熱気場の悩み人
当然と思い
当然に受け取り
当然を疑う
配点(甘え)
sideイリヤ
私は急いで壮のところに帰った。
不安だった。
『どうして私じゃないの?』
『こんなに愛してるのに!』
咲の言葉が頭の中をグルグルと駆け巡る。
『イリヤのそういう所、ホントにムカつく』
『大嫌い』
咲の怨嗟の声が頭を駆け巡る。
どうして私なんだろう。
どうして壮は私のことが好きになったんだろう?
私のどこが好きなんだろう?
私が壮を好きな所はいっぱいある。
あの何度でも立ち上がる所が好きだ。
あの不屈の闘心が好きだ。
あの優しい声が好きだ。
私を撫でてくれる手が好きだ。
私のことをジッと見つめてくれるあの瞳が大好きだ。
お猿さんみたいな挙動も好きだ。
一夜は語れそうだ。
じゃあ壮は、私のどんなところが好きなの?
私なんかの、どこが好きだっていうの?
こんな私の……こんな……最低な私の……
「おぉ、イリヤ。帰ってきたか」
「イリヤ!いいアイデアが思いつきましたよもう完璧ッ!」
壮と織火が笑顔で出迎えてくれる。
その笑顔に、私はどす黒い感情が沸き上がるのを自覚した。
嘘……友達が彼氏に話し掛けただけで、私……嫉妬してるの?
「壮は……壮は、私のどんなところが好きなの?」
「うん?急にどうしたんだよ、イリヤ」
「いいから、教えて?」
「一夜は語れるぜ?」
「さぁ、今日もバカップルの惚気が開始です」
「煩いな!これは彼氏彼女の自然な営みだよ!?」
「エロい!なんかエロいですね営みという2文字が!」
「織火!お前喜美に毒されていないか!?」
「いいから答えてよ壮ッ!」
思わずたたき付けるような叫びになってしまった。
「うん?まぁそう急かすな。どうだな、イリヤの好きな所か……髪だな。その綺麗な髪」
この銀髪……お母様にもらった自慢の髪だ。
でも、
「だったら銀髪なら誰でもいいの?」
「うーん、初期条件はクリアというか、必要条件というか……」
だったら、私じゃなくてもよかったの?
銀髪の美人なら誰でもよかったの?
「……他には?」
「その瞳だな。綺麗な紅だ」
「外面じゃないところでは?」
「その心意気。何だかんだ、諦めが悪いだろ?諦めが悪い女の子は好きだぜ」
「銀髪で、赤い目で、諦めの悪い子なら誰でもいいの?」
「おいおい、それ以外にもあるぜ?ちょっと嫉妬深いところもいとおかし」
「犯し!?」
「織火。お前本格的に喜美に毒されているな?一旦距離をおけ。ホントに」
つまり、壮は銀髪で赤い目で諦めが悪い嫉妬深い女なら誰でもいいんだ。
「……一体どうしたんですかイリヤ?いきなりそんなこと言い出して」
「そうだぞイリヤ。俺はイリヤのことが大好きだぜ」
「壮はッ!壮は……なんで私を好きになったの?」
もう訳がわからない。
どうして、どうして、と。
何度も怒鳴られるのだ。
頭の中で咲の叫びが響く。
「いや、イリヤ。今言ったじゃないですか。どうしたんですか?」
「そうだよイリヤ。俺はイリヤの」
「嘘だッ!お兄ちゃんみたいな男の人が、イリヤなんかを好きになるわけがないんだよッ!」
「イリヤ……俺は」
「止めてよ!もう止めてよお兄ちゃん!どうせイリヤのこと好きじゃないんでしょう!?ただ、憐れんだだけなんでしょう?」
「イリヤ、何を言ってるんだ?俺はお前のことが大好きだよ」
「止めて……止めてよ……どうして私なんかを……」
思えば不思議だった。
どうして壮みたいな男の人が、私なんかを好きになったのだろうか。
他にいい女はいっぱいいたのに。
知佳お姉さんだってそうだ。
私なんかよりも壮のことずっとわかっていて、壮をちゃんと叱って、一緒に並び立てるような人だ。
壮の隣に立つ資格のある人だ。
咲も、私よりずっと壮のことを愛している。
頑張って壮に愛情を向けている。
それなのに、私は何なの?
