戦場の馬鹿
押して
投げて
吹き出して
配点(隊育災)
side沢木
「位置について」
実行委員の掛け声とともに、俺はスタートの構えを取る。
「よーい」
集中力を極限まで高める。
発砲音とともに俺は体を前に飛ばす。
よし!妨害されなかった!
これは勝ったな!と思って余裕で後ろを見てみる。
3年生が1年生を蹴り飛ばしてコースから除外していた。
1年生失格。
ええええぇぇ!?
アリなの!?
失格にするのはアリなの!?
そこまでやっちゃうの!?
驚きながら前を見る。
バトンゾーンで乱闘が起きていた。
第2走者に柔道部を置いていた3年生の2クラスが無双している。
他のクラスの第2走者をブン投げてコースから弾いていた。
次々失格となる下級生。
植松はバトンゾーンで逃げ回って、なんとか生き延びていた。
「1年来たぞ!」
「潰せッ!」
不穏な叫び声とともに先輩たちが襲い掛かって来る。
アリなのか!?
そこまでやっていいのか!?
というか忍者関係ねぇよ!
忍んでねぇよ!?
俺は柔道部の先輩2人をかいくぐり、2年のラグビー部のタックルをギリギリでかわして植松につないだ。
同時に周りの先輩方に打撃を加える。
こちとら軍家の沢木だっつうの!
しかし更なる打撃を加える前に先生にコースの外に吹っ飛ばされた。
植松はすでにコースの半分以上を走っている。
勝ったな!
先輩方は最初に殴り合っていたぶん出遅れていたのだ。
今になってようやくバトンリレー。
遅いわ!
「1年に勝たせんな!」
「やっちまえええ!」
そこでさらに不穏な叫び声。
バトンをもらった3年の柔道部が、バトンを投げた。
そりゃもう、普通に投げた。
投げられたバトンは見事に3走者がいるバトンゾーンに落ちていく。
キャッチ。
走り出した。
「「「「「ええええええぇぇぇ!?」」」」」
1年生が驚愕の声を上げる。
いいの!?
ねぇ、いいの!?
リレーなのに走ってないよコイツら!?
しかも第3走者からはサッカー部などの俊足だった。
4人で行う忍者リレー。
この差は絶望的だ。
「かまわん!投げろ!福井!」
俺は第3走者の福井に声をかける。
福井はうなずいてバトンをブン投げる。
それは上手く向こうのバトンゾーンにおちていく。
しかしそれをキャッチしたのはもう1クラスの2年生だった。
そのままバトンをコース外に投げ捨てる。
「ああっと!ここで1年生が脱落!1年生全滅だあああ!!」
実況のアナウンスを聞いて悟る。
3年生には勝てない。
さて、忍者リレーも終わった。
それから普通のリレーや2人3脚があったのだが、全て予選落ちした。
だって陸上部短距離が出てくるんだもん。
インハイで優勝しているメンバーだぜ?
勝てるわけない。
そして午前に残されている競技はあと1つだけだ。
ピラミッド早作り
浦高体育祭でもっとも意味不明な競技である。
ルールは簡単。
参加人数は20人。
10人ずつで分かれて4段のピラミッドを作る。
作る場所は決められていて、そこはピラミッド1つしか入らない大きさになっている。
制限時間2分で、どれだけ多くのピラミッドを作ることができるかという勝負だ。
朝にちょっとやってみて分かったのだが、下の奴はとにかく痛い。
2分間苦しみに耐えつづけるという競技だ。
これ、見てるほうも辛いんじゃねぇの?
この競技は1年、2年、3年の順で行われる。
参加人数が多いのでいっぺんにできないからだ。
「よっしゃあ!お前ら行くぞ!」
「「「「「押忍!」」」」」
俺の声にみんなが応える。
まぁぶっちゃけ、この競技であまり差はつかないだろう。
朝やってみたら10秒で1個つくることができた。
これなら十分だ。
俺達は門から入って、ピラミッドを作る場所の前に立つ。
みんなが位置についたのを確認した実行委員は、ピストルを天に向ける。
「よーい」
パァン!
という音が鳴り、俺達はピラミッドを作りはじめる。
1段目、2段目、3段目、飛び乗ってハイ解体
リズミカルだ。
テンポよく刻んでいく。
俺の感想としては、痛い、痛い、痛い、痛ぇ!
って感じだ。
周りを見回すと他のクラスを圧倒していた。
2倍ほどの差をつけている。
そのまま2分、ほとんどペースを落とさずにピラミッドを作りつづけた。
「よっしゃあ!よくやった!」
「これは勝ったな!」
「よくやったぞ!」
「圧勝だな!」
そんなことを言いながら退場する。
それと入れ替わるように2年生が入ってくる。
見たかったが、席に戻るまでに2分が終わっていた。
席に戻ると2年生は退場していて、3年生が入ってきた。
やはり井上先輩も部長も参加している。
さて、どんなものかな?
お手並み拝見と行こう。
「よーい」
パァン!
ピストルが鳴ると同時に、ピラミッドが完成していて、既に1番上の人は飛び降りていた。
……は?
波が引くように解体し、次のピラミッドが作られる。
2秒で2段目までが完成すると同時に上の人が飛び乗り3秒目で飛び降りて解体までが完了していた。
……3秒で1回?
周りのみんなも唖然として声が出ない。
なんでこんなに早いのか。
よく観察してみる。
まず、下の奴が手で踏ん張っていない。
腕全体で体を支えるようにして、極限まで体を低くしていた。
あれは……超低空DOGEZA!
