あっ、正義の味方です
二話目です。
まだまだ続きますので、どうぞよろしくお願いいたします。
「ふあぁ」
俺は大きく欠伸をしながら歩く。
現在高校の登校日初日、つまりは入学式の日だが、俺ははっきり言って来たくなかった。
それはーー
「おーっす。今日もイケメンで羨ましいな、おい!」
軽く挨拶してくるのは中学からの親友、居桐屋宏介。眼鏡に女好きの、よくいるウザい奴って感じ。
確実に脇役だよな、口には出さないけど。
「誰がイケメンだよ」
一応ツッコんでおく。俺は普通くらいだと思うぞ。
「はぁ。これだから優男は……」
宏介がため息をつきながら言う。だからさ、俺はそんなモテるような人間じゃねえよ。
「ったく。俺はそんないい奴じゃねえっての」
文句を言うように呟く。
「まあお前はモテてるからいいだろうけどな。それより本題はこれからだ」
何だよ。俺がモテてるなら俺が鈍感ってことかよ。まあ俺はモテないけどな。
「これ! 知ってんだろうな!」
急にテンションが上がって若干引いた。
「ん?」
それは新聞だった。
「ここの見出し!」
宏介がそこを指差す。その見出しは『謎の正義の味方あらわる!!』と書いてあった。
その正義の味方とやらは、黒いフォルムに全身を包んだ姿で、記者を助けたらしく、写真を後ろから撮られていた。
「……」
ミスった……。俺がこんなへまをするとは……。
「ん? どした?」
宏介が鋭く聞いてくる。
「いや。黒って、悪っぽいなぁ、と思ってな」
適当な理由を付けとく。
「バカ野郎! 黒って、カッコいいじゃねえかよ!」
宏介が俺に詰め寄って怒鳴る。
「何熱くなってんだよ」
余計ウザいな。
「なぬっ!?」
なぬっ!? じゃねえっての。
「もしかして、ファンなのか?」
本人として聞くのはハズいが、聞く。
「まあな。だが、結構いるんだぞ、ファン」
マジか。
「男にも憧れてファンになる奴はいるが、女子率がぱない」
「何でそんなに詳しいんだよ」
気持ち悪いぞ?
「ああ、ファンクラブのブログあるからすぐにわかんだよ」
は?
「今何つった?」
「ん? ブログあるから?」
「違うその前!」
俺の聞き間違いだといいんだが……。
「ファンクラブ」
「それだ!」
何でそんなもんがあんだよ。
「おいおい。誰がそんなもん作ったんだよ」
俺は呆れて言う。
「知らんが、最初に助けられた女子らしいぞ」
あの娘か……。余計なことを……!
「日本中に広がってんの?」
「そりゃもちろん。出没地域はここら一帯らしいけどな」
そりゃそうだ。俺は金持ちじゃねえから遠くまでは行けねえよ。
「中の人はわかってないのか?」
それが一番聞きたい。
「いや。敵を倒してすぐにどっか行くんだってよ」
バレたら困るしな。
「だが、高校生の身長百七十以上、ってことはわかってんだよ」
それってかなり限られるよな?
「だいたいお前くらいってことじゃないか?」
宏介が俺を見て言う。……お前、何故か鋭いよな。勘だろうに。
「って、何で高校生ってわかんだ?」
顔は隠れてるハズだぞ?
「声」
簡単過ぎんだろ!
「声紋を調べたらすぐわかるのにな」
その手があったか! ヤベえじゃん、俺。
「ん? だったら何で見つかんないんだ?」
「ファンが自分たちで見つけるからいいってやめさせた」
ナイス! ありがたいぜ、ファン! 意外といい感じじゃん。
「じゃあお前も探してんの?」
「おうよ。高校生なら、ここにだっているかもしんないからな」
ってか、ここにいるし。
「まあ頑張って探してくれよ」
「何言ってんだよ。お前も探しに行くんだよ」
「はあ?」
俺が俺を探してどうするよ。
「敵に襲われればいいんだろ」
あん?
「ふざけんなよ。首突っ込まれて助ける身にもなってみろよ。自分が大切にしてるもんを軽く扱われてるんだぞ? いい迷惑だろ」
俺はかなり怒って言った。さすがにそれは本人じゃなくてもイラッとくる。
「あー、え~っと、……すまん」
さすがに気まずくなったのか、謝る。
「……俺もいきなり怒って悪かったな」
言い過ぎたと思って謝る。
「じゃあ街を徘徊してるか」
「……おい」
全然わかってねえよ。
「これから入学式だろ。サボんな」
早速行こうとする宏介をひきずって校舎へと向かった。
「ちょっ、入学式ぐらいサボろうぜ!? なあってば!」
喚く宏介を無視して先を急いだ。
◇
「では、入学式を始めます」
眠いな。昨日の夜は夜更かししてないってのに。
入学式効果だろうか。
「って、始まったばっかじゃねえかよ」
睡魔と戦闘中なので弱々しく言う。
「生徒会長の話」
長いって。もう寝るよ? 俺の睡魔めっちゃ強いから。今日はまだ頑張った方だし。
「理事長の話」
長いっての。もう……眠い……。
◆
「これで入学式を終わります」
ん?
「教室に戻って自己紹介などをしてください」
ああ、寝てたのか。始まって終わったよ。
「ふあぁ」
大あくびが出た。
「ねみーな。もう一回寝たい」
寝ぼけてて頭が働かないな。
寝ぼけ眼を擦りながら、教室に向かった。確か、一年二組だったか。宏介と同じクラスだ。
「相変わらす式に弱いな。いっつも寝る」
向かってる途中で宏介が話しかけてきた。
「卒業式で寝てた時にはさすがにビックリしたぞ」
ああ、あれか。
卒業式の卒業証書授与ん時に寝てて、全校に笑われるというあれだ。
「しょーがないだろ。俺はタイミングが悪かっただけだ」
皆寝てただろ。
「まあな」
宏介が苦笑して言う。
そんな感じで、新教室へと向かって行った。