西国の天才
弱点がないのは
弱点だよね
配点(天才対決)
side沢木
俺達は少女の案内で『学校見学』をしていた。
「一応少しは回っとかなアカンみたいやから。ここが校舎な?で、こっちがトイレ。そこ水呑場。ハイしゅうりょー!」
「だからテキトー過ぎるだろ!」
「はいはい」
愉快な奴ではあるんだよな。
「名前は?」
「琴美や。楽器の琴に美しいな?アンタが壮なんやろ?」
「俺が沢木壮だけど」
「チッ、二度ネタのフリしてやったのに……」
「厳しくないっすかねぇ!?」
「まぁええわ。私、アンタのファンやしな」
「「「「「え?」」」」」
それに驚いたのは俺ではなく蓮里5人のほうだった。
「兄さんのファンとか……頭大丈夫かしら?」
「喜美、外見だけならファンになるかもしれません。プレー見ていても性格まではわかりませんから」
「フフッ、どうして京都ではイリヤの敵が多いのかな?」
「壮のファン、初めて見た」
「いつも恨まれているからね、コーチ」
ええ、ええ!その通りですよ!
「なんか猿みたいで可愛いやん」
「俺、そんなに猿に似てるかな……」
けっこうショックであった。
「それにアンタのプレースタイル、尊敬しているんや。あの、選手全員が俺のおかげで勝てたってやつ」
「そういえばインタビューでそんなの答えたことがあったなぁ」
「プレーも派手やから見てて面白いしな」
「そりゃどうも」
「この練習試合終わったらちょっと付き合ってな?」
「イリヤ!イリヤ!ここで抑えましょうここで!」
「今のはそういう付き合ってじゃないわよ?イリヤ」
「織火どいてソイツ殺せない」
「「「「「ひぃっ!」」」」」
何しているんだ、こいつら。
「ま、軽く相手してやる」
「っしゃあ!ありがとうな。お礼にデートでもしてあげよか?ここら辺案内するで?」
「沙耶!ちょっと手伝ってください!このままだと身内から殺人鬼が!」
「もう、イリヤ!いい加減落ち着きなさい!」
後ろのほうが騒がしいな。
離れて眺めてみるとよくわかる。
うるさいな、ウチの部活。
そんなこんなで学校見学も終了し、いよいよ部活見学となった。
「「「「「ちーっす!!」」」」」
「「「「「チュース!!」」」」」
おぅ!?
さすが関西最強と言われるだけある。
こんにちはアタックが効かないだと!?
「あー!琴美キャプテン!なんでキャプテンが案内しているんですか!」
「いや、私壮と話したかったしなー」
「私も話したかったです!ずるいですキャプテン!」
「安心し、試合終わったら一緒に練習してくれるみたいやから」
「「「「「やったー!!さすがキャプテン!!」」」」」
なんか話が盛られていないか?
「ようこそ、沢木君。それに蓮里の皆さん」
「あ、先生。今回は無理言ってすいません」
「いえいえ。どうしてもやりたい、ということでしたから。それに沢木君の頼みですからな」
顧問のオッサンと話し合う。
細かいことまで確認して俺はみんなのところに戻る。
5人は既に着替えてアップも済ませ、準備万端の様子であった。
side喜美
「いいか、相手は桐生院だ。さっきも言ったが、これまでの相手とは格が違う。言っちゃ悪いが、栄光と一緒にするな」
「「「「「押忍!」」」」」
「桐生院はファストブレイクを得意とする超攻撃型のチームだ。どうすればいいか、わかるな?」
「フフフ、それ以上に攻撃する、でしょ?」
わかりきったことを聞く兄だ。
「そうだ。ある程度のプランは織火に伝えてある。織火、頼む」
「はい。桐生院は5人全員でのオフェンスを使ってきます。でも決定力がないわけではなく、ここぞというときはキャプテンの琴美が決めます。もっとも厄介なチームですね」
「じゃあ私が琴美を止めるの?」
「はい。マッチアップは普通に行きます。相手はかなりアップテンポで来るでしょうから、こちらも速攻を多用します。リバウンド取った瞬間に全員走ってください」
「桐生院がオフェンスを成功させたら?」
「その時はハーフコートでじっくり攻めます。サイン決めておきますよ」
そしてサインの確認をする。
最近は試合をやっていなかったらウズウズしていたのよね。
初っ端桐生院とか、最高ね。
全力をぶつけて問題ない相手だわ。
「お前らッ!」
「「「「「押忍」」」」」
「相手がどこだろうと関係ねぇ!」
「「「「「押忍!」」」」」
「勝つのは蓮里だ!」
「「「「「押忍!」」」」」
「全力だ!全力で潰せ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
「蓮里!」
「「「「「ファイットオオオオオオ!!」」」」」
試合開始
1Q
ボールが上がり、沙耶が弾いた。
沙耶の身長に勝てる者は世界広しといえどもそういないらしい。
だが相手も相当肉薄したのでボールが危なっかしく飛び、咲がギリギリで確保。
私とイリヤはその時点で走り出した。
「喜美ッ!」
