ああん、何だって?
一ヶ月振りぐらいです
「「「……」」」
俺が翌朝教室に入ると、ざわざわと雑談していたクラスメイト達が静まり返った。
……きっと俺が正義の味方だと分かって、色々距離感を感じているんだろう。
俺はそう思って静かに溜め息をつき、隣を寄り添うように歩く美雪と共に自分の席に向かって歩いていく。
「……おい」
俺が肩に担いでいたスクバを机の横にかけていると、咎めるような口調で呼ばれた。俺が顔を上げるとそこには、怒ったように睨んできている宏介がいた。
「……」
俺は何を言われようとも受け止める覚悟をして、宏介を見つめる。
「……何で、何で昨日の今日でお前らそんなに仲良くなってんだよ!?」
だが、俺の心配は懸念に終わる。バン! と机を両手で叩いた宏介はそう言ったのだ。……手、痛そうだな。
俺が他人事のように思っていると、宏介はこちらを睨んだまま手を机から放してプラプラとする。……痛かったんだな、やっぱり。
「……あん?」
俺は一瞬何を言われたのか理解出来なくて、宏介に聞き返す。
「……だ・か・ら! 何で昨日の今日でお前らそんなに仲良くなってんだよって言ってんだよ!」
宏介は丁寧に一言一句違わずに繰り返した。……こいつ、何言ってんの?
「……いや、別にそれはお前らも知っての通り、退院して美雪ん家に泊まってたからだが?」
俺は不可解に思いつつも、首を傾げて問いに答える。
「それは知ってるけど! 腕組んでんじゃん!」
「……別に腕は組んでないだろ」
「俺からしてみれば一緒だ! てめえこの野郎、裏切りやがって! 俺達彼女いない同盟としてやってきただろうが!」
宏介はまるで、それが最重要事項であるかのように怒鳴ってくる。……こいつは、ホント……。
「……美雪は彼女じゃないぞ。俺は彼女いないし」
俺は内心では別のことで呆れながら、表面上も呆れて言う。
「……ほう? 本当か、委員長?」
「……え、ええ」
宏介はわざとらしく眉を跳ね上げると、今度は美雪にジロリと目を向け尋ねた。美雪はそれに若干引いていたが、頷く。
「……仕方ない。委員長がそう言うなら信じてやるか」
宏介は偉そうに言ってうんうんと頷く。
「……おい。俺の言うことは信用ならないってか? ってかさ、お前怒ってないの?」
俺はジト目で言ってから、核心へと迫る質問をする。
「ん? 何がだ?」
だが宏介は察しが付かないとでもいうかのように首を傾げやがった。
「……だから、俺が正義の味方だって黙ってたことだよ」
俺がそう言うと、クラスメイトの何人かが気まずそうに視線を逸らした。
「……はぁ」
すると何故か、宏介は呆れ切ったように溜め息を漏らした。……何だよ。
「……他はそうかもしんないけどさ、俺からしてみればお前が正義の味方だったとか、ありがちすぎてつまんない!」
ビシッと俺に人差し指を突き付けて言った。
「……は?」
何言ってんだ、こいつ? みたいな目でクラス中から見られる宏介だが構わず、
「俺がお前と何年付き合ってると思ってんだ? お前が自分を省みないで他人を救うヤツだってことくらい知ってんだよ。だから、何の面白みもねえ。……俺とお前が出会ったあの時もそうだった――」
「あっ、回想とかいいから」
「入らせろよ! ここ結構感動するとこだぞ!?」
「……知るかよ。なんとなくむしゃくしゃしてやったことを美談みたいに語られるのは嫌だしな」
「なんとなくだったのかよ!? 俺結構鮮明に残ってるんだけど!?」
「……消しとけ。別に、俺は人を助けたいんじゃないからな。ただ自分がそうしたいからやっただけだ。敵が現れた! ぶん殴った! みたいな?」
「……お前、マジ身勝手な。でもそれが人を救うことだってあるんだぜ?」
「たまたまだろ」
「たまたまを何回起こせばいいんだよ。この街のほとんどを救ったんだぜ?」
「……おいおい。ほとんどって酷いな。死者零名だぜ? 建物ぶっ壊しまくったことで怪我したヤツはいるけどな。だから俺は街を救った訳じゃねえよ」
