ん、別にいいけど
「ったく。何で俺が料理しなきゃいけないんだよ」
俺はとりあえず冷蔵庫を漁りながらぼやく。
「……まあ、作るけどな」
美雪に頼まれたし。
「……ふむ」
一通り冷蔵庫を漁ってみたが、やや冷凍食品が多めだ。俺は出来るだけ手料理を作るようにしてるが、美雪は手料理と冷凍食品が半々だろうか。
「……独り暮らしに飲み物四本はいらんだろ」
何より。
お茶、炭酸飲料、オレンジジュース、スポーツドリンクまである。気分によって変えるんだろうか?
まあ、冷凍食品が多いと言っても、冷蔵庫がかなり大きいので、色々食品も揃ってるし、別に問題ない。
「う~ん。結構あって悩むな」
あるものだけで作ろうかと思ってたが。
「こんだけ材料が揃ってれば、思い付いたもんでも作れるんだけどな」
俺は買い物ん時に必要なもんしか買わないから、冷蔵庫にはその日の材料しか入ってない時って多いし。
「とりあえず、俺が食いたいもんでも作るか」
美雪の食いたいもんは知らんが。
「うっし。とりあえず汁物から作るか」
美雪に借りたエプロンを装着して、晩飯の調理に取り掛かった。
▼△▼△▼△▼△
「ん、いい匂い」
美雪は風呂から上がって、ソファーでのんびりしていた。
「もうすぐ出来るからな。もうちょい待ってろ」
調理も終盤に差し掛かっている。美雪は手伝いたいと言ったが、俺がお世話になるからせめてもの礼だと言って止めた。まあ、美雪をびっくりさせたいってのもあるが。
「悪いわね、ご飯を作ってもらっちゃって」
「別にいいって。こっちは泊まらせてもらう身だしな」
さっきも言ったが。
「泊まってもらうのも、私が無理矢理お願いしたからだから、別にお世話になるから、とかは気にしなくていいわよ」
すっかり元の落ち着いた雰囲気に戻っている。
風呂で整理をつけたんだろう。風呂って意外と考えるにはいいんだよな。
「よしっ、出来た。美雪、飯だぞ」
俺は料理が完成して、美雪に呼び掛ける。
「わかったわ」
美雪はソファーから立ち上がって、テーブルの席に着く。
「ご飯に味噌汁? 意外と普通ね」
美雪はテーブルの上にある物を見て言う。そう、俺はまだご飯と味噌汁だけしかテーブルに出してない。
主役は遅れてくるのが普通だからだ。
「ああ。メインディッシュはあるから心配すんな」
まず、テーブルに酢豚を置く。
ちゃんとした手作りだ。
「次はこれ」
キムチをテーブルに置く。ちなみに、これは市販のだ。
「キムチ?」
「そしてこちらが本日のメインディッシュになります」
俺は、薄いピザを二枚置く。一人一枚計算だ。
「ピザ?」
テーブルに並べられた品々を見て美雪は首を傾げていた。
「では問題です。これは何の集まりでしょう?」
ちょっと雑な問題だが。
「……日本、中国、韓国、イタリアの料理でしょ? 皆バラバラな国の料理ってことじゃないの?」
おっ、いいとこに気が付いたな。
「ブブー。不正解。正解は、俺の食べたいものでしたー」
作る前にちゃんとそう言ったし。
「……そんなの知らないわよ」
美雪は呆れ顔で言う。
「不正解だった罰として、ジュースは抜きです」
「えっ? そ、それだけは駄目よ。一日三本五リットルが私のモットーなの」
どんなモットーだよ。
「そんなモットーは捨てなさい。ジュース代が勿体ない」
一年三百六十五日で千九十五本の計算じゃねえかよ。一本百五十円だとしたら、……計算めんど。ってか、俺は数学は苦手なのに暗算なんか出来ないっての。
「一食一本よ。別に普通でしょ?」
いや、飲み過ぎだから。
「一食一本の三分の一ぐらいが精々だっての」
夏は半分ぐらいいくかもしれないが。
「それでよく喉が渇かないわね。不思議よ」
……あんさんのその細い身体のどこに約二リットルのジュースが入るんだよ。そっちの方が不思議だ。
「まあ、とりあえず美雪の飲み過ぎの件は諦めよう」
止められないだろうしな。
「飲み過ぎじゃないわよ。失礼ね」
「いや、明らかに飲み過ぎだろ。他のヤツに聞いてみろ。『一日何リットルぐらい飲む?』、『う~ん。二リットルぐらいかなぁ』。そうやって答えるに決まってるだろ」
俺も二、三リットルが普通だ。
「……そんなことはないわ」
だったらその間は何だ。
「ま、いっか。んじゃ、飯食おうぜ。いい加減食わないと、冷める」
「そうね」
「「いただきます」」
手を合わせて言う。
「……全部手作り?」
「ん? まあ、ピザ生地はさすがに作れないけどな」
やってみたいが。
美雪は黙って箸を置いた。
「不味かったか?」
「……いえ。むしろその逆よ」
?
「何で手作りでこんなに美味しいのよ!」
バン!
美雪は机を叩いて立ち上がった。
……は?
「美雪、料理出来ないのか?」
あんなに材料があんのに。
「……出来るか出来ないか微妙ね。どっちかって言えば出来ない方よ」
美雪は落ち着きを取り戻して椅子に座る。
「材料は結構あったぞ?」
「練習中なのよ。作っても失敗するから冷凍食品が多いけど」
なるほど、だから材料も冷凍食品も多いのか。
「お願いがあります」
「んあ?」
いきなり美雪が敬語を使った。
「私に料理を教えて下さい」
深々と頭を下げて言う。
「別にいいけど」
俺は即答する。
「その代わり、とりあえず飯全部食おうぜ」
全然進んでかない。
「ありがとう、賢人」
美雪は笑って言い、飯を再開した。