咲の言葉に私は走りながら振り返り、ボールを呼ぶ。
琴美がそれに気づいて寄ってきた。
私はそれを振り切るように加速する。
咲はそれを見て、ノールックでイリヤにパスした。
織火ほどではないが、咲もガードとしてかなりの素質がある。
トリッキーなスタイルなので読みにくい。
イリヤへの縦パスがあっさり繋がり、そのまま決めに行く。
唐突な速攻に、しかし桐生院は反応した。
「マーク!」
「オッケー!!」
リングに向かうイリヤの前にギリギリで出る。
しかし、イリヤがそこで更なる加速をぶち込んだ。
さすがにこのスピード差に反応することはできなかった。
イリヤは相手にぶつかるギリギリのところをすり抜けて抜いた。
そのままレイアップを決める。
「オッケー!ナイスイリヤ!」
「ガンガン行きますよ。どんどん回していきます!」
「イリヤ、ナイス」
「サンキュー咲!」
さすがイリヤ。
切り替えは素晴らしい。
「速攻!」
「!?」
しかし、桐生院はそこから速攻を仕掛けてきた。
ガードが無理矢理に切り込んできた。
織火、イリヤのディフェンスを同時に受けるが、それでも体を当てて強引に行く。
織火とイリヤが止めた。
しかし、
「こっち!」
外の琴美にパスアウトしてきた。
「来なさい」
「行くで」
目線を交わしあい、激突する。
肩を入れてパワードリブル。
そのまま強引に押してくる。
私はそれを受けて立つ。
「……そこ!」
琴美が一際強く押して、私を下がらせた。
その空間を利用して琴美がシュートフォームに入る。
速いわね!
シュートフォームを作るまでの時間が異様に速い。
「っと、ホームならこんなもんやな」
放たれたシュートは綺麗に決まった。
決まったら、ハーフコートで。
織火は宣言通りゆっくりと上がる。
織火がサインを出す。
咲に打たせる。
全員が了解して頷く。
沙耶がスクリーンに入り、咲のマッチアップ相手を落とす。
咲は走りながら織火からのパスを受け取り、その場で一瞬タメを作る。
前から相手が飛び掛かってくるのをまったく気にしない様子で、3pシュートを決めた。
「っし!」
「おっしゃあ!いいぞ咲!」
「いいわ!最高ッ!」
「咲、ナイス!」
「サンキュー」
「なるほどなぁ、ならもう1回や」
次のオフェンスは琴美からのフォワードへのパス。
イリヤが抜かれて、レイアップで決められた。
もうすでに殴り合いの様相を呈している。
side沢木
こちらのオフェンスがもう1度決まり、桐生院がタイムアウトを取った。
「壮!」
咲が今まで見たことがないような真剣な顔で言う。
「今日は調子がいい!」
「みたいだな、織火」
「わかってますよ。咲を中心に回していきます」
織火も納得し、全員に伝える。
「ここ、こうしてから咲が抜け出してください。そこにパス出します」
「わかった」
「確かに咲中心で行くけれど、行けたら行くわ。イリヤ、沙耶、いいわね?もともと私たちがポイントゲッターなんだから!」
「わかってるよ!」
「咲、思いっ切り打ちまくって!私が全部取ってやるから!」
「壮!見てて!今日は壮のために打つ!」
「フフッ、試合中は不問にしてあげる」
イリヤも割り切れるようになってありがたい限りだ。
モチベーションは高く、コンディションは最高だ。
「っしゃあこのままランで圧勝すんぞ!」
「「「「「押忍ッ!」」」」」
side咲
今日は調子がいい。
絶好調だ。
これまでにないほど絶好調だ。
理由ははっきりしている。
昨日のことがあったから……
壮が、私を助けてくれた。
私が壮を利用したにも関わらず、壮は私とお母さんを助けてくれた。
ホテルの前で私を叱って、でも、私を撫でてくれたその手は優しかった。
あんなに嬉しい気持ちになったのは初めてだ。
こんなに誰かに対して感謝したのは初めてだ。
きっと、これが好きってことだ。
これが愛に違いないのだ。
壮はイリヤが好きで、イリヤは壮が好き。
そこはどうしようもないと割り切った。
でも、愛情を向けるだけなら問題ないはずだ。
だから今日、壮のために打とうと決めた。
昨日の感謝の意味を込めて打とうと思った。
そうしたらどうだ。
完全にゾーンに入っている。
落とす気がしない。
どこから打っても入るイメージしかできない。
どれだけプレッシャーをかけられても、その上からシュートを決めるイメージしかできない。
つまり、絶好調だ。
「咲ッ!」
織火からボールが飛ばされる。
あらかじめ決めておいた位置。
そこで受け取り、一瞬でシュートフォームを作る。
ありがとう
壮に感謝の念を込めて放つ。
「取った」
「ックソ!」
打った瞬間決まることを確信した。
それを確かめるようにボールがリングを射抜く。
ありがとう
私はリングにも軽く礼をした。
「咲!絶好調ね!」
「打ってけ!突き放すぞ!」
「他は私たちに任せておいて」
「咲、アンタが勝負を決めなさい!」
喜美の言葉に反応する。
私が勝負を決める……?