「……そうかよ。ま、俺はそんなことよりお前が彼女作る方が許せないけどな」
言い合いを終え、宏介はけっと吐き捨てる。
……何て言うか、こいつみたいなのがいると、有り難いよな。ハズいから口には出さねえけど。
昨日ネットを見たら、怪我人が出たことに対して叩かれまくっていた。……もちろん傷付いたさ。それでも助かった人が擁護してくれたからよかったが、叩くヤツの方が多くてちょっと落ち込んだりもしたんだ。
俺と一番長い付き合いである宏介がそう言ってくれるのは、正直かなり救われた気がした。
「……温いな」
バキッ! という破砕音が聞こえ、真っ二つに折られたドアが吹っ飛んでくる。
「……あん?」
俺は随分と行儀の悪い入り方をしてきたそいつを睨みつける。
そいつは柄悪く赤いシャツをYシャツの中に着込み、裾をズボンから出している。ズボンも足にかかる程タボタボにしている。制服の上を脱いで肩に担いでいるのも不良っぽい。ってか顔はいいのに目つきが悪すぎる。薄い黒色をした短髪は逆立てている。
「……温いって言ったんだよ。仲良く友達ごっこかよ。アルファがこんなんじゃ、今回のは諦めるしかねえな」
チッ、とあからさまに舌打ちして、そいつは教室の中に入ってくる。
「……あ?」
俺はこいつが何故アルファだという単語を知っているのか疑問に思わないでもなかったが、なんとなくムカついたので睨んでやる。
「……何だ? 碌に人々を守れない上に正体まで晒すようなバカな正義の味方が、何か文句あんのか?」
そいつは俺を見てせせら笑う。
「……誰が自分から正義の味方を名乗ったよ」
「それが甘えっつってんだよ。自分は正義に味方じゃねえから人を守る義理はねえってか? 最低だな」
「……言いたいことはそれだけか?」
俺は沸々と湧き上がる怒りを無視し、そいつを見据える。
「あん?」
「……だから言っただろ? 俺は正義の味方なんかじゃない。人を守る義理もねえよ。最低? 別にそれでいい。勝手に言ってろ」
「……チッ。今回のアルファは予想以上のクソだな。そうかよ、じゃあもうてめえは戦わなくていい。これからは俺がやる」
俺が言うと、そいつは心底失望したかのような表情を浮かべ、苛立たしげに舌打ちする。
「……そうか。それは有り難いな。もうこれで、俺が危険に晒されることもなくなる訳だ」
俺はせいせいするかのように薄く笑う。
「……はっ。てめえはそこで燻ってろよ。てめえはもう、必要ねえ」
「……じゃあ最初から巻き込むなよ。一般人をさ」
挑発するかのように嘲笑うそいつに対し、俺は溜め息をついて言い、席に着く。
「……けっ」
「……ああ、あとお前、ドアはちゃんと弁償しろよ。正義の味方様」
「あ!?」
吐き捨てるそいつに向けて俺が言うと、ギロリと睨んできた。
「……何だ? 正義の味方がまさか、自分で壊したドアの修理代を払わないってのか? 随分偉そうなことだな」
「……てめえ……!」
そいつはかなり怒ったようで睨みつけてる。……まあ、そう言う俺も自分で(変身した時に)壊した建物とかの修理代は出してないけどな。
自分のことを棚に上げてとは、よく言ったもんだ。
「……はっ。いいぜ、俺はちゃんと払ってやるよ。どこかの似非野郎とは違ってな!」
そいつは俺を睨みつけ、教室で一つだけ空いている席に座る。……転校生なのか、こいつ。こんなヤツ知らないしな。
……昨日の件もあって、これからは二人以上の正義の味方が必要だと判断したのか、それとも俺がお払い箱なだけか。まあどっちでもいい。
挑発的なそいつには何も言わず、沈黙を保つ。……いや、何も言えないの間違いか。俺は正義の味方なんかじゃない。俺の都合で戦ってるだけのお調子者だ。正義の味方だなんだと煽てられて調子に乗ってたのかもしれない。
「……はぁ」
静まり返った教室の中で一人、坂井理奈が溜め息をついていた。




