それは、面倒だな
どんどん進めます
「……」
俺は教室で転校生の須藤をぶん殴った翌日、先生には呼ばれなかったので少しホッとしていたのだが、クラスメイトには避けられていた。……まあ親をバカにされただけのことで何発も顔面を殴れば、そりゃ引かれる。俺の家事情がちょっと特殊だからといって、それは関係ないだろう。事情を知らないヤツからすれば、ただの切れやすい野郎だ。
俺は宏介ともあまり話をせずに一日を過ごすと、放課後になってすぐ帰ろうとしたところに、坂井理奈が話しかけてきた。何やらおっさん(俺にベルトを渡してきたヤツ)から話があるという。
仕方がないので指定された廃墟の地下に向かったのだが、そこにはおっさん、坂井、須藤、それに浅井がいた。……俺はあからさまに嫌そうな顔をして地下へと下りていく。
「……で、何の用だ?」
「はっ。そんなことも聞かされてねえのかよ。やっぱ役不足のてめえじゃ正義の味方は荷が重いってんで見限られてんじゃねえか?」
「……で、何の用だ?」
俺は嘲笑して俺を煽ってくる須藤を無視し、もう一度問い直した。
「……無視してんじゃねえよ、偽善野郎が。パパとママがいなくて寂しいのかよ?」
ハッ、と鼻で笑い須藤がさらに煽ってくる。……煩いな。
「……で、何の用だ、おっさん」
俺はそれも無視しておっさんを正面に見据え、再度尋ねた。おっさんの表情は読めない。穏やかな微笑を浮かべるのみだ。……実は何も考えてないんじゃねえだろうな、こいつ。
「……そんなことはない」
いきなり、おっさんが口を開いた。……人の心を読んでんじゃねえよ。まあ須藤がまた俺を煽ろうとしてたからそれを防げていいとは思うけどな。
「……はっ! てめえはもう用済みだって話だよ!」
須藤はチャンスとばかりに俺を嘲った。
「……須藤切也君。話を進めるから少し、私に時間をくれないか」
「……チッ」
おっさんの優しく穏やかで、しかし迫力ある声音に須藤は舌打ちして黙った。……随分と従順だな。今度からこいつに何か言われた時にはおっさんに言おうかな。
「……それでは話を始めよう。実は、日本中に散らばっているアウラ達が連携を取っている場所に、巨大テネスが出現するようになった。もちろん三人がかりで何とか倒し、巨大にすることを優先するあまりまだ周囲が覚えられるように改良はされていない。だからこそニュースにはなっていないが、日本は今かなり危険な状況に陥っている」
……そんなことが起こってるのか。さすがにニュースになっていないことまでは知らないが、もうかなりマズいことになってるんだろう。
「……ここ周辺は開発者がいるため巨大テネスの量産も可能になってくるだろう。数日の間に巨大テネスが出現することも考慮しなければならない。そこで私は、新たにアウラ、βである須藤切也君をこの街へ呼び戻した。元々彼はこの街にいて、アウラの始祖であるαの君が見つかったことで他の街に移動してもらっていたのだ」
あんなのが次々と、か。いや、一斉に、という可能性もあるが。……アウラの始祖か。そんなことは初めて聞いたが、俺よりも坂井や須藤の方が早かったんだ。αってのが始祖であっても、俺がそうとは限らないかもしれない。まあよく分からんしな。
「……で、本題は?」
俺はおっさんに先を促す。
「……本題だが、君にはこれから仮の拠点となるここに、要請があったら来てもらいたい」
……拠点、ねえ。まあ何かが潜むには持ってこいな廃墟だが。
「……要請ってのは、具体的にどんなことでだ?」
「……明確な敵や、敵の拠点、テネスの進化についてなどの情報を渡すため。または新しい武器を開発した時だろう」
「……」
おっさんは俺の目を真っ直ぐに見つめ、言った。……どうやらこのおっさんは分かっているようだ。俺が、須藤に言われた通りもう正義の味方をやる気がないということに。
まあ説得されようがその辺は俺の我を通させてもらうけどな。
「……それで、だ。近い内巨大テネスが出現すると思われるが、この街に人は次第に増えている。さらに守りにくくなる。この街が戦いの最前線だということを知らずに」
おっさんは言った。……守るモノが多くなると守るのは難しさを増す。守らずに攻めるのが一番簡単で被害が少ないからこそ、早急に敵アジトを発見することが望ましいんだが。
「……それと、少しキナ臭い話を聞いた。君達の学校に、大量購入されたアメが流通しているという」
「「っ!?」」
その言葉に俺と坂井は少なからず驚く。……学校にアメが流通? 何でそんなことに……。いや待て。なら何でそんなことが噂になってないんだ? テネスになってしまうアメの存在は、一応クラスメイトも知っているハズだ。テネスに自我が芽生え記憶が残るようになってきた今、アメを食わされて変化するってのは分かるハズ。なのに情報がない。これはどういうことなのか。
「……君達が驚くのも分かる。だが正義の味方――つまりは羽白川賢人君、君のことだが――が現れた時期から敵側と繋がりを作った者がいたという。誰かはまだ調査中だが、厄介なことになる前に何とかしたい」
……俺が正義の味方をやり始めた時期から、それに対抗するようにテネスの力を欲しがったヤツがいるってことなのか?
「……この件に関して須藤切也君を君達の学校に転校させた。調査中なので詳しいことは分からないが、分かり次第解決に持っていきたいと考えている。だがその前に目の前のことに手をつけなければならないだろう。三人共、頼むよ」
おっさんはそう締め括った。……学校に未曾有の危機が迫ってるとなれば俺も動かされることもあるかもしれないが、巨大テネス対策を含めて須藤が来たんだ。俺の出番はないかもしれない。
「……」
俺は何も言わず、来た道を引き返して仮の拠点を出た。