面白そう。
「いいぞ!咲!」
壮の声が聞こえる。
好きな声だ。
「……うん!」
頷いて、前を見る。
今日は私が主役を貰う。
side沢木
「なんや賑やかやなぁ。混ぜてぇな」
再びの3pシュート成功にも桐生院は動揺した様子はない。
「行くで」
桐生院は琴美にボールを任せた。
ここはエースが取る場面だ。
しかし、こちらにもエースはいる。
「来なさい。アンタなら、本気を出せるわ」
「ナメとるなぁ」
琴美がニヤッと笑い、突っ込んできた。
速さはない。
しかし、上手い。
技術がハンパではない。
「っと、流石に……!!」
あの喜美が圧されている。
右に、左に。
ユラユラと揺れ、喜美の体幹を揺さぶる。
そしてクロスドライブ。
喜美が苦手な技だ。
普通なら反応できないような高速のフェイントにも喜美は反応してしまう。
フェイントというのは、0.2秒以下では意味がない。
あまりにも早過ぎると相手がフェイントに引っ掛かる暇さえなくなる。
しかし喜美はそ0.2秒以下に反応できてしまえる。
俺が危惧していた、天才故の弱点。
琴美は僅かな時間でそれを見破っていた。
おそらく、同類だからだろう。
琴美のプレーからはずば抜けたセンスが伺える。
「しまっ!?」
「取りや」
喜美がその一瞬のフェイントに反応してしまい、崩された。
琴美はその一瞬を見抜いて抜き去る。
「っと、こんなもん?」
「……いいじゃない。面白いわ」
決められて、しかし喜美は笑う。
「織火、私が決めるわ」
「はいはい、行ってください」
織火からボールを託される。
喜美はそのまま1人で上がり、琴美とぶつかる。
「お返しと行くわ」
「さて、どんなもんや?」
喜美が唐突に切り込む。ベースラインに沿って行く動き。
押さえ込まれる恐れがある危険な位置取りだが、躊躇せず突っ込んだ。
「マーク!」
「オッケー!」
喜美の前を塞ぐように相手センターがディフェンスに入る。
喜美はそれにぶつかりに行くように飛んだ。
琴美が右からボールを奪おうと手を伸ばすが、喜美はそれを空中でかわした。
そして空中でセンターにぶつかる。
ボールをセンターから離すようにして、そこから手首のスナップだけでボールをほうり込む。
リングに跳ねて、しかし決まった。
「……オフェンスに関しては化け物やなぁ」
「ディフェンスも、よ。次は抜かせないわ」
喜美がうそぶいて戻る。
「喜美……よく決めましたね」
「すごい……」
蓮里は喜ぶというより驚いていた。
まぁ喜美があそこまでの実力を出すのはあまりなかったからな。
相手の実力に応じてさらに自分の実力が上がる。
恐らく、今の喜美が本気だ。
試合は接戦で進む。
こっちが勝ってはいるが、後ろから常に追われるという非常に精神的にキツイものだった。
咲が完全にゾーンに入り、喜美も本気を出せている。
それでも食らいついて来るのが桐生院だった。
選手層が厚過ぎる。
相手の顧問が的確に運用している。
5人でパスを回す。
フリーの選手ができるまで素早く。
たとえ打てそうになっても、さらに有利な状況になるまで打たない。
パスを回し、ボールを動かす。
ボールが動きつづけている。
それは俺達も動きつづけなければいけないということで、必然的に体力も奪われる。
精神的にも削られる。
それに対して相手はパスを回すだけだ。
そこまで体力に負担はかからない。
そしてここぞというとき、琴美がドライブを仕掛けて来る。
喜美との1対1で抜いて決める。
これが関西最強、全国ベスト4の実力か……!