お兄ちゃんに愛されていると思っていた。
お兄ちゃんに愛される私が当然だと思っていた。
甘えていた。
お兄ちゃんの愛情に。
私が何をしなくても、絶対に壮はほかの女に靡かない。
いつも私を見てくれるんだ。
そう思っていた。
何もしていなかった。
お兄ちゃんの愛情をより得ようと、努力していなかった。
咲だったら何に代えてでも欲しいような機会を、私は平気で断った。
お兄ちゃんがデートの誘いをした時も断った。
洋服を買ってあげると言われた時も、あまり欲しいと思わなかったから断った。
咲なら、そのようなことは絶対にしなかったはずだ。
他のみんなが喉から手が出るほど欲しい物を、私は平気で捨てたりしていたのだ。
『ホントにムカつく』
あの言葉は、そういうことだったのか。
お兄ちゃんの愛情を当然として、あまつさえ選択してきた私。
壮の愛に甘えるだけで、自分からは何もしなかった私。
そんな私に咲はキレたのか。
「ほら、イリヤ。私なんか、はダメだろ?自分を高みに置くんだろ?」
「あ……」
そうだ。
それは喜美に言われていたこと。
自分を低くしてはいけないわ、と。
私の基本方針になった言葉。
でも、いつも失敗ばかりで、卑怯で、ずるくて、可愛くなくて、嫉妬深くて。
そんな私を高みにおけるわけがなかった。
でも、それでも……
「いいのよ兄さん。そういう奴はね、勝手に泥に塗れていればいいわ」
「喜美」
冷たい声が上から降ってくる。
喜美が帰ってきた。
「まさかここまでとはね。根が深いわ。見損なったわ、イリヤ。結局アンタの卑屈な精神、叩きなおすことはできなかったわ」
喜美がゴミを見るような目で私を見る。
「自分に自信がないならいいわ。自分から華を汚すなり、枯れるなり好きにしなさい。ああ、一人でね?」
冷酷な声が響く。
「はぁ。流石の私も堪忍袋が切れたわ。アンタの優柔不動な姿勢には呆れて物が言えるわ」
「喜美!喜美!装飾美麗に言葉使おうとしているのはわかるんですけど、なんかすごい感じで全然間違っていますよ!」
「「「「「お前が一番怪しいよ!」」」」」
「イリヤ。何があったのか知らないけれど、俺はイリヤが大好きだ。愛している。それこそ例を挙げたらキリがない。だからさ、イリヤがイヤだって言っても、俺は無理やりでもイリヤと結婚するから」
壮が私の肩を抱きしめてそう言ってくれる。
「もうお前は俺のものだ、イリヤ。俺と一緒に並び立とうぜ」
「……うん」
お兄ちゃんの言葉に何とか救われた。
私の意志とは無関係に結婚する。
ならば私がごちゃごちゃ考えていても気にせず結婚してくれるということだ。
よかった。
私、色々考えちゃうから。
「……フンッ!」
と、尻目に咲が見えた。
こちらを一瞬見て、そっぽを向いた。
さっきのお返しとばかりに私は壮の首に抱きついてキスを迫る。
「ちょ、イリヤこんなところで……」
関係ない。
舌を入れて、壮の口内を蹂躙する。
その様子をタップリと咲に見せつけてキスを終えた。
とりあえずコレが、私ができる愛されるための行動。
side喜美
フフフ、昼間っからキスとかバカップル全開で素敵ッ!
もう爆発しないかしら?女のほうだけ。
午後の競技も順調に消化していく。
大玉蹴り飛ばし競争は、私は軽く蹴り上げて、沙耶がトドメの空中キックを放つ。
「「これが、空中サッカーだ!」」
ネタを披露したが、みんなわからなかったらしい。
そう……もうキャプテン翼の時代じゃないのね……
これからは超次元サッカーなのね?
エクストリーム借り物競争は白熱した。
私の借り物は『シンデレラ城』と書いてあった。
どないせいっちゅうねん。
砂場でシンデレラ城を作って固めて持っていったらゴールした。
他のみんなは『リンデンロン』『光源氏』『ホルン協奏曲第3番』等々。
意味不明もいいところである。
第2走者の咲が借り物のカードをもってこちらに走ってきた。
「どうしたの!?咲!?」
「喜美、これどうしよう?」
出されたカードには
『コミケ会場限定発売の自動販売機のペットボトル2011年度版』
と書いてあった。
あんたらが欲しいだけでしょうがッ!
しかしこれだけ限定されてしまうと、探すものははっきりするが、どこにあるのかがまったく不明である。
「喜美、持ってない?」
「流石にコミケはいかないわね。そうね……誰か!誰か!今年のコミケに行った奴は!?」
「あ、俺行ったぜ」
颯爽と現れたのは父さんだった。
「ほら、いつも水道水を詰めているペットボトルだ」
それは確かに2011年度版であった。
あぁ、こんなに他人のフリをしたくなったのは久々だ。
その後も我が6年1組は破竹の快進撃といか、独走というか、ランを決めて見事優勝を果たしたのだった。
リレーとか1周差だったし。
こうして波乱の運動会も終わった。
結果としては、
兄さんと織火の仲がよくなった。
兄さんとイリヤの仲がよくなった。
織火とイリヤの仲が微妙になった。
イリヤと咲の仲が最悪になった。
イリヤと私の仲が悪くなった。
織火がコソコソと何かを始めた。
フフフ、恐ろしく仲が悪いわねウチの部活!
運動会完結!
最後は走り気味に終わらせました。
バスケ成分が……ない……
次回からバスケしますよバスケ!
どうしてバスケを書きたくなったかというと、オリンピック効果ですね。
今日のドリームチームの初戦を見ました。
レブロン、コービー、デュラント、クリスポール、チャンドラーですか。
しかも控えにウェストブルク、カーメロ、ハーデン、ラブですか。
もはや隙なし。
でもフランスも頑張っていたんです。
パーカーはやっぱり強かった。
ノアがいれば……ノアがいればもっと戦えたんだ……
もうスペインに期待するしかないですね。