より謝罪の意を表すために極限まで体を押さえ込むDOGEZAだ。
2段目の奴は1段目の奴の肩に手を置いていて、1段目がDOGEZAをするとそれに引っ張られるようにしてDOGEZAをしていた。
3段目も同様。
ほとんど同時に3段目まで完成しているのはこういうわけだったのか。
そして上の人は、DOGEZAが完成する前からスタートを切っている。
そして1段目、2段目に足をかけることなく一気に一番上に飛び乗るのだ。
そして飛び乗ると同時に飛び降りている。
1番下の奴がDOGEZAを解除して一気に解体する。
めちゃくちゃ低いピラミッドだった。
そう。
しっかり作れなんて書いていない。
どれだけ汚くても作ればカウントされるのだ。
「……」
そのまま3秒1回のペースは崩れない。
俺達はこの競技だけで3倍以上の差をつけられた。
昼休み
「フフフ、兄さん。こっちよ」
「お前、ずっと見てたのか?」
昼休みに入ると同時、喜美に呼ばれた。
お昼ご飯を持ってきたらしい。
ついて行ってみると、涼しい木陰にスペースを取っていた。
「よくこんな場所が取れたな」
「フフフ、ちょっと説得してやっただけよ」
周りを見回すと、ガクガク震えてこちらを見る人達。
何してんだコイツは。
「はい、お疲れ様兄さん」
笑顔で水筒を渡された。
「サンキュー。今日は優しいな、喜美」
感謝の言葉を述べて水筒に口をつける。
瞬間、吹き出した。
「マッスルドリンクじゃねぇか!」
「貴方の体に元気を注入。マッスルドリンクよ」
「今日は一段と容赦ないな!」
「フフフ、私の好意をありがたく受け取りなさい」
「いらんわ!」
クソ……まさかマッスルドリンクとは思わなかったから思い切り飲んじまった。
「まさか弁当までマッスルドリンク味みたいなことになってねぇだろうな?」
「そこまで酷くないわよ」
喜美が鞄から取り出した弁当は煮物が詰まっていた。
煮物って手間がかかるんじゃなかったっけ?
ありがたいなぁ。
「ええ、普通のスポーツドリンク味よ」
吹き出した。
「マズッ!なんて味だ!こう、酸っぱさの中に妙に甘ったるいものがあって、しかも生温かくて」
「ゲロ味ね」
「なんで言葉濁してやったのにお前がストライク取りにくるんだよ!?」
「言っとくけどこれ、イリヤも参加してるわよ?」
「俺は一生この料理を食べなければいけないのか……」
「結婚したくなくなったかしら?」
「結婚したいです。料理は俺担当になりそうだけどな」
「まぁ沙耶が『コーチの弁当?なんか入れようよ!』ってなって沙耶が砂糖バンバンいれて、
イリヤが『それじゃ甘くなっちゃうよ!』ってお酢をバンバンいれて、
咲が『壮は運動会?だったらスポーツドリンク』ってドボドボ入れて、
織火が『このノリだったらいいですよね。片栗粉でも入れましょうか。とろみがついて再現度高くなりそうです』
って片栗粉入れまくって
最後に私が『だったら色まで再現ね!』って言ってコーンスープ入れて作った液体に食材放り込んでグツグツ煮たのよ」
「お前ら全員が犯人だったのかよ!」
しかもイリヤと咲に悪気がなかったことが恐ろしいよ!
確信犯なぶん、織火と喜美のほうがマシかもしれない。
「兄さん、食材に贖罪しろとか寒いネタ禁止よ?」
畜生、先に言われた……
「というかぶっちゃけこれどうすんの?俺にゲロを飲み干せと?」
「ちなみに私、来る途中のイレブンセブンで弁当買ってきたから」
「自分は逃げる気満々だな!」
「大丈夫よ、兄さんのぶんも買ってきたから。その弁当の処理は私に任して頂戴」
「あぁ……天使が見える……天使が見えるぞ……!」
「フフフ、自分の悪戯の始末くらい自分でつけるわよ」
喜美もずいぶん成長したもんだ。
「兄さんのクラスメイトは……あ、いたいた」
さらば友よ。
代わりに犠牲になってくれ。
「ねぇ。ちょっといいかしら?」
「お?沢木の妹さんじゃん!どうしたの?」
「えっとね……みんなお腹空いているかなって思って、お弁当作って来たんだけれど……やっぱり迷惑だったかしら?」
「「「「「いただきます!」」」」」
見た目にコロッと騙されたバカ共は喜美が恥じらいながら渡した弁当箱をいそいそと開けて、大きく口を開けてそのごった煮を頬張った。
瞬間、全員が吹き出した。
「マズッ!」
「あ……ご、ごめんなさい!」
「っくない!まずくないよ!うん!」
「そうだぜ!ぜんぜんまずくない!嗚呼、なんて個性的な味なんだ!」
「まずくない……まずくない……!」
途中から自分に言い聞かせてないか?
「よかった!みんなのために頑張って作ってきたから嬉しいわ!」
「「「「「ボクモウレシイヨ」」」」」
「いっぱい食べてね!」
喜美がトドメの笑顔でごった煮をバカ共の口に叩き込む。
そして帰ってきた。
「どうよ!」
「罪な女だよ、お前は」
自分の美貌の使い方を分かっているから恐ろしい。
「フフフ、私が本気を出せばどんな男もイチコロよ?」
「兄はお前の将来が恐ろしいよ……」
末は詐欺師か弁護士か。
詐欺師のほうが似合いそうだな……。
そんなふうにじゃれあいながら昼休みは過ぎて行った。
午後からは決勝シリーズと学年種目、そして最終種目。騎馬戦しかない。
予選落ちした1年生には関係ないのである。
そしてついに始まる学年種目。
このときを待っていた。
軍家の名門、沢木家の面目躍如。
必殺の秘策を見せてやるぜ!
体育祭に必ずと言っていいほどある意味不明な競技。
皆さんはどんなのがありましたか?




