敵アジトの手がかりを掴むことも、学校にあると思われるアメについて知ることもなかった。
つまり、何も進展がなかった訳である。
「……」
そして俺はといえば、放課後になって何となく、近所の比較的大きな公園のザイルクライミングの頂上に座って夕日を眺めていた。
……ここは確か、小さい頃。まだ俺が小学二年生の頃だっただろうか。あの頃の俺は両親が死に落ち込んでいて学校が終わるとここに来て沈む夕日を眺めていた。泣きはしなかった。泣くのは人に聞こえるような場所ではなく、独りになってからと、自分の部屋でと決めていた。
……子供心に弱みを見せまいと意地を張ってたんだと思う。
両親は職業柄家にいることが少なかった。だがたまの休みには姉ちゃんと俺を連れて遊びに行かせてくれたりと忙しい中で家族と過ごす時間も作ってくれた。
仕事上遊びに出かける予定が緊急の要請で仕事が入ることもあったが、両親の仕事を誇らしく思っていたので寂しい思いが表に出てくることもなかった。
もちろん参観日に出席することもなかった。三者面談で姉ちゃんが代わりを務めることも多かった。
参観日に親が来ないってのがイジメになることもあるというし、俺も実際にからかわれたりした。だが俺はその時言ってやったのだ。両親の職業を。
「……スゲー。正義の味方みたいだ」
とは誰の言葉だったか。確か、宏介だった気がする。
その言葉を聞いた俺は嬉しくなり、両親が誇らしく思った。ある日宏介が公園で苛められているのを見た時、他クラスのガキ大将達に突っ込んでいったのはこの言葉に触発されてのことだったと思う。
翌日あちこちを殴られ蹴られてボロボロになった俺を見たクラスメイト達がどよめいていたが、宏介が意気揚々とその時のことを(脚色を混ぜて)言うので一躍俺は人気者となった。
小学生のなりたい職業でも上位に入るだろう職業に就いてる両親がいて、学校でも幅を利かせているガキ大将に立ち向かったともなれば、当然のことかもしれない。
だがその人気は、長くは続かなかった。
小学校二年生の時、四月十六日。
この街でもここ十年とない、大事故が起こった。
以前から建築が進められやっと完成した五十階建てのタワービルでのことだ。後日様々なことをしようとしていた場所だけあってか、自由参加型の立食パーティーが行われた。
もちろん街のシンボルとなるかもしれない程の建物だ、ここや近隣の街からも大勢の人達が一目タワービルの内装を見ようと集まった。
だが立食パーティー開催初日、その事件は起こった。一階、十階……と四十階まである食事を作る調理場で、相次ぐようにトラブルが発生したのだ。ガス漏れと引火。
つまりは、火事だった。
もちろん調理場を含む様々な場所に火災報知機やスプリンクラーが設置されていたのだが、何故か作動しない。
つまり客が気付いた時にはすでに、八方塞だったという訳だ。
何でこんな惨事になったかと言えば、簡単に言えば建設会社の不備だった。
ガス漏れと引火、スプリンクラーと火災報知機の不備、さらにはエレベーターの故障などの相次ぐトラブルによってビル内はあっと言う間に混乱の渦に巻き込まれた。
だが調理場では素早い対応が行われ、幸いにもそこでの死傷者はなし。爆発による火傷を負った者はいたが命には別状がなかった。
最初に異変を察知した総シェフはすぐさま調理場各所に連絡し、火を使わないように指示をした。そのため引火があったのは一階、十階、四十階の三箇所のみである。
引火した場所の都合上、一階にいた人達は自力で脱出。二階から十階の人達は駆けつけた消防士によって救出。十一階から四十階にいた人達の大半は二十から三十の間に固まっていた。火が迫ってくれば漏れたガスに引火し危険な状況となるが、火から逃れるためにはそこが一番だった。四十一階以上の人達は屋上へ避難しヘリで救出。
残るは二十から三十の間に固まっている人達のみとなった。その内の何人かは早めに非常階段から脱出し、その他の人達は窓際に集まって消防士の救援を待っていた。
その映像は、俺も家のテレビで見ていた。実際に見ていた訳じゃない。
危険な場所なのは分かってたし、仕事とはいえ死地に向かう両親を引き止めたのは仕方がないと言える。
ニュースキャスターが火事の現場となっているタワービルを背景に消防士による必死の消火活動が行われていると報道がある。だがガス漏れということでガスを止めなければ勢いは強まるばかり。ジリ貧だった。
そこで外からの救出と、中への特攻が開始された。
両親は、屋上から中へ特攻する消防士の中に、入っていた。
ほとんど顔は見えない。だが何となく分かった。
今まで仕事をしている姿を見たことはなかった。でも何となく分かった。
これが自分の両親なんだ、と。
自分の命を危険に晒してまで人の命を助けようとする、正義の味方なんだ、と。
俺と姉ちゃんがテレビに釘づけとなっていたその日。
両親は帰らぬ人となった――。




